軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……はぁ??(上級神官視点)

教皇派――教皇が消えてからは保守派と呼ばれる派閥の筆頭である上級神官、ラギル。

詳細は省くが、ラギルの立場では、下手な教皇が擁立されるくらいであれば教皇の座は空位である方が望ましかった。

このため、彼は失踪した教皇が帰ってくるまで、教皇の座を空位にしておくことを狙っていた。

新教皇の座を狙って幾人かの候補が現れたが、そのうちの何人かは、ラギルの指示によって排除されている。

しかしついにナリキンとかいう成り上がりの神官が教皇候補として正式に推薦されてしまったのである。

ナリキンは上級に昇格した際には商人等から推薦を受けている改革派の神官であり、ラギルにとっては非常に都合の悪い教皇になる未来しか見えなかった。

幸運にもラギルはこのナリキンの教皇試練担当者に選ばれた。余程の状況でなければ多数の派閥から担当者が選ばれるため、当然の成り行きではある。

さて、そんなわけでナリキンに与える試練についての話し合いにおいて。

改革派の上級神官ロネスキーが「聖書を一カ月守る」などというぬるい試練を提案していたので「常に見えるように所持する事」という条件を追加してやった。

これをロネスキーだけでなく、聖女派のマグニ婆も納得し、追加が決定した。

「……ふむ、まぁそのくらいであれば。ラギル殿の意見を受け入れますぞ」

「ま、どのくらいが『常に見える』なのかは判断が分かれるところだけどもねぇ」

判断の主な基準としては、民が納得するレベルであれば問題ない、ということになった。条件をあまり締め付けすぎても、試練担当者による見本提示不可能で再試練になるだけである。

誰に見えるようになのか、頻度は。それについては実際に試練を通しつつ柔軟に判断することになった。

――この試験はもちろん、聖書を狙う者が居るのであれば難易度は跳ね上がる。

ラギルは当然、ナリキンの聖書を狙わせるつもりでいた。

ここで聖書を破損させ、逆にロネスキーの見本提示時は狙わなければナリキンを試練失敗に陥れられ、ラギルの目的を果たすことができるだろう。

……と、そのように決まった試練を与えたのが、先日の事だ。

今日のところは、刺客を送り込むためにナリキンがどのように聖書を所持しているのかを探る予定だった。時間は1ヶ月もある。じっくり攻めてやればよい。

人間である以上、寝る時間などもあるのだから。

「ら、ラギル様、大変ですぞ!」

「どうしたバラクド」

同じ派閥の上級神官バラクドがラギルの執務室に入ってきた。バラクドにはナリキンを探る仕事を与えていたはずだが……大変とは、何があったのだろうか?

「ナリキン、あやつ、この町を出ております!」

「む? 早速逃げ出したというわけか。ふぅーむ、これは流石に民も納得しないだろう、我々が手を下すまでもなく、試練は失敗か」

クックック、と笑うラギル。しかしバラクドは首を横に振った。

「違うのです、町を出ておるのですが、その様子を広場で見ることができるのです!!」

「……何? どういうことじゃ?」

「遠見の魔道具、というものが使われているのです! と、ともかく実際見てみるのが早いかと!」

急かすバラクドに、ラギルは渋々と腰を上げた。

そして広場に案内されるとそこには人だかりができていた。

「なんじゃなんじゃ、この人だかりは? 散れ、通せ!」

「なんだじいさ……ああっ、ラギル様! 失礼しました! お、お通りください!」

そうして人だかりの中心にたどり着くラギル。そこには、土台つきの四角い大きな板と、その板の中に動くナリキンの姿があった。どこかの洞窟の中にいるようだ。

その胸元に、革のバンドで留められた聖書が括り付けられている。

「な、なんじゃこれは……?」

『む? おお、これはこれはラギル上級神官ではありませんか』

「!? な、ナリキン! ワシの事が見えておるのか!?」

『魔道具のおかげですな。親機と子機で姿を見合い、会話ができるのですよ』

ほらこの通り、と子機――腕輪を、板の中のナリキンが見せつける。そこに付いている小さな板には、確かにラギルの顔が映っていた。

手を動かせば板の中のさらに小さな板の中のラギルが手を振った。……少しの時間差と、鏡と違って左右対称になっていないのが奇妙な気分だった。

「……なんと。こんな魔道具、見たことないぞ……国宝級じゃ!!」

『ご慧眼です。これはまさに、とある王族からお借りしたもの。いやぁ、我が試練に必要だと言えば快く貸してくださいました。……1日の起動時間に限りはありますが、便利ですなぁ』

しれっと王族とのコネクションを自慢された。どこの国の王族かは分からないが、町の外と中である距離を問題なくつなげ、会話できる魔道具だ。相当な代物である。

「そ、それでナリキンよ。貴様、何をしておるのじゃ?」

『ああ。ダンジョンに潜っているのですよ』

なんでもない事のように、ナリキンは言った。

「……は? ダンジョン?」

『ええ。だって、『一カ月、聖書を人々に見せつけながら守る』 だけ(・・) 、とは……あまりにも 簡単過ぎる(・・・・・) でしょう? ですので、こうしてダンジョンを攻略しつつ、その様子を人々に公開してみようかと』

「……はぁ??」

簡単。試練が。だからダンジョンにも潜ることにした。

……訳が分からない!! 簡単であるなら、簡単でいいではないか!?

『とはいえ、1ヶ月でどこまで攻略できるかは分かりませんが。ソロですし』

「は、ソロ!? ソロでダンジョンに挑んでおるのか!?」

『何か問題でも? ああ、増援などは要りませんぞ。そんな生ぬるい攻略をしてもつまらんですしなぁ! 精々楽しませてもらうとしますよ――おっと、モンスターだ』

ナリキンの言葉と共に、魔道具の板に映った光景が動きゴブリンが現れた。武装もしている――が、ナリキンはそれをあっさりと切り捨てていた。

再び、魔道具の板はナリキンを映した。

「な、ナリキンよ。どこのダンジョンに挑んでいるのじゃ?」

『それについてはまだ秘密です。ここまで言っておいて、1ヶ月で攻略できなかったときに恥ずかしいですからな……!』

ばちこーん、とウィンクをするナリキン。

『おっと。そろそろ魔道具の通信限界です。今日の通信はここまでですな。ではまた明日、同じ時間にお会いしましょう! 皆も是非また明日見に来てくれ! ではな!』

「な、ま、待て! もっと説明を――」

ぷつん、と一瞬にして板は黒く染まった。

……訳が、分からなかった。