軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ランクS

長く豊かな髪は暗めの 金髪(ブロンド) で、背後に無造作に流されていた。厚手の布地を使った若草色のロングスカートでは隠しきれない、むっちりとした太ももからヒップへのラインが見える。

白のブラウスは本来ならば清潔さや礼儀正しさをうかがわせるはずのものだろうけれど、彼女に関してはふくらんでいる胸といい、むしろ蠱惑的ですらあった。

一切、武装はしていない。

服装だけに関して言えば、そこらの町娘となにも変わらない。

だというのに——彼女が醸し出す空気は一種独特だった。

いつしかギルド内は、しん、と静まり返っていた——いや、違う。ヒカルの耳から他の音が消えただけだった。

彼女が石の階段を踏む音だけがヒカルの耳には聞こえていた。

一階に降り立った彼女は、フロアへと顔を向けた。

(——なんだ、その顔は……)

なにげない表情だった。ゆるやかなカーブを描く眉と、長いまつげの下、青い目がじろりと周囲を見回しただけだった。

(なんだよ、その目は)

だというのに——ヒカルはその目の向こうに、ぽかんとした穴を見た気がした。

底の知れない、穴。

誰も知らない深海の底に空いた、大穴。

それはとても静かで、寂しく、根源的な恐怖を呼び起こすものだった。

「——…………——」

紅を引いているらしい、ぽってりとした唇が動きなにかを話した。彼女の言葉を聞いたギルド職員は慇懃に頭を下げると奥へと向かっていった。

彼女は、それに満足したようで、ギルドの外へと歩き出した——つまるところヒカルたちのいる入口へとやってきた。

( 視(・) たほうがいい)

近づいてくる、彼女のソウルボードを確認したほうがいいとヒカルは感じた。

ソウルボードが確認できる距離は5メートル。彼女が近づいてくる。あと5歩、3歩、1歩——。

(——えっ?)

ソウルボードが、表示されない。

そんなわけがないと思ってもう一度念じたがまたも出てこない。

そうこうしているうちに彼女はヒカルたちの横を通り過ぎていく。

「——…………——妙なこと仕掛けないで…………——」

ぽつりと、妙な間で、ヒカルにだけ聞こえる声で彼女は囁いた。

心臓をわしづかみにされたように感じられ、冷や汗が噴き出す。

だがヒカルが反応するまでもなく彼女はそのまま通り抜けていった。

「くう〜〜〜やっぱりカッコイイですよね、ルナムートさん!」

周囲の音が、戻ってくる。

アリスの声に、ぼんやりとヒカルは反応した。

「ルナムート……?」

「え、つい今話したばっかりじゃないですか! ここを通っていかれたランクS冒険者のルナムートさんですよ! どんな人にも優しくて、強いだけじゃなくて人間的にも完成しているとかヤバくないですか?」

「……そうだな」

どうやら聞いていなかったうちにアリスが話していたらしい。

ヒカルは振り返ったが、すでにルナムートの姿は遠いところにあった。しっかり歩いているようで、ふらふらと消えてしまう蜃気楼のような危うさを兼ね備えている——そんなふうにヒカルには見えた。

「ヤバそうだな、アレは」

ヒカルは自分のソウルボード能力がおかしくなったのかと思ったが、そんなことはなく、自分のものもラヴィアやアリス、ポーラのもの、通りがかりの人のものも問題なく表示できた。

(となると、どうしてルナムートだけは表示できなかった……? ソウルボードを無効化するような魔道具を持っているとか? あるいは「職業」……ソウルボード上では「加護」と呼ばれているものが関係しているのか?)

いずれにせよ、今までにないことではあった。

ルナムートがランクSである実力者というのもなにか関係しているかもしれない——。

「シルシルさん? シルシルさーん?」

「あ……」

目の前でさっさっと手を振られて我に返る。気がつけば冒険者ギルドからほど近い食堂にやってきていた。

アリスの知人がやっているという定食屋で、昼時だからだろう、多くの客で賑わっていた。

「シルバーフェイス。どれにする?」

ラヴィアに指差され、ヒカルは壁に掛けられたメニュー表を見やる。皇都が内陸部だからだろう、肉料理が多く、少数ながら淡水魚のメニューもあるようだった。

「ええと……スターフェイスはなににしたの」

「わたしはコウナツパワーサラダ」

むふー、と鼻の穴をふくらませながらラヴィアは言った。コウナツがだいぶお気に召したらしい。

ヒカルは無難にシチューを選んだ。ソウルボードのことは気になるが、ルナムートの協力を得られない限りいずれにせよ検証不可能なことだ。

食事をしながらアリスがルナムートについて教えてくれる。

「なんとルナムートさんは、ランクSなんていう飛び抜けた階級にもかかわらず、誰も受けてくれないようなドブ掃除の依頼とかもやってくださるんですよ」

「ルナムートさんは単独で活動されてます。誰もついていけないんです」

「ランクSの昇格には各国首都の冒険者ギルドがこぞって推薦したそうですよ!」

「ルナムートさんがその名を轟かせたのは彼女がランクCだったときなんです。皇国の辺境の町に、『家喰い』の異名を持つ巨大モンスター、カニバルギガントが10体以上出現したことがありました。ルナムートさんはたったひとりでカニバルギガントを……彼女の身長の5倍はあるというモンスターを倒したんですよ。それも全部!」

国家スパイという、「自由が命」の冒険者から見れば対極に位置するようなアリスが、聞いてもいないのに興奮しながら教えてくれる。

ルナムートは片手剣が主たる武器だが、魔法も使える万能プレイヤーなのでふだんは周囲を威圧しないよう武具を装備していないらしい。

(威圧しない……?)

ヒカルからすればルナムートは「歩くバケモノ」なのだが、「直感」持ち以外には伝わらないようである。

(さっき、僕がソウルボードを見ようとしたことも気づいていたし)

そう言えば過去にも「直感」高レベル持ちにはソウルボードの発動を勘づかれたことがあった。「隠密」を使用しているとき以外はむやみと使わない方がいいかもしれないとヒカルは考えた。