軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75話

「俺、自分で避けられますから大丈夫ですよ、魔女さま。……それに当たるほど近くもありません」

(ご、ごめん。びっくりして……)

驚きのあまりノエルを引き寄せてしまい、逆に彼を驚かせることになってしまった。頭が胸のあたりにこつんと当たったけれど、幸いにも私が贈った帽子を被っていたので、花がクッションになり痛い思いをさせることはなかったと思う。……私の体は人のような柔らかさを持っていないから。

(でも柔らかくする気はないんだよなぁ……防御力が下がっちゃうし……)

ただでさえ植物である私は、防御力という観点で見ると弱いのだ。斬ったり燃やしたりは割と簡単にできると思う。まあ、欠片でも残っていれば再生できるだろうから死にはしないとはいえ、防御力をわざわざ下げる進化をする気にはなれない。それは進化ではなく、退化だ。魔物を倒してレベルが上がらないと手に入らない貴重なポイントという対価を払ってまで退化するなんて、魔物としては間違いだろう。

「冒険者のおじさん、大丈夫?」

「う……あ、ああ……大丈夫だ……」

(大丈夫じゃなさそう。顔上げられてないし)

地面にうずくまる男は、心配そうに声をかけるエリーと彼女を守るように前に立つミリヤをちらりと見上げたが、すぐに顔を伏せて縮こまったまま動かなくなった。受け身は取れていたように見えたけれど、痛くて動けないのなら大変だ。

善良な魔女としてはここで何もしないわけにもいかず、両手を握り合わせてその中に鬼火草の実を作りだし、生成した傷薬を注いでいく。出来上がった薬の実を冒険者の前に置くと、それに気づいた彼は困惑したように私と薬を見比べた。

「傷薬ですよ。魔女さまはそれを使ってほしいと」

まるで探るような目つきで冒険者が私を見上げたので、いかついその顔に短く悲鳴を上げてしまう。よほど痛いのか少しだけ目が潤んでいる男は、傷薬を掴んで小さく「ありがとうございます、魔女さま」と呟くとそれを飲み干し、また俯いてしまった。……傷は治ったはずだが、顔をあげられないのは何故だろう。

(……えっと……じゃあ、精神的なダメージ……かな?)

人前で躓いて転ぶことは誰にでもあるが、そういう時は何となく恥ずかしいものだったことを思い出す。見られていると立てないのかもしれないと思い、そっと視線を外しておいた。

「んー……なるほど、やってるのはレオハルトだね」

(え、レオハルトさんがこの人投げたの……? なんで?)

「あの人、めちゃくちゃ強いんだよね。冒険者は強さが一番重要だから、あの人の話ならみんなちゃんと聞くよ」

広場の方に目を向けたミリヤにつられて私ももう一度そちらを見た。広場は相変わらず見物人に囲まれていて、がやがやと賑わっている。人の壁が邪魔でよく見えないけれど、ミリヤには分かるらしい。

「あ、お母さんもいる。ミリヤちゃん、早くいこ!」

「うん。……じゃ、また」

私を呼んでくるという仕事を終えた二人は、さっと駆け出して村人の輪の中に入っていった。ノエルもどこかそわそわと尻尾を揺らしながら、歩いて広場へと近づいていく。

(なんだか危なそうで近づきたくないけど、一人でこの冒険者の人と残されるのも怖いしなぁ……)

しばし迷って、私もその場を離れてノエルの後ろをついて行った。私が近づくと村人たちが気付いて場所を開けてくれたので、ようやく広場が見えるようになる。

そこではレオハルトが冒険者を相手に組み手をやっているようだった。武器はなし、素手の勝負だ。……一応、騎士の力量を知るためにも見ておいた方がいいだろう、と私も震えながら見学に参加した。

(すごく簡単そうに戦うなぁ……というか、実際簡単なのかも。動きが私の知ってる人間じゃないし……)

騎士たちの力量は知らなかったけれど、少なくともレオハルトは相当「戦える」人だ。まるで子供の相手をするかのように、たやすく冒険者の力をいなしており、掴みかかろうとする相手は息が乱れているのに、レオハルトは涼しい顔をしている。

それを見ている村の若い女性は黄色い声援を送っていて、男性たちも感心したように「おお」と声を漏らしたり、思わず拍手したりと楽しそうに観戦していた。

(うーん……レオハルトさんは隊長だから、きっと強い方だよね。でもあれくらいの人がたくさんいたら私もちょっと危ないかもしれない……や、やっぱりちゃんと仲良くしておこう)

仲良くなって情に訴えかけ、精神的に敵対し難くしておくという作戦だ。保身のために考えを巡らせているうちに、レオハルトはミリヤ以外の冒険者を叩きのめし終わったらしく、涼しい顔で一礼して場を締めた。

そしてふとこちらを見て、私に気づいたのか明るい表情で駆け寄ってくる。

「魔女殿、ノエル殿、おはようございます。……昨日は大変だったと聞きました。ノエル殿も、つらい思いをしたかと」

「いえ、大丈夫です。……あの、今日はどうしたんですか?」

「騎士団と冒険者で合同訓練をして、それを皆さんにも公開することにしました。……序列がつけば冒険者は規律に従ってくれますから。もう大丈夫ですよ、お二方」

(あ、安心させるためってそういう意味かぁ……)

冒険者に力で「分からせ」て、規律を守らせる。そうすることで獣人差別的言動を戒め、もう私が手を出さなくていいようにするという意味だったようだ。

ありがたいのはありがたい。けれど、私は人をぶん投げておいて爽やかな笑顔のレオハルトがちょっぴり怖かったので、やっぱりノエルが私の前からいなくならないように、そっとその肩を押さえる。……何故か私とノエルの間で彼の尻尾が嬉しそうに揺れた。