作品タイトル不明
74話
猫獣人の冒険者、ミリヤはエリーたちの家に居候となり、その他の冒険者たちはキャンプ地で暮らすことになった。住む場所が分かれていればひとまず諍いは収まるものの、討伐の仕事で一緒になるとまたいがみ合うのではないか、という心配がある。
(血の気が多いなぁ……みんな仲良くやればいいのにね……)
争いたがる人間の気持ちは、植物である私には分からない。人族でも獣人族でも大した違いはないと思う。どちらかと言えば人族の方が魔力が多くて栄養がありそうかな、というくらいだ。……それを基準にすると一番栄養豊富なのは魔族なのだが。
(いやいや、人間を食料とは思ってないけどね、これは言葉の 綾(あや) であって……)
とにかく人種の違いなどそれくらいしかないくらい、人間は人間だと思う。……もう、人ではない私からすれば。
「魔女さま、ノエル、おはよう!」
「あの、おはよう。……昨日はお世話になりました」
騒動の翌日、エリーとミリヤが揃って我が家を訪ねてきた。手をつないでここまでやってきたようで、一晩で随分と仲良くなったように見える。人種は違えど年の離れた姉妹のような空気感だ。
「二人で来たのか?」
「うん! お母さんがミリヤちゃんと一緒なら良いって!」
「危ないことがないように、あたしが護衛する約束なんだ。泊めてもらってる恩があるからさ」
なるほど、冒険者が護衛についてくれるなら親としても安心だろう。というかむしろ私も守ってほしいくらいだ、羨ましい。
私も誰かに守られて安心しながら暮らしたい。……まあ、私より強い誰かなんて見たことはないのだけれど。
それでも誰かに守られている、という安心感は欲しいのである。私は平和主義の植物だからだ。
「騎士さまたちがね、魔女さまに村の広場まで来てほしいって!」
(ん? 騎士団に呼ばれてるの? ……な、なんで? まさか昨日のやりすぎで私が討伐対象に……!?)
私は昨日、あまりにも大きな声で怒鳴り合う冒険者たちを静かにさせるため、音無し草を生やして大人しくさせた。びっくりしたからと言ってやりすぎたかもしれない、と反省はしているが、やってしまったことに変わりはない。
それ以外に呼び出しをくらう理由が思い当たらず、震える私をじっとミリヤの猫目が見つめていた。
「魔女さまに安心してほしいから、是非見に来てくださいって眼帯の……レオハルト、って人が言ってたよ」
(レオハルトさんが……? そういえば友達になったんだ、友達がそう言うなら悪いことじゃないのかも?)
聖騎士の友人が居れば私の行動を甘く見てもらえるはず、という目論見の通り、昨日の行動は許されたと教えてくれるための呼び出しなのかもしれない。それならば話を聞きに行きたいけれど、やはり怖いのでノエルと一緒に行こうと彼の肩に手を添えた。
「俺のこと、心配してくださってるんですよね。……大丈夫ですよ」
(えっ……なんのこと……?)
「昨日の人たちも、たぶんもう俺に何か言ったりしないと思います。魔女さまがしっかり釘を刺してくれましたから」
なるほど、冒険者たちがまた獣人差別発言をしてノエルに暴言を吐くのではないか、と心配しているものだと思われていたらしい。……むしろそれは頭になくて申し訳なかった。
しかしたしかに、あれは聞いていて気持ちのいいものではない。彼らは本当にもう怒鳴り声をあげたりしないだろうか。
「大丈夫だよ、ノエル。騎士さまが何とかしてくれるから!」
「騎士さまが、か……そういえば、ミリヤさんはリッターさんに会いました?」
「いや、私はまだ眼帯の騎士にしか……そのリッターって人が、種族を超えた恋愛をしてるって人なの? 会えるの楽しみだな」
ということは、ミリヤはまだ紫株とリッターの様子を目にしていないのだろう。ならば見るとすれば今日、これからなのかもしれない。
期待したように輝く目をしている彼女に、あの一人と一株の姿を本当に見せてもいいのか段々不安になってきた。まだ若い彼女の教育にはよろしくないのでは。
「じゃあさっそく行こうよ。村の広場に集まるって言ってたから」
(本当に見せてもいいのかなぁ……不安だなぁ……)
「……もしかして、魔女さまは不安?」
先ほどもそうだったが、じっと私を見つめていたミリヤがそんなことを言った。顔に出ていたのだろうか。声を発さないうえに、表情も逆さまになりやすい私の感情を察する人はあまりいないのだが、私が不安に思っていることを感じ取っているような口ぶりだ。
「きっと大丈夫だよ。あの人、たぶん魔女さまのために頑張るだろうし」
(……あ、よかった。伝わってない)
とりあえず頷いて返事をしたが、内心を悟られているわけではないことにほっとした。……私の内面は、おそらくもう人間とはずいぶん違ってしまっている。外見は完璧に取り繕えても、中身までは取り繕えない。
中身を知られたら誤魔化しが効かないのだ。心まで読めるような人がいるとまずいと少し焦ったけれど、どうやら勘違いだったらしい。……でももしかすると、ノエルとは少し違った方向で鋭い可能性もあるから、できるだけ距離を置きたいところだ。
そうして私たちは四人で村の広場へと向かった。遠目に人が集まっているのは見えるが、円になって何かを見物している様子だ。その人が壁になっていて、何をしているかはよく分からない。
(いったい何をし、ってあああああ!!??)
突然、何かが空から降ってきて、どんっと音を立てながら地に落ちた。私たちにぶつかることはなかったが、驚いて思わずノエルの肩を掴んで引き寄せてしまった。
地面に落ちた何かを確認して見ると、軽く呻き声をあげる男だった。……あれ、この人たぶん、昨日の冒険者だ。