軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54話

騎士団の宿から家に戻るまでに軽く村の様子を見て回る。頼まれごとがあれば叶えて、良い魔女アピールをするためだ。

だが今は収穫の時期で忙しいため、村人たちは畑仕事に精を出しており、村の中で暇をしている者は見かけない。子供たちもその手伝いをし、休憩時間に遊んでいるだけのようだ。

(みんな毎日を生きるのに一生懸命だから、危機が迫ってるって言われてもなかなか動けないよね……それこそ、ノエルみたいに住む場所が無くなったら逃げるしかないけどさ)

故郷を、住んでいる場所を捨てろと言われても難しいものだ。住めなくなるまでは住む、そういうものである。

それに国としてもこの村を防衛拠点として、魔物の生息域との境界線を敷きたい考えのようだった。野生生物に領土を奪われて、人間の活動域を縮小したくないということだろう。

人が住まない場所は自然が増え、野生の生物が増え、人の領域を圧迫していく。それは元の世界でも、異世界でも変わらない。これは生物としての生存競争なのである。

(私は人間側に加担するけどね。善良な魔女なので)

そもそも魔境の魔物たちよりも先にこの村に住み始めたのは私だ。ここは私の領域なのに、そこを侵犯し奪おうなどとは図々しい。私の穏やかな日常のための拠点を奪おうとするなら排除するのは当然である。

(これはたぶん……愛郷心ってやつだよね。私にもまだ人間らしい感情が残ってたんだなぁ)

私が生まれたのは魔境だけれど、あの場所は騒がしくて好きではなかった。自認がマンドラゴラとなってから過ごした時間はビット村の方が長いし、もうすでにここが私の故郷なのだろう。

「あ……家の前にイライさんがいますね」

(そういえばさっき広場に馬車があったもんね。お仕事の話かな)

家まで戻ってきたところ、イライが待ち構えていた。私を見るなり胡散臭い笑みを浮かべて揉み手をしはじめる、大変商人らしい人である。

「いやぁ、魔女さんは今日もお美しいですねぇ。ノエルの坊ちゃんもお元気そうで」

「……こんにちは。今日はどうしたんですか?」

「ええ、そろそろ魔女さんにお願いしていたものがどうなっているか気になったもので、ちょいとお伺いしてみたところでさぁ」

頼まれていたものは鈴蘭のオルゴールと、四葉が生えるクローバーの使い道についてだ。ひとまず鈴蘭の方は二つほど鉢植えを作ってあるので、それをノエルに運んでもらう。

「いやぁ、二株も納品していただけるなんて! ありがてぇありがてぇ」

「イライさん、こちらも。魔女さまが育てている三葉です。……まあ、もう三葉じゃないですけど」

この世界でも元世界のように四葉が幸運を呼ぶというので、本来は三葉であるものを四葉ばかり生えるよう改造したものを作ってみた。それを鉢植えに分けておいたので、それもノエルがイライに渡している。

(花屋さんで四葉のクローバーしかない鉢を売ってるの、見たことあるんだよね。まあシロツメクサではなかったと思うけど、インテリアとして可愛いって需要があったんだろうし)

とはいえ異世界人の価値観が元の世界の人間と全く同じということはないだろうし、私自身も魔物としての生態があるため 同族(マンドラゴラ) 以外の植物をあまり可愛いとは思わないから、イライの反応を見るしかない。……浄花は好きなのだが。美味しいし。

「こいつは……幸運の鉢植えですねぇ。よし、買い取らせて頂きますぜ。ちなみに、こいつはどれくらい増やせるもんでしょう。それによって売り方が変わりやすので」

(これは別に難しくないんだよなぁ。ええと……空の鉢はまだあったよね)

「魔女さま、探しているのはこれですか?」

(お、そうそう。察しが良くて助かるよ)

ノエルが持ってきてくれた空の鉢に土を入れ、イライの持っている鉢植えから四葉を一本ちぎり取る。それを新しい鉢に土に挿してあとは育つように命じればいい。そうすればあっという間にもう一つ、四葉だけの鉢植えが出来上がる。

「……魔女さん、もしかしてこいつは……一株あればいくらでも増やせるんですかい? さっきみたいにちぎって株分けすりゃ、あっしでも増やせたり?」

(そういうことだね。私なら一瞬で育てられるけど、人間でも普通に増やせるよ。……繁殖力は強めだから気を付けないと、庭の大増殖ハーブみたいになるかもしれないけど、そこは私が増えすぎないように命令しておけばなんとか……)

元世界でも繁殖力の強いハーブが庭を埋め尽くす、なんて問題は起きていたし、この植物もそれと変わらぬ繁殖力を持つ。

しかしこの四葉株は遺伝子を掛け合わせて意図的に生み出した種ではなく、私が取り込み「多様化」で作り出した、私の子分のようなものだ。離れた場所に埋っていても私の命令次第で育ったり枯れたり変化させることは自在にできるはずである。

「それならこいつは庶民向けに売れますねぇ。こちらは作っていただいただけ、いくらでも買い取らせていただきますとも。……ところで相談なんですがねぇ……魔女さんの家は、植物で華やかでしょう? あっしの馬車も、この幸運の四葉で飾ってもらったりはできないもんですかねぇ」

(なるほど、広告用ディスプレイってことか。うん、イライさんには私をいい魔女だって広めてもらわないといけないからね、やってあげよう)

幸運を運ぶ四葉と花の魔女を結び付けてもらえるならいいことだ。私からあくどいイメージが遠のき、幸福の象徴に近づくかもしれない。

私は頷いてからイライの馬車に触れた。馬車の荷台の屋根部分に大き目の四葉とその花を咲かせながら、近くで見なくては四葉であることが分からないことに気づく。

(うーん……あ、そうだ。巨大クローバーも作ってみようと思ってたんだったね。遠目で見ても分かるように、大きな四葉を生やしちゃおうっと)

ついでに日除けにでもなればと思い、御者台に影をつくるように巨大四葉を出現させた。屋根部分に生えた四葉とポンポンのような小花たち、その中に一本だけ大きな四葉が生えていて、かなりファンシーな可愛らしい馬車が出来上がったと思う。これは目立つに違いない。

「魔女さん……アンタはほんとうによく分かってらっしゃる……あっしの商売の女神さまでさぁ……」

イライは感激して喜んでくれたので、どうやら間違いなかったらしい。こうして幸運を運ぶ商人となった彼は、きっと国中に私産の植物を売り歩いてくれるだろう。

お金が欲しいわけではないけれど、善良な魔女のイメージが広がるのは大歓迎だ。元々、イライはそういうつもりで商売を持ち掛けてきたのだから。

(うんうん。これで国中に植物と共に私の良い魔女としての評判が広まるはずだよね!)