軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:とある薬草採取冒険者と、ケーマ・ゴレーヌの闇

ゴレーヌ村。カリソト区にある酒場で飲んだくれている冒険者が居た。

「ダンジョンを見つけたんだ。俺が……!」

彼はダンジョンを見つけた冒険者だった。

カリソト区の設立に伴いやってきた冒険者の一人。

元々は薬草採集の依頼。山奥の方、普段はいかない場所へ行ったのだ。

未発見のダンジョン。

ダンジョンの発見は、多額の報酬が得られると共に……冒険者にとって大変な名誉である。

ダンジョンの発見者は、そのダンジョンと共に歴史に名が残ると言っていい。

冒険者の夢の一つである。

だったのに。

手元に残っていたのは、多額の報酬、金貨10枚という大金だけだった。

「なにが……『ゴブリンの巣穴だ』、だ! あんな巣穴があるかぁ!」

しかもそこは既に発見済みで、調査中だったという。

村長の、ケーマ・ゴレーヌの手によって。

ギルドで、未発見の新ダンジョンがあると報告した。

ギルドでも把握していない場所。今まで目を付けられていなかった場所。地図を見ながら報告していると、ゴレーヌ村村長、ケーマ・ゴーレヌがやってきた。

「丁度俺も、ダンジョンかもしれない場所を見つけていて調査中だった。……ああ、間違いないな、同じ場所だ」

ケーマ・ゴレーヌは広げていた地図をチラリと見て、そう言ったのだ。

間違いなく、報告した内容を確認してから、そう言った!

「村長様。そのような怪しい洞窟があったというなら、その時点で報告してください」

「すまない。確定してから報告した方が良いと思っていたんだ」

いけしゃあしゃあと、そう言う村長。

その目は間違いなく、地図を見ていた。そして、ダンジョンの近くをトントンと叩く。

「ゴブリンの巣の可能性が高くてな。……しかし、調査中だったからこのあたりに立ち入り禁止のためロープを張っていたはずだが……見なかったか?」

「……見ていない。そんなものは無かった」

断言して良い。無かった。

無かったのだ。

だが、その後村長ケーマ・ゴレーヌを連れてギルド職員と確認しに行った時、そこにロープが落ちていた。

「ああ、どうやら村長様のいう事は本当のようですね」

「すまないな、こういうロープを張るのは不慣れで落ちてしまっていたようだ。妙に期待させてしまったようで」

嘘だ、と思った。

薬草を探していたのだ、こんな風に地面に落ちていたなら見ていないはずがない。

汚れてはいるが、妙に綺麗なロープだった。擦れた様子のない新品同様の。

ここで男はハッとした。

……思い起こせば、男がギルドに報告しに行った時、ケーマ・ゴレーヌの奴隷が走って行くのを見た記憶があった。

ロープ? そんなもの、誰かに命じればあとから置いてくことだってできる。

つまり。

これは、手柄の横取り。

「悪かったな、妙な期待をさせてしまったようだ。なに、ここにあるのはゴブリンの巣穴だよ。俺の調査では、まず間違いない」

「そんな、はずは……」

洞窟の中も見たのだ。ゴブリンが立って居た。

野良のゴブリンとダンジョンのゴブリンの違いくらい知っている。野良のゴブリンは茶色い。身体に泥を塗っているのだ。それが無かった。

「そうだ、迷惑をかけた詫びというのもなんだが、ポケットマネーからダンジョン発見の報奨金と同じ額を出そう。……確か、金貨10枚だったか?」

そう言って、ケーマ・ゴレーヌは男に金貨10枚を、無造作に手渡した。

……大金である。金貨10枚。

バカにするな、と投げ捨てるには、あまりにも大きな金額だった。

最初はダンジョンの近く、ギルド隣の酒場にて叫んでみたのだ。

「聞いてくれ!! 俺はダンジョンを見つけたんだ! なのに、手柄を奪われた!」

「何、そうなのか!?」

「そりゃー許せんな。どういうことだ、話を聞かせてみろよ」

最初はそう聞いてくれた。しかし、その相手がケーマ・ゴレーヌだと聞くとアッサリ手のひらを返される。返されてしまった。

「いや、ないない。村長が人の手柄横取りするなんてありえないよ」

「ケーマさんが? ははは、そんなら本当にゴブリンの巣穴だったんだろ」

「オフトン教の教祖様がそんな嘘つくかよ。お前カリソト区で来た口か?」

カリソト区ができる前からこの村にいる古参達は、新参の男の話を笑って聞き流した。

それを聞いて、酒場にいた連中は「まぁ残念だったが、本当にダンジョンじゃなかっただけだろ?」と、そういう空気になった。

無名の冒険者と、この村で並ぶ者のない有力者。

どちらに信用があるかは、一目瞭然だった。

「金に困ってる訳もないしな。そもそもなんのため手柄を奪うってんだ?」

「そりゃ……ここで一番の冒険者の座を守るため、だろ!!」

「ハハハ、揺るがねぇよ。そんならむしろお前にダンジョン発見の手柄やった方が良いさ」

「あの勇者ワタルがこの村に住んでもケーマさんの方が上よな」

そう言って笑う連中。そんなばかな、本物の勇者ワタル様と会ったことも無いだろうくせに、と顔をしかめた。

そこに味方は居ない。

かくして、男はギルド隣の酒場から逃げ出し、カリソト区にある酒場で飲んだくれている。

……金ならある。数年は仕事をしなくてもいいくらい。

名前は残らない。あのダンジョンは、引き続きケーマ・ゴレーヌが調査するらしい。

このダンジョン村にて、一番の冒険者。

男は、その『裏』を見たと思った。

「くっ……ぅぅぅ、俺が……俺が見つけたダンジョンなのに……」

ほとぼりが冷めた頃に、ダンジョンを見つけた、と報告が上がるに違いない。

ケーマ・ゴレーヌの名前で。

「マスター、この方に一杯」

「……あん?」

すると、横に座った男が酒を奢ってきた。

……金ならある、と言いたいが、奢ってもらえるものを拒む理由もなかった。

「あなたは、ダンジョンを見つけたそうですね」

「……! ああ、き、聞いてくれるのか?」

「ええ。そして、村長のケーマ・ゴレーヌに手柄を奪われた、と」

「そう、そうなんだよ!!」

「詳しく教えてください」

その男は、話を聞いてくれた。

もう、それだけで良かったうえにしかも酒を奢ってくれた。

信頼するには十分だった。

「ふむ。話を聞くに……間違いない、そこはダンジョンでしょう。ケーマ・ゴレーヌが金を渡しているのが何よりの証拠だ」

「そうなのか? こんな大金を払ったら大損じゃないか」

「考えても見るといい。ただのゴブリンの巣だったとしたら、大損するだけ。だが後で報告の報酬が入るなら?」

「!!」

「金には困っていないのだから、欲しいのは名誉だけ。金だけ渡して口止め……どうです? 後ろめたい事がある証拠だ」

「そ、その通りだ。天才かお前!?」

「いえいえ。あなたもお酒が入っていなければ、よく考えたら分かる事ですよ」

そうかな、そうかも。そうに違いない。と、男は頷いた。

「……だが、もう俺にはどうしようも……」

「それならば、いっそそのダンジョンを壊してしまえばいい」

ダンジョンを壊す? 大犯罪だ。ダンジョンを壊すなど。

「思い出してください。ダンジョンじゃあない、ということになっているんですよ」

「……あれ? でも、ダンジョン……いや、ダンジョンじゃあない、んだよなぁ?」

そう。ケーマ・ゴレーヌ曰く、ダンジョンではないのだ。

ならば、自分がそのダンジョン……のようなゴブリンの巣をどうしたって、犯罪にはならないのだ。なりえないのだ。

「ではこうしましょう。そのダンジョン……いえ、ゴブリンの巣を破壊するのは我々が。あなたはその場所を教えてくれればいい」

「……それは」

「これは情報料です。どうぞ」

そう言って、金貨1枚が置かれた。……ケーマ・ゴレーヌから渡された金貨10枚に比べれば少額だが、薬草採集で生計を立てていた彼が断る理由は……なかった。

* * *

「……っちゅー感じで聖王国のスパイに情報漏れてたんやけど、どないするー? 処しとくー?」

「いやぁ、あいつが見つけたのは確かにダンジョンだったわけだから、そこまではしなくていいと思うよ」

言われてみて確かに名誉得る機会をなくしちゃったのは可哀想だったな、と。

なんなら別のダンジョンを作ってそっちを紹介しなおしてやっても良いかなぁ……と思ったけど、スパイに情報売ったんならまぁそこまでだ。

「ちなみにほっといたらスパイに殺されると思うんやけど。口封じと資金回収に」

「……さすがにそこまでは後味悪いから、命は助けてやろう」

「お人よしやなぁ。金やったんやしもうええやん?」

「あの世に金は持ってけないからな。しばらく監視しといて」

「了解や。レイにもウチから言っとくで」

スパイの方は適当に処分してもいいな。ダンジョンの方にくるならそのまま行方不明になってもらえばいいか。

「それにしても、聖王国のスパイかぁ。何してるんだよそいつ」

「通常業務の破壊工作やろ? よもや聖王国の聖王候補がそこで試練中、だなんて知る由もないやろーし」

「それはそうか。偶然って怖いな」

「この村が目を付けられてるのは確かやし、偶然とも言い切れんけどな?」

そういえばそうだったね。