軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53話

聖騎士たちとの打ち合わせで数日村へ滞在することになったニコラウスは、疑いのある私の様子を頻繁に見に来ると思っていたがそうでもなかった。

騎士団の宿と私が作った宿を行き来している様子で、熱心に仕事をしているだけのようだ。

(入り口の植物には分身で意識を移してあるし、ニコラウスさんが来たら動くように命令してあるから出入りしたらすぐ分かるんだよね)

そのうえで緑株に監視をさせているため、彼の動きはおおよそ把握できている。それによると宿同士の行き来以外の移動はあまりしていない。村の中をうろうろと動き回ってもいないので、私は少しほっとしている。

(……でも全然動きがないのも逆に怖いから、騎士団に差し入れついでに様子を見に行こう……)

打ち合わせ続きで喉が渇くだろうから、飲み物を持っていくのがいいだろう。最近は寒くなってきたので温かいお茶が喜ばれるはずだ。

私もおすすめの浄花のお茶のセットを籠に詰めていたら、ノエルもそれに合わせてお菓子を包んでくれていた。

秋になり、現在は収穫の季節。村の麦畑でも大いに収穫が行われており、我が家の隣の水車小屋でも麦が挽かれて新鮮な小麦粉が作られている。水車小屋の作業音は音を吸収する効果を持つ植物である「音無し草」を使うことによって静かなので、騒音もない。村人たちも喜んでここを使ってくれていた。

最近のノエルはその小麦で凝ったパンやお菓子を作っている。今日は妖精飴の蜜で作られたケーキのようだった。

私はこういう物を食べられないけれど、村人や騎士への差し入れとしてかなり好評で、ノエルも喜んで食べてくれる人がいるとやる気が出るようだ。……私も食べてあげたかったけれど、固形物は吸収できないので仕方がない。

「騎士の方々と、魔法使いさまへの差し入れですよね! 宿までお持ちします!」

(うん、ありがとう。ノエルが一緒だと心強いからね)

そうして差し入れの籠を持ち、騎士たちの駐屯宿へと向かう。その道中イライの馬車が広場にあるのも見かけたので、あとで私の家も訪ねてくるかもしれない。さっと様子を見てさっさと帰ることにしよう。ニコラウスが怖いため長居はしたくない。

(マンドラゴラに針を刺して体液を採るらしいし……ひぃっなんて非人道的……!)

「魔女様、楽しそうです。やっぱり魔法使いさまがいると嬉しいんですね」

怯えてニコニコしている私を見てそんな感想を漏らすノエルだが、否定したくてもできない。同族ならばきっと会えて嬉しいものだろうし、私は彼の同族のフリをした魔物なのだ。

騎士団の宿の前に立ち、中の気配を窺う。少し賑やかなので雑談をしているところのようだ。扉をノックするとすぐに誰かが駆けつけてきた。

「魔女殿とノエル殿でしたか。こんにちは、今日もお元気そうで何よりです」

扉を開けて現れたのは明るい笑顔のレオハルトだった。こうして騎士の建物を訪ねた時、建物外で誰かに会ったり、彼が外出していたりする時以外はレオハルトが迎えてくれることがほとんどだ。隊長でありながらこういった客人への対応も部下に任せることなく率先してやる、そういう部分が村人からも慕われているのだろう。

(私はノエルに任せちゃうからなぁ……だって知らない人が訪ねてきたら怖いし……)

いつだったかフードを被った怪しい 人物(ニコラウス) が訪ねてきたことや、レオハルトの姿を装ってきたことを思い出して怖くなった。やはり私はこれからもノエルに客人の対応を任せよう。

「レオハルトさんこんにちは。魔女さまから差し入れです」

「おや、いつもお気遣いいただきありがとうございます」

「……あの、魔境ってもうそんなに危ないんですか?」

「いえ……少なくとも半年の猶予はあると見ています。冬は魔物も活動量が落ちますし、春に繁殖期を迎え……災害時期は次の夏頃と予想しています。その間に避難と防衛の 手筈(てはず) を整えますし、私たちが必ず皆を守りますから安心してください」

不安の欠片も見せず、きっぱり「守る」と断言する姿には安心感を覚える。ノエルもすっかり感心したように、キラキラとした目をレオハルトに向けていた。警備をする者が堂々としていれば守られる側も安心するものだ。その辺りを彼はよく理解しているのだろう。

(次の夏なら結構余裕あるんだからその間に逃げればいいとも思うけど……まあ、人間はそう簡単に生活や故郷を捨てられるものじゃないか。私もせっかく落ち着いてきたからあんまり離れたくないしなぁ)

この辺りには私が多様化と分身を駆使した植物が多く、自分としても結構居心地がいいのだ。私がこの場所に馴染んできた証だろう、自分の住処はここだという感覚がある。

そしてこの村に本格的な危険が迫るまではまだ時間があるらしい。たしか、昨日の会議でも新しい人員を投入するとか、魔境との間に防衛用の拠点を作るとかそんな話をしていた。

(私もちゃんと手伝おう。新しい人たちが来るのはちょっと不安があるけど、その人たちにも善人の魔女アピールをしなきゃね)

今の私はたいていの魔物を前にしても負ける気はしないが、それでも戦うのは怖い。だが住処であるこの村を守るつもりはあるし、人間たちが前線に出てくれるというなら私も精いっぱい後方支援に励むつもりだ。

(……こうやって話しててもニコラウスさんが出てこないの、意外だな。えーと……リッターさんと話してるね)

強い魔力を持っているせいかニコラウスが近くに居る時は分かるし、おそらく相手もそうなので私の存在には気づいているはずだが、今はこちらに関心がないようだ。

彼は魔物研究が好きらしいので、紫株と結ばれようとする変わり者に興味が向いているのだろう。背を向けたまま話し込んでおり、いつものように絡んでくる様子はなかった。私への関心が薄れるなら喜ばしいことだ、好きに研究すればいい。

「中で休まれていきますか?」

(それは遠慮しておきます……せっかくニコラウスさんが私を気にしてないからね)

「魔女さまはお邪魔したくないようです。……あの頑張ってください。俺にもできることがあったら手伝うので、その時は声かけてくださいね」

「ええ、ありがとうございます。とても心強いですよ。……それでは、また」

レオハルトはどことなく残念そうに笑って見送ってくれた。彼はよくリッターと一緒にいたので、話し相手をニコラウスにとられてしまい、寂しかったのかもしれない。申し訳ないが私は今の状態の方がありがたいため、せめてものお詫びに今度は彼の好きなものでも差し入れようと思った。その時は代わりに私が話し相手でもしてあげよう。

(……あれ、でもそういえばレオハルトさんの好きなものは知らないかも。今度聞いてみようっと)