軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31話

ニコラウスが紫株をしげしげと眺め、どこで覚えてきたのか分からない様々な恥じらいのポーズを見せつけられている。そんな中、誰かが慌てたように走ってきて玄関の前に立った。眼帯を着けた隻眼の騎士、レオハルトである。

「魔女殿、ご無事で……っ魔導士殿がなぜここに……?」

「偽物を調べに来たんだよ、当たり前でしょ」

そういえばそうだった。彼は私が偽物の魔女であると思い、こうして調べに来たのであった。それを思い出してまた怖くなってきたが、ニコラウスは紫株をテーブルに置いて立ち上がる。五体の子株が揃うとさすがにテーブルの上は狭くなり、彼らは落下しないように身を寄せ合っていた。……ニコラウスに怯えているようにも見えるが。

「今のところは偽物と断定できない。……本物かどうかも分からないけどね。まだ信じてないし、偽物だと分かった時は許さないからな。正体が分かるまで何度でも来るぞ」

(ひえええっ……! マンドラゴラでごめんなさい……! 一生バレませんように!)

紫水晶の瞳でじろりと睨まれて私はすくみ上がった。村人や騎士などとは比べ物にならない、誰よりもニコラウスにだけは正体を知られてはいけないと思う。彼に正体を知られた暁には、確実に実験植物にされるだろう。それだけは勘弁してほしい。……おそらく私はもともと彼の育てていた物なのだ。脱走できて本当に良かった。

どうやらニコラウスも帰る気になったようで、玄関の方へと向かっていく。何をするか分からない相手だ、ちゃんといなくなるまでは様子を見ておこうと思い、私もそのあとに続く。

「しかし、魔導士殿。……城を空けてきてよろしかったのですか? 報告を上げてからそう日は経っておりませんが……王の許可が下りるには早いのでは」

「王の許可は取ったよ。城を全部囲う防御結界を張って、少しの間抜けさせてもらった」

レオハルトとニコラウスは家から少し離れ、庭の花畑で立ち止まって話し始めた。早く帰ってほしいが、帰ってくれと言う訳にもいかず、私はそんな二人を玄関先で見つめる。

どうやらニコラウスが出掛けるには国王の許可が必要らしい。……ということは、頻繁には来られないに違いない。ありがたい、あまり来ないでほしい。

「……あの、魔導士殿。それは魔力の使い過ぎでは? 転移魔法も使われていますよね?」

「僕を誰だと思ってるんだ。唯一の……魔族の生き残りだぞ。これくらいできる」

そう言いながらニコラウスが振り返った。唯一の、とつけるあたりやはりまだ強く疑われている。勿論「ひっ」と中では声が上がるが、それを他人に知られることはない。せいぜい近くにいる子株たちが私の感情に感化され、震えるだけだ。

「近くに転移の陣を書く。お前たちもその方が移動に便利だろ。……魔境があるんだし、必要になる時がくるかもしれないからな」

「……それは、そうかもしれませんが……魔女殿のプライバシーもありますので、それなりに離れた場所にしませんか? 特に川の付近はおやめください」

「何それ。元から村とこの女の家の間に作るつもりだったけど?」

どうやらニコラウスは転移魔法を使えるらしい。つまり、青い猫がポケットから出してくれる夢の「どこでも扉」である。それはかなり羨ましいが、私の家のすぐそばに作るのはやめてもらえないだろうか。

(どこにその転移陣とやらを作るか確認しておいた方がいいよね……)

周囲にその存在を感知できる植物を生やしておけば、早めにその来訪を知ることもできるだろう。今回はいきなり近くに現れたように感じたので、ある程度近くなると存在が感知できるのかもしれないが、いきなり気配を感じたら吃驚する。

(今でもニコラウスさんがいるのは見なくても分かる感じ……どれくらい離れたら分からなくなるんだろう、これ)

二人が村の方角へと歩き出したので家を離れてついていく。子株たちにはノエルを部屋のベッドへ運ぶように命じて留守番をさせることにした。

村と私の家のちょうど中間地点でニコラウスが道の脇へとしゃがみ、両手を地面につく。そこを中心に陣と思われる光が広がって、地面にその模様が刻まれた。

「……ふぅ…………じゃあ、僕はそろそろ帰るけど。その女ちゃんと監視して、しっかり報告上げろよ」

「……魔導士殿、あまり無理はなさらず。こちらのことは我々聖騎士にお任せください」

立ち上がり、振り返ったニコラウスの顔色が悪いように見えた。同じ印象を受けたのか、レオハルトも心配そうに声を掛けている。

先ほどまでの会話で、ニコラウスはかなりの魔力を消費しているということが分かった。私は魔物なので人間とは違うだろうが、魔力を使うと空腹感に近い感覚を覚える。彼もそのように、しんどい状態にあるのかもしれない。

(もしかしてここが……無害アピールのチャンスなのでは……!?)

私は様々な薬を作れるけれど、その中には魔力を回復するのに特化した薬というものがある。私がこれを作って飲むのは効果が微妙で浄花の方がいいくらいだが、ステータスの説明を見る限り魔族には効果がありそうだった。

早速その魔力回復薬を作り、足りないといけないので二個分を鬼火草の実に詰めて手の中に生成する。

「これくらい平気だよ。僕を誰だと……何。お前は僕に用なんてないでしょ」

(私はとっても善人なのでこれをプレゼントします……! できればもう疑うのはやめていただければ……!)

青く光っているので鬼火草とは思われないはずだ。その薬入りの実をニコラウスに差し出すと、彼はけげんそうな顔で受け取って二つの実をじっと見つめた。

「魔力回復薬って…………お前……馬鹿だろ」

(え……? ま、まさか逆効果で……!?)

「お望み通り、また来るよ」

全く望んでいないのに、ニコラウスはそう言って一つの実から薬を飲み干し、魔法陣の中に入っていく。すると陣は強い光を放って視界をくらませ、次の瞬間にはその姿が消えていた。……とりあえず正体を暴かれることなく帰ってもらえたのはよかったが、疑惑が深まってしまったかもしれない。下手をうってしまったと内心では悲痛な叫びをあげている。

「魔女殿。……同族と再会できて、よかったですね」

(いえそんなことはまったくないんですが……)

「そういえば……魔女殿の悩みは、魔導士殿にもお伝えいたしますか?」

何の事だろうと思いながらレオハルトを見ると、彼は自分の首のあたりを指さした。たしか、彼は私の声には「人に嫌われる呪い」がかかっていると思っているのである。それをニコラウスに伝えるかどうか、という話らしい。

(言わなくていいよ……実際はこれマンドラゴラの種族能力だし余計に疑って調べられたら困る……)

「……では、引き続き私たちだけの秘密ということで。家までお送りしましょう、魔女殿」

首を振るとレオハルトはキラキラとした笑顔を見せた。なんだかとても疲れた私は、土の中でゆっくり眠りたい気分でレオハルトと共に帰路につく。……巨大鉢植えを作って浄花で満たし、その中に入るとか、そういう方法ならギリギリ許されないかな。