軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一足先に帰還した聖女

復活したアルカは、真っ先に中央広場――配信を行っていた場所へ向かった。

復活したてで重い身体を無視して広場にたどり着くと、拍手で迎え入れられた。

「聖女様! お疲れ様です!」

「よかった、生きてた! 復活って、その前に死なないといけないんですね……」

「ささ、どうぞ前へ! おーい! 聖女様だ、通して差し上げて!!」

広場に集まっていた人々は自主的に左右に分かれて道を空け、配信モニターに向けての花道ができた。

「皆様……ありがとうございます」

そしてモニターの正面にまで進むと、そこにはナリキンが笑顔で映っていた。

『おおアルカ。無事帰れたようだな』

「死にましたので無事ではありませんでしたが?」

『? 聖女なのだから、無事だろう?』

「そうですね、死にましたけどね!」

ぷんぷん、と頬を膨らませる。恨み……というほどでもなく、軽く拗ねたような。その程度の不満をぶつけるアルカ。

聖女アルカにとって、死は『その程度』でしかないということでもある。

頭が吹っ飛び首の断面が配信に映り込んだと知ったら……殺されたことよりも、そちらの方が恥ずかしいと思うだろう。

「ああそうです、ナリキン様! キョウ様は!? キョウ様はどこですか!?」

『キョウ殿ならさっき帰ったぞ』

「ぐぬぬ! まさかいきなり殺しにかかってくるとは思いませんでしたよ! もうっ」

『苦しまぬように一瞬で片づけたと言っていたが』

「お気遣いありがとうございました! 本当に一瞬で、私でなかったら死んだことに気付かずゴーストになるでしょうね!」

微笑ましいような、そうでないような。そんな綱渡りのようにも聞こえる口げんかに視聴者達はハラハラとせざるを得ない。

が、ナリキンはナリキンで笑顔だし、聖女アルカは聖女アルカで『このくらいは甘えてもいいだろう』と判断しての文句。

つまり、茶番だ。

通常の配信とさほど変わりのない掛け合いである。

『まぁそんなことはよいではないか。アルカよ、一足先にバラクド殿への報告をしておいてくれ。復活直後は疲れているだろうし、休んでからで良いのでな』

「はいはい分かりました。これも実質妻としての内助の仕事ということですね」

『む? みなし夫婦は成立しなかったはずでは?』

「いずれ別ルートの婚姻を成立させてみせますから、実質妻なんですっ!」

事ここに至って尚、妻の座を諦めないというアルカに、ようやく視聴者達もホッと一息つくことができた。

「それはそうとナリキン様」

『む? 何かあるのか?』

「ああいえ、キョウ様とのご成婚、おめでとうございます。言っておりませんでしたね」

『……は? む、ちょ、ちょっとまてアルカよ。何を言って……え?』

「ええと、ここに来る道すがら聞いたのですけど。どうやらダンジョンコアをお二人で割ったそうですね?」

丁度ドラゴンの剥ぎ取りで聖女は居なかったが。

『う、うむ。…………あっ』

「思い出しましたかナリキン様。そうです、男女2人が共にダンジョンコアを破壊するのは、結婚式でも行われる『夫婦の共同作業』――婚姻の儀式に他なりません。いえ、儀式としてはダンジョンコアを模した白い壺で行う方が多数ですが」

それを、本物のダンジョンコアでやったのだ。

つまりはもう結婚しかない。結婚しかありえないのである!

「……くっ。あのドラゴンの素材に目がくらんでしまったばかりに……! 私が一緒に割りたかったのですが! あのドラゴンの素材に目がくらんでしまったばかりに……! 割りたかった! 一緒に!」

『お、おう。二度も言わずともおぬしがドラゴンの素材に目がくらんでいたのは伝わったわ。これはあのドラゴンに助けられた、というべきだろうか?』

さもなくば『みなし夫婦』のみならずコア割りの共同作業での婚姻を狙っていたであろうので。

「でもキョウ様との婚姻は成立ですからね! おめでとうございます」

ナリキンはそれを聞いて困った顔になり、どこかに助けを求めるような目線を送り、ぎゅっと目をつぶり、それからため息をついた。

嫌なら男女ではなく男男で割ればよかったのだ。これも聖女は来る途中に小耳に挟んだが、キョウは自分が男であると告白したらしいし。

どうせ性転換の魔法薬で変装したのであろうし、割った時点で男女であったのならそれが事実で、現実で、真実である。

目撃者なら山ほどいて事欠かない。

『……うむ、ありがとう』

ナリキンは絞り出すようにそう言った。

「次は私の番ですからね?」

『それは約束しかねるがな』

「ナリキン様、意外と隙が大きいのでいけると確信しています」

『…………そう思うのであれば、そうなのだろうな。おぬしの中ではな!』

「はいはい。では、ナリキン様も早くお戻りになられてくださいね」

『うむ。……おいアルカよ、今のやり取りは婚姻に関係ないよな?』

「この程度は普通の挨拶ですから大丈夫です」

『そうか。なら――あ、いや。その『大丈夫』とは『関係ない』という意味だよな?』

「うふふ、どうでしょうね?」

『おい、アルカ?』

「冗談です。はい、関係ありませんよナリキン様。今日のところはもう私も疲れましたし、そういう駆け引きはしません」

そこまで確認して、ようやく『ふぅ』と息をつくナリキン。

そもそも配信、このような魔道具を介してのやりとりなど光神教の歴史にないし――ああいや、手紙の事例を適用できる可能性はあるか。

そんな風に心配が止まらないナリキンは、警戒しながら配信を終えた。

あとは、帰るだけ。今日でダンジョン攻略の配信も終わりだ。明日のチケットを買っていた者たちは払い戻しになるのだろうか? まぁアルカには関係ない話である。

「みなさまも、お疲れ様でした。バラクド上級神官による確認はまだですが、次は――あるとすれば、教皇就任式でしょうか?」

熱の冷めやらない視聴者達に、アルカは挨拶をし、公園を後にする。

その途中、視聴者の一人に質問された。

「聖女様、ナリキン様をどう攻略するおつもりですか!?」

「……ふふっ、秘密です」

手の内は隠しておいた方が、不意打ちは楽になる。

それは光神教の教えではなく、アルカの経験による単なる事実だった。