軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

86 騎士の採用試験って?

公爵から返事がくるまでの間、アレスターとディディエとマークは、毎日、運動をして剣を振るっていた。

部屋をもらえるだけ有り難いと、空いている使用人部屋に住みついている。

彼らのおかげで、私が屋敷内にいるときは、つきっきりの護衛は不要ということになったらしい。リエーフも嬉々として三人に交じり訓練をするようになった。

余談だけど、リエーフの着ている制服をアレスターが揶揄ったため、リエーフが制服を着ることに難色を示していると聞き、問答無用で新参者の三人にも同じデザインの服を着せた。

ふんっ! こればっかりは譲れないからね。ただ、色はダークブルーに変更したけど。

リエーフに合わせて作った白は、激しい運動をする前提じゃなかったからね。

それと、やっぱり上着って動きづらいようだから、上着を脱いでもきちんと感が出るように、カシュクールシャツを大量に作って四人に渡した。

これにはディディエとマークの親子がとても喜んだ。よしよし。おしゃれがわかる親子で嬉しい。作った甲斐があるというものよ。

公爵が何て言ってくるかわからなかったけど、もう来てしまった三人は雇うほかないから、人数が変わるだけのことだと思って、「騎士団の設立」→「騎士の採用」について考えていた。

一応、採用人数はやっぱり十人にしたい。かっこ希望ということで。だってどうしたって熟練度の差があるだろうから。

アレスターやディディエが知り合いの騎士を呼び寄せてくれるかもしれないけれど、やっぱり領内の若者も騎士見習いとして数名は採用しておきたい。

「マルティーヌ様。そろそろディディエ様がお見えになりますので、お茶をお持ちしますね」

「ええ。プリンを選んだのですって?」

「はい。意外でしたね」

「そうね」

そう。今日は休講日。ディディエをお茶に招いてある。

初日はバタバタしてしまったが、翌日にはちゃんとアレスターたち三人を正式に午後のお茶に招いて、サッシュバル夫人にも紹介したのだ。

その席で三人は口々にお菓子の美味しさを褒め称えた。いや――二人か。

アレスターは、「美味い美味い」とは言っていたけど、ひたすら爆食いしていたから、本当に味がわかっているのか怪しい。

見かねた夫人が、「あらまあ。お菓子とはいえ、あまり食べすぎるとお腹がもたれますわよ?」(訳:お腹いっぱい食べるものではありません!)と注意したくらいだ。

一応アルマには開発したお菓子類は、新参者の三人にも折々に出すように言ってあったので、そろそろ一巡したかな? と思って、今日のお茶に誘う際、気に入ったデザートをディディエに尋ねたのだ。

まさかプリンとは思わなかった。私の予想では、「何でもいい」だったから。

トントントンと、なぜだか礼儀正しく聞こえるノック音の後、「マルティーヌ様。ディディエです」と、いつもの穏やかな声が聞こえた。

「どうぞ」

私の部屋に入ってきたディディエは、日に焼けた体にブルーのシャツを優雅に着こなしている。おっしゃれー! 顔だけ見ると優男に見えるのに、胸筋がパンパンだね! このイケオジめ!

ディディエは一礼をしてから私の向かいに座った。すかさずローラがお茶を出す。

ディディエの視線が、ローラの手元のプリンから離れないところがちょっと可愛い。これで「待て」はないよね。

「今日もアルマが張り切って作ってくれたのよ。まずはいただきましょう」

「はい。マルティーヌ様」

ディディエの相好を崩す様子を堪能しながら、私もミディアムサイズのシュークリームをいただく。リクエストするときって、気がつけばシュークリームばっかりだな……。

食いしん坊は食べ終わるまで余計な言葉を発さない。まさかのディディエもそのタイプだった。私たちは目だけで、「美味しいです!」「でしょう?」みたいな会話をして食べ終えた。

一息ついて、ディディエも余裕たっぷりな様子。これならじっくり話を聞いてくれそう。

今日は騎士の採用関連で必要な作業を整理したいのだ。

「ねえ、ディディエ。騎士の採用に関して具体的に詰めていきたいの。やれることはすぐにでもやるつもりよ」

「かしこまりました。もうフランクール公爵からお返事がきたのですか?」

うぅぅ。きていません。

「まだだけど、あなたたちを追い出せというほど非情な方ではないし、護衛騎士が不足していることは事実だから、採用人数はさておき反対されるとは思えないの。まあ反対されたら反対されたで、みんなと一緒に対応策を検討すればいいわ。それまで何もしないのももったいないから、出来ることを確認したいの」

「承知しました。マルティーヌ様は合理的な方なのですね。その外見からはとても窺い知れない大人顔負けの思考――いやはや、感服いたしました」

そ、それは、どうも。でも合理的っていうよりも、せっかちなだけだと思う。あんまり褒めないでよね。真に受けちゃうよ。

「それでは、採用する騎士の人数は当初予定していた通りで検討を始めましょうか」

「ええ。アレスターは本人の申告通り、表向きは引退扱いにしようと思うの。あなたとマークはフリーで、オホン。ええと、役割を決めずに自由に動いてほしいから、必要な人数に入れないことにしたの。だから私の護衛としてリエーフの交代要員に一名追加と、屋敷の警護に四人、市中の見回りに二人の合計七名ね。これが即戦力。あと、騎士見習いとして領内の若者を数名採用したいのだけれど……」

「そうですね。見習いを育てるにも人員は必要ですから、まずは二人ほどでいかがでしょうか。それと確か、市中の見回りは世帯持ちがいいとのことでしたね」

ディディエの声が心地よくて、なんだかほわほわしちゃう。集中、集中!

「見習いですが、マルティーヌ様の護衛ですから、いずれは女性も一人採用したいですね。将来の女性騎士として。もちろん、今回即戦力として採用する中にも必要ですけれど」

お! 女性騎士か。格好よさそう。当てがあるのかな?

「いいわね! 大歓迎だわ! でも――女性騎士に限らず、うちの領地に来てくれる方が見つかるかしら?」

「それほど心配はないかと思いますが。最悪の場合は、先々代にお仕えしていた騎士を当たればよろしいかと」

え? それって、第二、第三のアレスターがやって来るんじゃないよね?

「ふふふ。大丈夫です。マルティーヌ様。アレスター様のような方は二人とはいらっしゃいません」

なぜ誇らしげに言うのか疑問だけど、まあそれならいいか。

「そ、そう。オホン。じゃあ次は、どうやって採用するかよね。特に見習いの二人を」

「ふむ。そうですね。平民からの採用をお考えですよね? まず、読み書きが出来ることはもちろんですが、一般的な教養も必要です。最低限、王都の学校を卒業していることが前提になりますね」

まぁわかるけど。理想はそうだよねぇ。

でも学園卒業後の進路に今までは騎士なんてなかったから、卒業後は皆とっくにそれぞれの道に進んでいるよね……。今更転職っていうのはどうなんだろう……。

「見習いの育成は急がないわ。私は来年から王立学園に入学するんですもの。卒業まで六年かかるから領地に腰を据えるのはまだまだ先の話よ。見込みのある者がいれば、就学前でも採用する方向で検討したいわ」

「かしこまりました。それでは、基礎的な体力、反射神経、行動力のある者を選別する方法を考えましょう。なお、性格はなかなか変わらないので、選別には明るく社交的な者をあらかじめ選んでおきたいですね。それと馬鹿では困ります。素早く現状を把握して対策を立てられる頭が必要です」

「そ、そう――ね」

あれ? なんだか採用条件、厳しくない? 欲張り過ぎな気がするんだけど。

「でも、最初から厳し過ぎるのも考えものだわ。合格者が一人も出ないようでは困るもの。選別試験は毎年でなくても定期的に、そうね――二、三年ごとにやりたいわね、都度、一、二名ずつ採用していくというのはどうかしら?」

「よろしいのではないでしょうか。私としては合格者ゼロでもよいように思いますが」

「最初の試験結果を見て、他の者の意見も聞きながら合格条件を擦り合わせたいわ。採用についてはひとまずこんなところね。騎士を採用した後のことを考えないと――」

ディディエはすぐさま反応した。

「馬の手配や宿舎のことですね。市中の見回り要員は中心街に住むのでしたか」

「ええ。そうしたいの」

「ふむ。馬については実際に見る必要がありますので、アレスター様か私がスチュワートグリーン辺境伯領まで赴いた方がよいでしょう」

おう。その名前なら私の暗記した貴族名鑑の引き出しに入っている。

「スチュワートグリーン辺境伯ね。公爵閣下の口利きも必要ね?」

「はい。いただけるなら有り難いですね。良い馬はなかなか得難いものですから。厩舎や宿舎は最低限のもので大丈夫です。手狭になってから増築を検討されても間に合います」

「そう。ではその辺は私に任せてもらおうかしら」

うん。どう考えても物入り。領地を改革するにはやっぱりお金が必要だわ。

あんまり得意じゃないけど、モンテンセン伯爵領の財務状況を把握しないとね。

決算書とかキャッシュフローとか、前世で勉強をさせられたけど苦手だったんだよねぇ。

あー! しまった!

公爵に、「ケチャップの代金はいらない」なんて言わなきゃよかったー!