軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

儀式(ラギル視点)

「どうやら魂が早いうちに蘇生せねば消失してしまうようでしてな。一刻も早くせねば、というわけです。実はすでに手遅れになっている可能性も高い」

そのような説明を聞き、早速儀式魔法【リザレクション】を行うことになった。場所も闘技場である。なるべく死んだ場所に近い場所で、ということだ。

儀式魔法の魔法陣を描いた上に 故(こ) ロネスキーの死体を場に出し、それを囲んで呪文を唱え始める。

「■■■……■■■■■■、■■■、■、■■」

「……■■■、■■■■■■。■■■……」

「…………■■、■■■■…………■■■」

「■■■■■■■■■、■■■■■■■■■、■■■」

「■■■。■■■。■■■」

ナリキン、聖女アルカ、マグニ、それとナリキンの妻2人が呪文を重ねるようにして唱えている。

マグニが一番呪文を唱えるのに苦労しており、対照的にナリキンの妻たちはサクサクと呪文を唱えている。聖女アルカはその間程度で、ナリキンはアルカよりすんなりと唱えている。

「……■■■■■■。■」

「…………■■、■■■……」

各々目くばせで会話しているが、やはりマグニがついていけていないようだ。

生命力、とか、そういうモノが関係しているのだろうか? それともまさかあの嫁二人の魔力量がそれぞれ上級神官であるマグニを、そして聖女アルカすらを上回っているとでも?

総合力で選ばれるものが聖女とはいえ、それはもう少なくとも聖女候補生であるべき存在だろう。

「…………」

「…■■………」

「■■……■■……」

「…………」

「…………」

と、一番遅れていたと思われるマグニが頷くのをみて、5人が息を合わせる。

――【リザレクション】。

5人の声がシンクロし、魔法陣が光る。

心なしか魔法陣の中心の故ロネスキーの死体に血色が戻った気がする……が、反応がない。光が収まったのちも動く気配がない。

「……失敗したのか?」

ラギルがそう声に出して聞くと、マグニが膝をつく。聖女アルカも肩を落とした。

「……手ごたえ、無し」

ナリキンがそうため息をついた。

「故ロネスキー様の蘇生は不可能なようですね……如何なさいますかナリキン様」

「ぐっ、す、済まない。私が足を引っ張っちまったせいか」

「いや。これはおそらく魂がもうありませんでしたな。マグニ殿のせいではありますまい」

やれやれ、と首を振るナリキン。

「さて。ラギル殿。見ての通り故ロネスキー氏の蘇生は失敗。おそらく人の手では不可能でしょう」

「……あ、え、ああ。お、おう」

しかしラギルはどこかホッとしていた。

つまり、前教皇はナリキン達にはできない、正真正銘の奇跡を起こして見せていたということなのだ。

「しかたない。この手は使いたくなかったのですが……遺言だけでも聞いておきますか?」

「は?」

遺言。遺言とは、どういうことだ。

「肉体、頭には記憶が残っているそうなので、仮の魂を植え付けることで死者の記憶を読み取れるのです。本人が心残りに思っていた遺言等がないかを聞く、ということは可能でしてな」

「か、仮の魂!? どういうことだ!?」

「ええと、ネクロマンサーに近い技能で死体に魂を宿らせるのです。ただし本人ではない、良くて本人の模倣です」

それは。

ラギルは息をのんだ。喉がカラカラだった。

……記憶を、失って蘇る者がいた。いや、それでも大きくは記憶を損なっていない事が殆どだ。だが細かいところで、死亡前にあったクセが無くなっていたり、習慣にしていた事が消失したり、書類仕事のやり方が分からなくなったという事例があった。

「そ、それはしなくても良いのではないかな」

「おや。折角だ、金庫の番号でも聞いといたらいいんじゃないか? ロネスキーにも葬式は必要だろう」

「マグニ婆! ね、ネクロマンサーなど、光神教で扱って良い術ではないだろう!?」

意外にも好意的な反応だったマグニ。ラギルは手を横にブンと振って止めようとする。

何故止めようとするのか。

ラギルも良く分かっていないが、やっては、やってしまっては何かがマズイのだ。そんな気がしていた。

「ああいえラギル殿。ネクロマンサーに近い、ではありますが、ネクロマンサーではないのですよ。あるいは、むしろ錬金術というべきでしょうかな? 仮の魂を作るので」

「魂の創造……それはもう、錬金術なのか!? 神の所業ではないか!!」

「そこまでではありません。仮の魂なので長くは持たないのですよ、いやはや、ゴーストでもテイムできていれば別だったのですが」

そう言って肩をすくめるナリキン。

ゴーストを、テイム? それで何を……それを、死体に宿らせようと? はぁ?

「ご、ゴースト? ゴーストを宿らせると、ど、どうなるのだ?」

「ゴーストであれば仮の魂ではなく別の魂です。長く、それこそ元の寿命と同じくらい生きられるでしょうが、まぁ実際別人ですな。記憶はあるのでフリはできましょうが」

「……」

ラギルは、理解してしまった。

それが前教皇の奇跡にとても近いと。

「まぁゴーストをテイムするのはテイマーよりネクロマンサーの技能でしょうな」

「あ、ああ……」

「それで、やってみても良いですかな? マグニ殿は乗り気のようだ」

「…………あぁ」

ラギルは、力なく頷いた。

「――偽魂生成。……セット。ああ、【リザレクション】がまだ有効だったようだ、もういちど呪文を唱える手間が省けましたな」

ナリキンがそう言うや否や、ロネスキーの死体が、目をぱちりと開けた。

ゆっくりと上半身を起こすロネスキー……いや、ロネスキーだったもの。故ロネスキー。

「……」

「なるほど、こりゃ別人だ。本当に記憶はあるのかい?」

「何か聞いてみましょう。死ぬ直前に食べたものは?」

ナリキンの質問に、故ロネスキーはゆっくりと口を開く。

「……記憶にありません」

ナリキンの顔を見るマグニとアルカ。

「おい、本当に記憶あるのかい?……確かにロネスキーの声で、動いてはいるようだが」

「ほ、本人が覚えていないことは思い出せなくても仕方ありませんので」

「まぁロネスキー様はお年でしたし、朝ご飯に何を食べたかを忘れていることもあるでしょうね」

別の事を聞こう。と、ナリキンが質問をしようとした時、故ロネスキーが再度口を開いた。

「いいえ。直近7日で、水以外なにも口にしておりません」

それを聞いて、マグニが故ロネスキーを問い詰める。

「なんだと? それは少し話が変わってくるね。どういうことだい?」

「…………必要なかったようです」

「必要が無かった? なんだそれは。ロネスキーが人間ではなかったとでも?」

「そのようです。アンデッドでしたので」

アンデッド。

そう聞いて、心ここにあらずとじっと見守っていたラギルがハッと気が付いて、駆け寄ってきた。

「なん、だと? アンデッド!? ロネスキーがアンデッドだったと!?」

「はい。アンデッドです。ゴーストが身体を動かしていました」

「ゴースト!? ばかな、ばかなばかなばかなッ!! いつ、いつからだ!? その7日前か!? だろう!?」

「……数十年前。最初の蘇生からです」

「そんな……それでは、儂の知るロネスキーは……ゴーストの操り人形だったのではないか!」

ラギルが頭を振りかぶる。

ガンッ、ガンガンッと頭を地に何度か叩きつけ、止まる。

その心情はいかなるものか。

老齢になるまで信じて作り上げた常識という塔が、詐欺師に渡されたレンガで作られた代物だった。人生を揺るがす衝撃。塔が崩れる。詐欺師のレンガは、この衝撃への耐震基準を満たさず砕けた。塔に大穴が開いた。それも骨子となる部分に。

もはや崩れる以外、ない。

ぐぁぅ……と声にならないうめき声をあげ、地に涙が落ちた。

「……あー……なにか、ロネスキーの遺言のようなもの、心残りはあるかい?」

「はい。ゴーストの記憶ですが。……ナリキン殿は教皇に相応しい、これで光神教は安泰だろう。と、コロネットという吟遊詩人を支援したい、とのことです。死が突然でしたので、それ以外は」

「む、隠し子か何かか? いや、わかった。手配しておこうかね」

「ありがとうございます、と、この者であれば礼を言っていたでしょう」

それからマグニが二、三質問をし、 仮初(かりそめ) の魂による蘇生の奇跡は終わった。

再び眠りにつくロネスキーに対し、マグニとアルカはそっと黙礼する。

ナリキン達も、それに倣って死者を見送った。