軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

招かれざる客

まったく同じじゃないか、とヒカルはコウナツを食べながら思った。

見た目は日向夏。日向夏の品種には「小夏」というものがあるので、名前まで似ている。

これはまた、過去に転生者や転移者がいたせいかなと思わないでもなかったけれど、この程度の一致ならば偶然ということもあり得るので深くは考えないことにした。

「コウナツは美味しい。それが正義」

ラヴィアはコウナツが気に入ったようで、一度食べて以来、見かけてはよく買っている。

そんなに好きなら——とヒカルはアリスに「コウナツをもっと買ってきて」と頼んだのだけれど、アリスは鼻の頭にシワをきゅっと寄せて「拒否で」と短く断ってきた。

その顔が面白かったのでコウナツを見かけるたびに「アリス、あれ買ってきて」と頼むのだが、毎回判で 捺(お) したように「拒否で」と面白い顔をするアリス。

(なにか理由があるんだろうな)

コウナツそのものを嫌っているふうではなかった。なにか別の理由で、アリスはコウナツを買えないのだろうとヒカルは推測した。

しかし見かけるたびに、

「アリス、コウナツ買ってきて」

「拒否で」

というやりとりを続けた。アリスが面白い顔をするせいである。

そんなこんなのやりとりをしながら、ようやっとヒカルたちを乗せた馬車はクインブランド皇国の首都、ギィ=クインブランドへとやってきた。

ヒカルはここへと、これまで2度来ている。

1度目は、死ぬ覚悟を決めたウンケンに頼まれ、皇帝カグライに密書を届けるため。

2度目は、新大陸発見に際してカグライがシルバーフェイスを 呼び出した(・・・・・) ため。

その呼びだし方が、「城門に銀の仮面を掲げる」なんていうシュールかつ斬新な手法だったのでヒカルが呼び出しに気づくまで時間がかかってしまった。

「なんだかんだ、ここに来るときはあわただしいから、今回はちゃんと観光できるといいな……」

と、ヒカルがぽつりとつぶやくと、

「そういうことを口にすると、大体忙しくなるんですよねえ」

と、ポーラが不吉な言葉で反応した。

* *

「——皇帝陛下に、客?」

と、不機嫌な声で応答したのは見事に頭部の中央が禿げ上がっている中年の男だった。

見事な鷲鼻はでこぼこができていて、しかも赤い。ハンカチをそこに持ってきて男はチーンと鼻をかんだ。

「誰だ、それは」

「探ってみたのですが、かなり秘匿性が高いようで、まったく情報が出てきませんでした。いかがいたしましょうか、伯爵」

「ふうむ……」

伯爵は——ゼペッタ伯爵はアゴをなでた。

きらびやかな貴族の服を着てはいるものの、あまり似合っていない。それに室内の調度品も派手さはあるのだが、それは貴族好みの派手さではなく、花瓶やら額縁やらに金箔が貼ってあってキンキラキンである。

「調べてみよう。なにか守旧派を叩く理由になるかもしれん」

「かしこまりました」

執事が一礼して出て行くと、ゼペッタ伯爵は自分の机に戻る。そこには大量の報告書や契約書が積まれてあり、ふう、と一息吐いてからそれらに取りかかる。

彼のデスクには大皿が置かれてあり、コウナツが一山積まれていた。

* *

ポーラの予測とは裏腹に、ホテルのチェックインの後は皇都内の観光となった。アリスが案内に立候補してくれたのだが、同僚のスパイ——たぶんスパイなのだろうとヒカルは判断したのだが、どこかおどおどしている少女だった——がびっくりしてそんなアリスを見ていたあたり、本来なら上司に報告のひとつもしなければいけないところをそっちの少女に押しつける気なのだろう。

「さあ〜行きましょう、シルシルさん!」

意気揚々とアリスが出て行くと、背後にはげんなりした顔の少女が残された。

「……いいのか?」

「なにがですか?」

「いや……まあ、いいや」

皇国スパイの事情になど興味もないので、ヒカルはさっさと気持ちを切り替えた。

「で、どこに連れて行かれようとしているんだ?」

「すぐですよ、すぐ!」

石畳がきっちり敷かれた皇都は美しく、歴史を感じさせる石造りの町並みがある。中央広場には初代皇帝の石像が置かれてあり、右手に剣を掲げ、左手には分厚い本を持っていた。

その周囲は手入れのされた花壇があって、馬車やら荷物を引く商人やら通行人やらが行き交っている。

「ふうん……」

時々、5人ほどの警 邏(ら) 隊が通りがかる。治安はいいようで、さらにはカグライ皇帝の治世もうまくいっているのか、警邏隊は道行く人々に気軽に声を掛けられていた。

平和なのはいいことだ。

アリスが選んだのは乗合馬車で、皇都内をぐるぐると回るコミュニティバスのような役割を持っているらしい。

乗車料金は、銅貨数枚——日本円で100円程度なので安い。

それでも馬車内が満席ではないあたり、皇都とは言え全員が豊かな生活を送っていはいないのだろう。

「さ、こちらですよ」

馬車から降りると、目の前には——5階建ての建物があった。外壁が灰色に塗装されているので、まるで鉄筋コンクリートのビルである。

ただし1階の天井がやたらと高く、常に開きっぱなしの入口は、鉄筋のビルにはないものだろう。

「ずいぶんと大きいな……ここ、 冒険者ギルド(・・・・・・) だろう?」

「ご明察!」

「いや、武装した荒くれ者が出入りしているのを見たら誰だってそう思うだろ」

ヒカルとアリスが入口でそんなことを言っていると、後からやってきたラヴィアが、

「……新たに訪れる大規模な冒険者ギルド。そこではベテラン冒険者から新参者へと荒っぽい洗礼が浴びせられるのだ」

「こ、怖いですね……!」

ポーラをびびらせていた。

ないだろ、そんなもん……と思いながらも、あったらあったで面白そうなのでヒカルはなにも言わずにアリスとともに中へと入った。

「おお……近代的だ」

カウンターと待合スペースが分離していて、依頼の貼られている掲示板は奥にある。冒険者がたむろできるロビーのようなものもあるにはあったが、魔導ランプで非常に明るくなっており、よそのギルドにあるようなある種の うらぶれた(・・・・・) 空気は皆無だった。

「こちらが、我がクインブランド皇国の誇る冒険者ギルドです。なんと依頼の平均処理速度、処理数、成功率のすべてにおいて大陸一なんですよ」

「胸を張っているところ悪いんだけど、別にギルドは独立独歩の組織なんだから、国に所属しているお前が自慢できるものでもないだろ」

「そっ、それはいいんですよ、皇都にあるっていうのが大事なんです」

「あ、そう……」

と言いかけたヒカルはそのとき、

「!」

カウンターの奥、2階に上がる階段から特別な気配を察知した。

「わあ、シルシルさん、ラッキーですね! あの方(・・・) を見られるなんて!」

アリスの言葉が耳を通り過ぎていく。

その女は、ゆったりとした歩調で階段を降りてくる。それだけであればなんでもないのだが、ヒカルは目をそらすことができなかった。

ヒカルと同じように、彼女を凝視している冒険者がちらほらといた——ヒカルと同じように、彼らもまた「直感」スキルを持っているのかもしれない。

「あの方は、皇都ギルドに所属しているんです。冒険者としてはトップ中のトップと言って差し支えないでしょうね! なんせ彼女は——」

アリスは言った。ヒカルの「直感」を裏付ける言葉を。

「——この大陸に2人しかいないという、ランクSの冒険者なのですから」