軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30話

「うわ……ほんとに走ってる。何これ、どうやったらこんな進化するんだ」

室内に走ってきたマンドラゴラをニコラウスが鷲掴みにして捕まえた。しかも茎の部分をがしりと掴んで持ち上げる。今まで胴体をもって抱き上げるように扱ってくれる人間しか見ていなかったので、私はその持ち方に悲鳴を上げた。もちろん掴まれている緑の子株も悲鳴をあげているような震え方をしている。

「……浄花で育ったマンドラゴラ? ……竜血じゃない……?」

しばらく子株を観察していたニコラウスはそう呟くと不思議そうに首を傾げた。そしてそのセリフを聞いて私は戦慄する。

その情報は、ステータスの説明文に載っているものだからだ。……彼は他人のステータスを見ることができるのではないだろうか。

(ま、まずい……! 私のステータス、完全に説明文が悪意の塊なんだけど……!?)

私という魔物の説明にははっきりと厄災と書かれている。私自身は無害で大人しいのに、能力の使い方では人間に多大な被害を 齎(もたら) せるせいで完全に害獣、いや害草扱いなのだ。

「この眷属マンドラゴラの主人はお前だよね。……でもお前のステータスは……」

(ギャァアアア!!!! 見ないでェエエエエ!!)

引っこ抜かれて以来の大絶叫をしている私だが、ニコラウスは眉間に皺を寄せた顔でしばらく黙り込んでため息をついた。……ああ、もう私は人間として生きていくことはできないのかもしれない。

あの恐ろしい魔境にまた戻って暮らすしかないのだろうか。さすがに口封じで人間を殺すのはちょっと、かなり、抵抗がある。そこまでしてしまったらもう、完全に人類の敵の魔物になってしまうし、それはできない。私はただ善良な魔物として平和な人間の世界で暮らしたいだけなのだ。

「……見えないのがむかつくな。僕が疲れてるにしたって魔力の差がありすぎる」

(……え? 見えないんだ……?)

「僕より魔力が多いんだからお前が人族ではないのは確からしいね。……このマンドラゴラも僕のじゃないし。僕のマンドラゴラなら竜血で育ったって説明になるはず」

(……ん?)

今何か、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。私のステータスには『竜血で育ち、ふんだんに魔力を含んだ最高級のマンドラゴラ』という説明がある。どうしても気になった私は、テーブルの上の紙にペンを走らせた。

ニコラウスは子株をテーブルへと置き、紙を覗き込んで私の言葉を待っている。

『それはどういうことですか?』

「僕は魔物の実験が好きでね。竜の死んだ大地は濃い魔力に満ちてるけど、植物の魔物ならその影響で面白い変化をするかもしれないと、百年くらい前にマンドラゴラの種を植えたんだよ」

つまり、彼は魔物の実験の一つとしてマンドラゴラを――私をあの魔境に埋めた張本人だということだ。

(じゃあ私が散々怖い目に遭って大変だったのって……全部この人が元凶……ってコト……!?)

なんてことをしてくれたのだ。おかげで私はとても大変だった。ゴブリンに引っこ抜かれて、戦って、食べて、などという 魔物魔物(ものもの) しい生活をしていたのだ。温室や鉢植えで育ててくれればもっと穏やかに生きられたのに。

「そろそろ収穫しようと思ったらなくなってたんだよね。……お前が盗んだ犯人だと思ったんだけど……これは違うみたい。僕のだったら連れて帰っていろいろ実験したのに……」

(あ、ごめんなさい。……やっぱ手元で育てられなくてよかった……実験動物……いや実験植物にされちゃう……)

子株まで怯えて、目の穴から汁を流し泣きながら私の手に取りすがった。なお、これは人間の涙とは違いちょっとだけ回復効果のあるマンドラゴラの汁だ。服の隙間から染みてきて美味しいのだが、同族を食べているような、そもそも自分の分身なので自分を食べているような、微妙な気持ちになる。

(ニコラウスさんが私を作ったのかぁ……じゃあ一応私の親……? でも、意識を持ってからは自分で育ったから親って感じはしないな)

むしろよくもあのような場所に埋めてくれたな、という気持ちだ。

それにしてもステータスを表示させる能力があるらしい。私の持っているスキルだと、自分や取り込んだ植物などのステータスは見られるものの、他人のステータスを見ることはできない。おそらく別の能力なのだろうが、欲しいと願うと残り10ポイントを消費してしまいそうなので考えるのをやめた。

どうやら魔力量によって相手のステータスを見られるかどうかが決まるようだし、私の魔力は測定不能だ。

(国で一番の魔法が得意なニコラウスさんに見えないなら、きっと誰にも見られないってことだよね。……見られたらおしまいだもんね……厄災の魔物ってはっきり書いてあるもん……)

これをいつか無害な魔物に書き換えてみせるという目標は変わらず、ひとまず焦らなくてもいいことが分かって一安心だ。

そんな中、今度は水色の子株が戻ってきた。そしてニコラウスはそれを掴み上げる。

「……また来た。でもこれも違うな。……っていうかこれ何体いるの?」

(あと三体戻ってくるけど……もう全部見せて、ニコラウスさんのマンドラゴラはいないって思ってもらった方がいいかも)

その後、連続で帰ってきた子株たちはニコラウスに掴まれ、観察しては「これも違う」とテーブルの上に置かれた。最後の一体は紫株だったのだが、それを掴んだニコラウスは他の子株とは違い、じっと見入っている。

「ねぇ。なにこれ」

(何と言われましても……リッターさんに進化途中を見られちゃったから仕方なく……)

「……魔物って自分で進化の方向性を選ぶはずなんだけど、自分でこの形を望んで進化したの? なんで? この女を観察した結果か? 馬鹿の発想、いやもういっそ天才の発想だろ。このマンドラゴラ興味深すぎる」

ニコラウスには非常に面白そうな研究対象に見えるらしい。元はその形だった私はもちろん恐怖を感じて体内で悲鳴を上げ、紫株も悲鳴を――あげるかと思ったが、茎を掴まれてぶら下がりながらなにやら恥じらいのポーズをとっていた。「いや~ん」とでも聞こえてきそうな、そんなポーズだ。……やっぱりこの紫株だけちょっと変わっている気がする。どこで覚えてくるんだろう、こういうの。