軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85 あのとき怒りに身を任せた自分が憎い

「ディディエ。話を戻します。騎士団の設立の件ですが、あなたの助言がほしいの」

ディディエは、「承知しました」と言うと、スッと背筋を伸ばして、優しげな、それでいて真剣な眼差しを私に向けた。

「早速ですが、マルティーヌ様」

「何かしら?」

「あまり大袈裟に『騎士団の設立』などとおっしゃらない方がよろしいかと。代替わりされた途端に騎士を集められたとなれば、よからぬことを企んでいるのではないかと、痛くもない腹を探られることになりかねません」

「そ、そうね」

「領主の護衛が一人というのは普通では考えられないことですので、屋敷の警護とマルティーヌ様の護衛として、五、六名の騎士をお側に置かれたことにされてはどうでしょうか。先ほどおっしゃっていた市中の見回り役も、とりあえずは二名程度で始められては……?」

こんな少女が野望を抱くなんて誰が考える? ――と思ったけど、ここは前世ではなく今世の常識で考えなくちゃ、だね。

うーん。なくもないってところなのかなぁ。

あーやだやだ。お金があって暮らすのに不自由しないなら、馬鹿なことなんて考えずに幸せに暮らせばいいのにね。権力ってそんなにも美味しいものなのかなぁ。

「他領や王宮から色々と勘繰られるのは本意ではないわ。ひとまずはそれくらいから始めましょうか」

「はい。それがよろしいかと。ちなみに後見人のフランクール公爵はどのようにお考えなのでしょうか?」

……へ? ……あ!

三大改革の話は最初にプレゼンしたけど、プラスしたKOBAN構想や騎士団の設立については話していなかったような……?

まぁ手紙で聞いてみるか。「聞く」というより、「報告――からの相談」になるのか。

私の顔色から未報告だと察したようで、ディディエが気まずそうに目を逸らした。

もうバレバレなんだけど、一応領主としての面目があるから精一杯強がって見せた。

「そうね。公爵閣下のご意見も拝聴しておきたいわね。手紙でお尋ねしてみるわ。あなた方は移動の疲れが残っているでしょう? しばらくはゆっくりしてちょうだい」

「ご配慮に感謝いたします。マルティーヌ様」

冷や汗はかいていないと思うけど、笑顔はこわばっていたかもしれない。

レイモンは、私が目配せするまでもなく、ディディエとマークを応接室の外へ出してくれた。

はぁぁぁ!

公爵へ報告かぁ。手紙を書かなきゃ………………うわぁーーーーー!!

やってしまったーー!!

何で!! どうして固いパンなんて持たせた!?

こういうことがあるから、覚えをよくするために甘いものを貢ぎ続けてきたんじゃなかったの!

私の馬鹿!! 馬鹿!!

いっときの怒りに身を任せて、公爵との良好な関係にヒビを入れてしまうなんて……。

一瞬で台無しじゃないの!

だいたい、私が腹を立てたのはギヨームであって、公爵じゃないのに。公爵は関係ないどころか、庇ってくれたのに!

うぅぅぅ……。

そうだ、レイモン!

もしかしたら、レイモンは命令に従う素ぶりを見せながら、陰でそっとお菓子を渡してくれていたりしない?

サッシュバル夫人がいたら、とっくの昔に注意されているような百面相をしていた私は、希望の光を見つけた気がして、レイモンに尋ねた。

「ねえ、レイモン? この前、公爵閣下をお見送りするとき、お土産を渡したと思うのだけれど、いつもの焼き菓子を渡してくれたのかしら?」

あちゃー。レイモンは私の意図を図りかねて困惑している……。

「その際はライ麦パンを渡すようにとの仰せでしたので、そのようにいたしましたが……?」

「そ、そうだったわね。そうは言ったけれど、もしかしたらいつも通りにお土産を渡したのかと思って――」

レイモンはひどく傷ついた様子で静かに反論した。

「主人の言いつけを破って独断で勝手なことを為すのは己の分際を弁えない越権行為です。私は決してそのようなことはいたしません。進言したきことがある場合は、必ず事前に申し上げます」

で、ですよねー。

「レイモン。ごめんなさいね。冗談が過ぎたわ。もちろんあなたのことは信用しているわ。どうか今私が言ったことは忘れてちょうだい」

「マルティーヌ様。私の方こそ取り乱してしまい申し訳ございません」

「う、ウホン。まあ、よかったわ」

あっぶな。レイモンはやっぱり忠実な家令だった……。

くぅぅぅ。

仕方がないので、私は腹を括って歯を食いしばりながら公爵へ手紙を書いた。

『――この先も、リュドビク様が我が領地においでになることがあるかと存じます。パトリック様の身に起きた事件のこともございますので、市中の治安維持は喫緊の課題と認識しております。 街中(まちなか) に騎士の活動拠点を設け、定期的に巡回させれば少しは犯罪抑止に繋がるのではないかと考えたのですが、いかがでしょうか。また周囲からは、私自身の警護や屋敷の警備に、もっと人を割くべきだとの声が上がっております。幸い、祖父の代から仕えてくれている者らがおりますので、まずはその者らに任を与えて、不足する数名(見習い候補を含む)を騎士として採用したいと考えております。以上の通りですが、リュドビク様のお考えをお聞かせいただきたく存じます――』

最後の最後にちょっぴり、「あーそう言えば……」的な感じで、「お土産として渡すはずの焼き菓子が厨房に残っていたので渡し忘れていたかも?」と、何かの手違いのフリをして、ライ麦パンのお詫びの言葉を添えておいた。

いつものようにお菓子を引き取りに来たフランクール公爵家の使用人――私的には手紙の配達人なんだけど――に大量のマカロンと共に公爵宛の手紙を託した。

なお、念のためパトリックにも、『助太刀求む!』の手紙と共に、同じく大量のマカロンを添えた。