軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

84 三人の騎士

さほどしないうちにレイモンが私を呼びにきた。

応接室で面会のやり直しだ。面会場所がホームでよかった。これがアウェイで知らない人だらけの中だったら、一人では立ち向かえずに泣いていたかもしれない。

「マルティーヌ様。アレスター様が中でお待ちです。もう落ち着いていらっしゃるので、先ほどのようなことはないかと。どうぞご安心ください」

「そう?」

レイモンが大丈夫というのならそうなんだろうけど、またすぐに興奮しちゃいそうで心配だなぁ。

部屋に入ると、三人の男性がドアのすぐ近くに立っていた。

なんか、見事なまでに平均的な三世代に見えた。祖父と父と息子っていう感じの。

「祖父」の方は見ちゃ駄目。

椅子に腰掛けて三人の方を見ると、アレスターがニヤッと笑った。

うわー。嫌な予感しかしないよ。

レイモンは自分に盾の役割を課しているのか、私とアレスターの対角線上に立ち、アレスターの視線をしっかりと遮ってくれた。

そしてアレスターを無視して、おそらく父と息子に向かって私を紹介した。

「こちらがマルティーヌ・モンテンセン伯爵です。皆様方の主人になられたお方です」

「うぉっほん!」と、特大の咳払いで視線を集めてから一席ぶちたいところだけど、本当にやると滑稽なだけなので、普通に挨拶する。

「どうかマルティーヌと呼んでください。先代があなた方にした無体な仕打ちについては、申し訳なく思います。それでもこうして戻ってきてくれたことに感謝します。本当に嬉しいです」

四十前後と思われる「父世代」の男性が一歩前に進み出た。それでもテーブルからはだいぶん距離がある。

「お初にお目にかかります――と言うべきでしょうか。マルティーヌ様。あなた様がまだ奥方様の腕に抱かれていた頃にご挨拶させていただいたことがございます。ディディエと申します」

えっ! そうなの?

「そうでしたか……。ではあなたが騎士の任を解かれたのは十年くらい前になるのでしょうか?」

「はい。十二年近くになるでしょうか……。その後ただの平民として各地を転々としておりましたところ、数年前にアレスター様と再会いたしまして、息子共々お世話になっております」

ちょっと待って。どうして領地を出て転々としていたの?

まさかと思うけど、追放に近い形で追い出されたの? それってあのゲス親父の気分を害するようなことを言ったせい? きっと諌めてくれたんだね……。

それにしても、急に「クビ!」って言われたら路頭に迷うよね。ほんと、申し訳ない。

あれ? 騎士って――潰しが効かない職業なのかな? あれかな? 浪人的なものになるのかな?

後でレイモンに聞いてみよう。

「それは――苦労をかけましたね」

「いえいえ。なんの。苦労などと、とんでもない。面白おかしく暮らしておりました。それよりも息子のマークを紹介させてください。マーク」

父に呼ばれた青年が、同じように一歩前に出てディディエに並んだ。

なるほど。父子だ。よく似ている。

二人とも金髪だけど、父親の方が少し濃くて、息子の方は色味が薄いというか透明感がある。

瞳の色は二人とも同じで紺に近い青色だ。少し紫がかっているかもしれない。

「マルティーヌ様。こうしてお目にかかる機会をいただけましたこと、誠に光栄に存じます。ディディエの息子、マークと申します。今年で十八になりました」

これっ。これだよ。領主に対する挨拶。

思わずアレスターを見たけど、やっぱり凶暴な熊みたいで怖い。見るんじゃなかった。

「マークはどこにいても、毎日欠かさず鍛錬を積んで参りました。腕の程はアレスター様も保証してくださるはずです。騎士の末席に加えていただきたく、親子揃って馳せ参じました」

ディディエが言うと全然親バカっぽく聞こえない。

落ち着いた耳あたりのいい声と、そのしゃべり方のせいだな。あるよねぇ、何故かはわからないけれど人から信頼される話し方って。

声が大きい訳じゃないのに、その人が話し始めるとみんな聞いちゃう――みたいな。

ふむふむ。ディディエの言うことならアレスターも聞いていたんだろうな。もしかして参謀役だったとか?

「それにしてもワシがモンテンセン伯爵の騎士とはのぉ!」

いい雰囲気だったのに、アレスターがぶち壊した。もう!

「マルティーヌ様――。お三方には私からマルティーヌ様のお考えを説明させていただいております。三人の意思も確認済みですので前置きは不要です」

今日はいい感じにレイモンが出しゃばってくれて助かる。

「ありがとう、レイモン。では皆さんは、騎士団の設立に力を貸してくださるのですね。市中の見回りなど、もしかしたら本来の騎士の仕事とはかけ離れたことをお願いすることになるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」

真面目な質問だからディディエに答えてほしかったのに、「ガッハッハッ」とアレスターが高笑いをしながら私に近づいてきた。

……え? えぇぇっ!

「アレスター様!」と、レイモンがアレスターの前に立ちはだかったものの、アレスターは虫でも払うかのような仕草でレイモンの体をひょいっと脇へどかせ、私の真ん前に来た。

「……な、な」

いったいどういうつもり? 何をする気なの?

「騎士が守るのは領主だけだなどと、誰に教わったんじゃ? 元より領民諸共守る気でおったわ!」

……お、おう。

「市中の見回りか! 面白いことを考える領主様じゃのう! 領民が安心して暮らせるようにするためじゃな?」

ま、まあ。はい。

「街中を馬で駆け回るのも面白そうじゃ」

ちっがーう!

ムンッと睨みつけたけど、アレスターはお構いなしに私の頭をわしゃわしゃと、犬の頭でも撫でるかのように撫で回した。

ちょっと! ローラが綺麗にとかしてくれた髪が台無しじゃないの!

違うからね! 歩きだからね! 馬で駆けるのは緊急事態のときだけだからね!

「あ、頭を――頭に触ることを禁じます!」

「ん? 嫌だったか! ガッハッハッハッ」

「もおー!」

ずっと我慢していたのに、令嬢らしからぬ言葉を発してしまった。

「や、やめてください。それから、色々とお聞きしたいことがあるので、よければディディエに相談したいのだけれど」

わざとアレスターを無視してディディエだけを見ていたのに、「ガッハッハッ」と、またしてもアレスターがその大きな顔面を私の顔の真ん前に持ってきた。

近い! 近すぎる!

「ううん? ワシのことが苦手かぁ? そうかぁ。それは残念じゃ。ちび領主の役に立ちたかったのになぁ」

「お、驚いただけです。少し――下がってください」

レイモンの、「うぉっふぉん!」という特大の咳払いが聞こえて、アレスターは、「ふん」と唇の端を上げて離れてくれた。

サンキュー! レイモン!

「ふぅ。も、もちろん、アレスターには以前と同様に騎士たちの長として、今後も――」

「いいや」

何で遮るかなぁ。領主様がしゃべってるんだよ?

そんな私の不満顔など気にもとめずにアレスターは口を挟む。

「新しい騎士団の団長はディディエじゃ。ワシはもう現役を退いた身だからのぉ。そうでなきゃ、勝手に出奔したことになるではないか!」

……は? あ……勝手に出奔したんですね……。

「で、では、指導役ということで、後進の育成をお願いできるかしら?」

「おう! 鍛えるのは得意じゃぞ! よぉしっ。久しぶりにリエーフに稽古をつけてやるか。ディディエもおることじゃし、リエーフを連れていっても大丈夫じゃな? なあに、不逞の輩がおったとしても、ワシらの姿を見れば忍び込む気も失せようぞ!」

……え?

私がポカンとしていると、アレスターは圧をかけるようにギロリとレイモンを見た。横顔しか見えないけど怖いよ。

レイモンも珍しくビクンと反応して、「よろしいのではないでしょうか」と答えた。

「そうか。じゃあ、おチビさんとはまた後でな!」

いやいや。ちょっと待って。

「アレスター様! 『マルティーヌ様』です。どうか、マルティーヌ様とお呼びください」

そう! 私もそれが言いたかった。

頑張ってくれたねぇ、レイモン。でもアレスターにすっごい睨まれている……。大丈夫?

「わかった。では、マルティーヌ様。リエーフをちぃとばかり借り受けるぞ」

「え、ええ。どうぞ」

「リエーフ!!」

なぜ部屋の中から叫ぶ? ドアを開けて廊下に出れば、そこに立っているのに。

そしてリエーフよ。なぜドアを開けた?

リエーフはご主人様の帰還に喜んで尻尾を振っている犬みたい……。アレスターに懐きすぎだよ。

でもまあ。これで落ち着いてディディエと話ができるわ。はぁ……。

アレスターが出ていってドアが閉まると静寂が訪れた。誰もしゃべらないと、これだけ静かなんだよね。