作品タイトル不明
カリソト区デート
ロクコが俺ににっこりと笑いかける。
「……結婚おめでとう?」
「ちげぇし。俺じゃねぇし。キョウだし」
「冗談よ冗談」
くすくすと笑いつつ、いじわるそうに突っついて来るロクコ。……うん、怒ってはいないようだ。
「ナリキンが教皇内定したわけだし、その妻の座は結構なアドバンテージだものね……?」
「それはそうだけど、そもそもナリキン自体が俺達の駒だし既にロクファもいるし」
「第二婦人のキョウがいないから、第三婦人を娶る相談ができない――って断ったりもできるものね」
「ああ、そういう防波堤にも使えるわけか」
「ええ、だからこれっぽっちも怒ってないわよ? ケーマに怒っても仕方ないし」
うん? これやっぱり怒ってるかな?
「……まぁ悪いのは聖女だな」
「……そうね、聖女ね」
聖女が変な事しなければ、色々と問題は起きなかったのである。
つまり悪いのは聖女。間違いない。
「というわけでデート! 今日はデートしましょう! 私の機嫌をとりなさい!」
「おぅ。そう繋がるのか。まぁいいか、カリソト区行く? あたらしく出来た店とかもあるし見に行こうぜ」
「行く!」
そういうことになった。
* * *
カリソト区。俺達が不在だった間にソトが作り上げた町といっていい地区である。
まだゴレーヌ村の1地区でしかないという建前だが、もはや最寄りの町状態で、3階建てのビルのような四角い建物が綺麗に並んでいる。
一方で元々のゴレーヌ村は……高級住宅地扱いになっていた。
「でも明らかにこっちの建物の方が綺麗じゃない?」
「こっちの建物はスライムコンクリート使ってるからな」
「あ、そういえば村の方でも建て直してるわね」
元々ゴレーヌ村に建っていた家も基礎部分をスライムコンクリートにして建て直し、とかをしている模様。クーサンは仕事が途切れず嬉しい悲鳴だとか。
「ウチの宿は建て直さなくていいの?」
「『踊る人形亭』は元々石材で土台作ってるからな」
そもそもが【クリエイトゴーレム】により石の土台を作っており最初からコンクリート以上である。定期的にメンテナンスもしてるのでまだまだ建て直す必要もないのだ。
「……」
「ん? どうしたロクコ?」
「この石材ってスライムを石化させたものなのよね? もしかして『神の目覚まし』で解除できたりするんじゃ……」
「大丈夫だ、スライムコンクリートは対象外に設定している」
「できなくはないのね」
完全に死んだら石材のまま解除されないらしいが……1、2年は石化しててもまだ助かるとか。特に雨の当たらない内側は長生き? らしい。
「へー。保存状態が関係するのね」
「あとスライムは自我が薄いから石化されたら死ぬまで早い方らしいよ」
「自我ね……人間とかならどのくらい持つのかしら?」
「さぁ? 試したこともないし、試す気もないなぁ」
少なくとも【収納】による時間停止保存状態なら数千年前の石化された石像でも生き返らせることが可能、と思われる。野ざらしでは知らないけど。
「でもケーマ、そんな情報どこで仕入れたの?」
「ソト経由だな……まぁ多分レオナ辺りに聞いたんじゃないか?」
「なるほどね」
そんな雑談をしつつ、カリソト区にあった目についた店に入った。
目についたのは、ゴブリンの石像。あまりにも精巧にできていたのだ。
そこは置物屋で、石製の置物が売られていた。……日本でも墓石や石材売ってる店がこんな風に石像作って飾ったりしてたっけなぁ。と懐かしく思い出す。
「ロクコ、ゴブリンの石像だぞ。買ってくか?」
「いやいらないわよ?……でもこれかなり精巧ね。まるで本物みたい」
「お客様、お目が高い!」
おっと、店員が話しかけてきた。
「こちら、稀代の名工ソトカリ氏の作ったゴブリン石像でして、ソトカリ氏の作った石像はまるで生きているようだと評判でございます!」
「あら」
「へぇ?」
あからさまにソトの偽名である。
さてはこいつら、バジリスクで石化させた本物のゴブリンなのでは? そもそものスライムをコンクリート代わりに石化させる製法を持ち出したのもソトなのだ。
だとすれば、本物そっくりなのは間違いなく本物を石像にしたからではなかろうか。
まぁ、娘のお小遣い稼ぎにどうこう口を挟むのも野暮だろうか。
「ちなみにこれ、おいくらなの?」
「銀貨15枚ですね! カリソト区内であれば無料でお届けもいたしますよ? どうです寝室のインテリアにひとつ」
ゴブリンに見つめられながら眠るのは落ち着かなさそうだなぁ。
しかしゴブリン1体を銀貨15枚とは……DPで出したゴーレムだとしても相当に黒字だろうな。
「ふぅん。なかなかやるわね」
「ちなみにソトカリ氏の作品にはこういった小物もございます」
「あら、小鳥ね。こういうのもいいわねケーマ?」
「そうだなぁ」
「こちらは1体あたり銀貨1枚と大変リーズナブルとなっておりまして」
「へぇ、さっきのよりはお買い得」
「んん、灰色一色ってのはなぁ。色がついてたらもっと良いんだけど」
「あ、ございますございます。要望も多くて」
あるんだ。色付き石像。
と、店員が持ち出してきたのは彩色された石像。単色ではなくちゃんと鳥の色合いに合わせて塗り分けられており、本当に本物の鳥のようである。
石化させただけだと灰色一色のはずなので、だいぶ手が込んでいる品といっていい。
「ほぉ……すごいな」
「こちらは色付きの小鳥、銀貨5枚ですね。在庫も少量で、次にいつ入荷できるかもわからないです」
「あら。入荷数が少ないの?」
「いえ、売れ筋で飛ぶように売れるんですよ。鳥なだけに!」
ははは、上手いことをいいおるわ。
折角なので村の経済を回すのも兼ねて1体買ってみることにした。
……【クリエイトゴーレム】で調べると、内臓はなくちゃんと石像である。うーん、バジリスクの石化ってどういう仕組みなんだろうな。スキマがあったら埋まっちゃうのか?
「なかなか面白いものが買えたわね」
「ソトのやつ、こんな小遣い稼ぎしてたとは……」
「レオナとのデートにお金でもかかるんじゃない? ま、自分で稼いでるなら私としては口を挟む程の事じゃないわ。犯罪というわけでもなさそうだもの」
しっかり自立した娘だよなぁ。自立し過ぎてると言えなくもない。ちゃんとソトカリなんて偽名まで使ってて身バレ対策もしてるようだし。
俺達は置物屋を後にしてデートを続けた。
……なんと、その後も気になった店を覗くたびに「カリーニ様」「リソット嬢」「ニソト殿」と、多数の「ソトカリ氏」の類似名を聞くことになった。
さすがカリソト区であるというかなんというか……やりたい放題やってるな??
まぁ合法的にお店に納品したりレシピを提供したりしているようなので怒るような内容は一切ないのだが……ソト、多才すぎない?
「私の娘、天才すぎるんじゃないかしら?」
「なにかカラクリがありそうだな。……いや本当に一人でやってる可能性もあるけど」
なにせ我が娘ながら、未来知識とかを得ている存在である。
一応、帰ったら聞いてみようかな。