軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

教皇選

送り込んだスパイが教皇の最有力候補って? どういうことなん……??

俺は憑依している小鳥の頭を傾げた。

『なんでお前が教皇の最有力候補になってんだ?』

「はい。情報を得るにはなるべく上の立場に食い込む方が良いですよね? そういうわけでちょっと地位を上げてみていたのです」

……うん、話は分からなくもない。

下っ端より多くの情報を得られるのは間違いないのだ。

のだ、が……

『ちょっと、で最有力候補になったのか』

「はい、なってしまいました。先程、他の有力派閥のトップである神官が俺を支持すると表明したそうで……その票を考えると、1位になります」

『どうしてそうなった?』

俺は憑依している小鳥の頭をさらに傾げた。

「確認してみましょう……ふむ、ふむ。なるほど」

ロクファに念話を飛ばして確認するナリキン。

「分かりました。自爆テロを繰り返す派閥争いに嫌気がさしたそうです」

『さしちゃったか、嫌気』

「ええ。気持ちは分かりますよ? 俺のように何か大事な命令を受けていなければ、こんな国で派閥争いなんてやっていられませんよ」

『そういうもんか?』

「元々聖職者になるような人物ですし、痛む良心があったのでしょう。そして俺はマスターの期待に沿うべく前向きに、しかし今回はテロのような目立つ犯罪行為は行わないようにしていますから。外から見たら、清廉潔白の有力候補とみえるのかと」

やったのは買収して公文書偽造をさせた程度。うん、自爆テロに比べてなんて平和的。

その上で、他がマイナスすぎて勝手にプラスになったか。

「あとはロクファに忠誠を捧げたいとかなんとか」

『……そういや天使だな。ロクファの正体はバラしたのか?』

「いえ、絵に描いただけですぞ? 羽があると見栄えが良くてですな、出してもらっていた――ああ、そこをどこかの密偵に見られた可能性はありますな。ウカツでした」

というか、絵を描くのかナリキン。趣味? あ、そうなんだ。へー。

『いや、そのくらいなら丁度いい流出だろう。そもそも天使であることをいずれ利用できるならしようと思っての選択だったわけだし、教皇になるために使えるならバラしてもいいんじゃないか?』

「かしこまりました。まぁ、いざとなればまた逃げればいいですしな」

人工ダンジョンの騒動のとき、逃げて顔を変えたんだったか。俺に似た顔に。

……あの時はテロリストだったけど、今度は教皇かぁ。ナリキンの人生は波乱万丈だなぁ。

「では、このまま教皇を目指しますね、マスター」

『ああ。手伝えることがあれば言ってくれ、ナリキンが教皇になって、俺達に悪いこともないだろう。最悪、運営を失敗して国を潰しても何ら問題ないしな』

「かしこまりました」

周辺が荒れるのに巻き込まれるかもしれないが、コッソリ暗殺者を差し向けられたりするのよりは気が楽だし警備も楽だろう。

「では早速なのですが、教皇になる試練というものがありましてな」

『試練? 選挙だけじゃないのか』

「はい。どういう試練が課せられるかは分からないのですが、今までの例では『谷に橋を架けろ』だとか、『錬金術の秘宝を手に入れよ』だとか、『ソロでダンジョンを攻略せよ』とか、そういうものがあるそうです」

選挙で選ばれた上で、試練を乗り越えることでようやく教皇になるという。

これは実力のない者が教皇にならないようにという仕組みらしい。

そしていかに無茶ぶりを出すかが対抗派閥の腕の見せ所。

試練を達成できなかったときは、試練を出した者が『回答』としてその試練を達成してみせる必要がある。ここで出題者も失敗したらノーカウント。改めて別の試練に挑戦できるとか。

つまり、自分が達成できる範囲のギリギリをつくか、という戦いらしい。

『なるほど』

「というわけで、俺が最有力となった以上、何かしらの試練が課されるでしょう。その時はご助力を願えれば」

『ソロでダンジョン、みたく助力無しで何かしろとかいう試練だったらどうする?』

「バレなければよいのです」

バレなければいいって。

「そういう能力も試されるということですよ。まぁ、この国の者相手であればダンジョンのアレコレを使ってもバレないでしょうし」

『それはそうだ。というか、どこからが助力なのかって話か。店で何か買うのも店主が助力といえなくもないし』

「ええ。とはいえ嘘検知の魔道具もありますので、そのあたりをご協力願えればと」

『分かった。もしアドバイス禁止とかいう話だったら近くで独り言喋りまくってやるよ』

「はっはっは、さすがマスターですな」

『はっはっは、これくらいは標準だろう』

さて。いったいナリキンにはどのような無茶ぶりが投げられてくるのだろうか?

* * *

翌日、ナリキンが神殿の廊下を歩いていると、緑髪の聖女アルカが話しかけてきた。

「ナリキン様。少々よろしいでしょうか」

「む? 聖女殿。なんでしょうか」

「あなたは教皇になる気はありますか?」

ニコリと可愛らしい笑みで、この国の最高権威についての質問を投げられる。

しかしこれは雑談ではない。打診でもない。

『聖女』による正式な試練の通達。聖王国にある逸話で「大事な話は突然現れる」というものがあり、それを模した正式な手順のひとつだ。

ある種の儀式と言っても良い。

つまり、今この時から、ナリキンに教皇の試練が課せられるということだ。

今回はそういう形式で声をかけられる、とあらかじめ ナーナ(トイ) から聞いていたナリキンはニコリと笑い、答える。

「……ええ、ありますとも」

「なによりです。では、こちらへどうぞ」

「はい、聖女殿」

そして、神殿の奥、儀式の間に案内される。

白い壁に金銀の祭壇が置いてあるそこには、3人の老人、上級神官が待ち構えていた。

この3人から試練が出される。

老婆を挟んで2人の爺。

この老婆は確か元聖女候補だった上級神官で、聖女の在り方を守る為に聖女を教皇にしようとしている聖女派とは対立しているが、中立派ということになっている。

右の禿げ爺はまさにその聖女派であり、眉間に皴が寄っているのを隠しきれていない。

左の帽子をかぶっている爺はナリキンに付いた、いわば味方の者で、柔和な表情をしている。

老女が代表して声をかけてくる。

「ナリキン。そなたに教皇になるための第一の試練を伝える」

「はっ」

片膝をつくナリキン。

老婆はナリキンに、一冊の本を差し出す。革張り、宝石飾りのついた立派な装丁で、羊皮紙の古本だ。それは、光神教の逸話をまとめた聖書であった。

「第一の試練。導く者は、守る者でもある。故に、この聖書を守り抜くべし。期限は、1ヶ月」

「……確かに、受け取りました」

思っていたよりも簡単そうな試練だ。

おそらくこの第一の試練は、味方の爺によるものだろう。これなら【収納】にしまうなり、マスターであるケーマに預けておくだけで達成できそうだ。

そう思っていたナリキンに、老婆が更に声をかける。

「――ただし、常に見えるように所持する事」

少しだけ、厄介な条件が追加された。