作品タイトル不明
故国の奪還
改良された移動式ブラストキャノンが火を噴く。
その火は魔術によって起こされたもので、青色の光を放った。
弾丸は、大型モンスターに次々に突き刺さるや同様に青色の光とともに爆裂した。モンスターは肉を削られ、火に焼かれ、絶叫を上げる。
背後に数メートル押されると、そのまま横倒しに倒れた。
『次弾装填!!』
だがジンは手を緩めない。
『目標はどうしますか!?』
『デカブツだ!』
『了解!!』
ブラストキャノンが再度火を噴いた。1発外れ、地面をえぐりつつ石畳をはね飛ばしたが他の4発はモンスターに命中するや爆炎を上げた。
すでに、あのモンスターは動いていない。
風がないために煙がなかなか晴れない。
『やったか……?』
『対象、動きません!』
巨体から血があふれ、地面を汚しているのを観測手が確認する。
爆音に恐れをなしたのか、モンスターの子ども——とは言っても馬ほどの大きさはあるのだが、それらは動かず怯んでいる。
『——突撃兵、抜剣!! 行けェェェェェ!!』
ジンの号令とともに兵士たちが駈け出した。
『仲間を食いやがってェェッ!!』
『死ね!!』
『ぜってぇ許さねぇからな!!』
馬程度の大きさならば大型モンスターをこれまで相手取ってきたドリームメイカー軍の敵ではない。
次々残党の息の根を止めていき、死体の小山から顔を出しただけのモンスターも引きずり出し、斬り殺した。
街が静けさを取り戻すのにさほど時間はかからなかった。
『チクショウ……ひでえ、ひでえよ、こんな……』
肉塊になった仲間の山を見上げて涙を流す兵士たち。
ジンはあらかじめ用意させていた油の壺を持ってこさせ、死体の山へと振りかけていく。
『火を……』
松明に点けられた火を持ったジンは、仲間たちに告げる。
『……助けるのが遅くなってしまって、申し訳ない。だけど俺たちは戻ってきた。みんな、安らかに眠ってくれ……!!』
火を放つと死体の山はよく燃えた。液体まみれであったはずだが、それを超えるほどに可燃性の高い油を用意したことが大きい。中に数匹、モンスターが残っていたらしく炎に焼かれて絶叫を上げていたがそれもまたすぐに止んだ。
黒々とした煙がドリームメイカーの空へと上っていく。
すぐにでも街の制圧行動を起こすべきだとはわかっていたが、ジンはもう少しだけこのままでいたかった。
残りのモンスターはさほど多くなく、街の掃討は1日のうちに終わった。あれほどいたモンスターも消えており、遠目にも確認できるはずのヤママネキなどもまったく見当たらない。
だがそれらの疑念を解決するにはまず街の回復と、周囲の偵察が必要だろう——グルゥセルはそう決断し、全員をドリームメイカーに上陸させた。
長かった逃亡生活は、この日をもって終わったのだと宣言するために。
『ジン、よくやってくれた』
『……いえ、俺なんて……』
今回の作戦で最も重要な役割を演じてくれたのは間違いなくジンだったが、彼の歯切れが悪いことにグルゥセルは気がついた。
『……グルゥセル様、俺もわかってるんです、今日は喜んだ顔しなくちゃいけないって』
家にはまだ入らず、広場に天幕を広げたのは家々の確保を進めると兵力が散ってしまうからだ。明日からはやらなければならないことが多く、兵士の居場所を把握しておきたいために一箇所に集まっていた。
たき火が焚かれ、飯を食って兵士たちはこの国の歌を歌っている。
彼らのどの顔も喜んでいる——ように見える。一見すると。
『でも……心のどっかで思っちゃうんです。逃げ遅れた人もいたんだって。あのときは最善を尽くしてほとんどの人が逃げられたと思ってたんですけど、やっぱり、家族がいないって騒ぐ人もいたし……実際死体を見ると……』
『それはお前の責任ではない』
『……はい、わかっています。でも、それでも、なんとかしてやりたかったって思っちゃうんですよ……』
泣き出しそうな声だったが、ジンは涙をこらえていた。ここで涙を流すことが士気に影響するとわかっているからだろう。
そしてグルゥセルも慰めなかった。
余計な言葉は必要ない。ジンはもうわかっている。そうして今、すさまじい勢いで彼は成長している——。
翌朝から街の復興作業が始まった。一方でジンたち斥候チームは街の外を確認するために森へと出て行った。
森は不思議なくらい静まり返っていたので、偵察任務は拍子抜けするほどになんの危険もなく終わろうとしていた。むしろ、狩りができないと食肉に困りそうだと思えるほどだ。
だが——さらにその翌日、異変を察知した。
『ジン……あれはクインブランド皇国軍じゃないか?』
『そのようだ』
森を潜んで進んでいくと、同じように潜みながら森を進んでいる見慣れた鎧——クインブランド皇国の斥候チームに出会った。
『ふっ。大方、俺たちの様子を心配して見に来てくれたんじゃねえかな』
『そうかあ? アイツら、ドリームメイカーのことなんてどうでもよさそうだったじゃないか』
『いやいや、ああいうヤツらこそいざってときに仲間になってくれるんだよ』
『どっちかっていうとランズハーヴェストじゃなくドリームメイカーに駐屯したいから移動しようとしてるんじゃないかなと思うんだが』
『……ま、ここで話してても仕方あるまい。とりあえず接触してみよう』
ジンたちのほうが森に潜む能力としては長けていたために、向こうはこちらに気がついていない。
なので、わざと音を立ててジンは出て行った。
「友軍! こちらドリームメイカー!」
短い期間ながら接触があったので、覚えた片言の言葉で告げる——。
と、なぜか彼らはぎくりとしたように動きを停めた。
『ん?』
『おい、ジン。なんか様子が変じゃねえか?』
彼らは数人が集まってこそこそとしていたかと思うと、
『あぶねえ!』
ドランがジンを突き飛ばす。彼らがいた場所を数本の矢が通り抜けていく。
携行用の短弓でいきなり撃ってきたのだ——しかもかなりの精度で。
『な、なんなんだアイツらは!?』
『うぐっ……』
『おい、ドラン! ドラン!?』
ジンに覆い被さっていたドランがうめいている。その右肩に刺さっている矢をジンはすぐにも引き抜いたがドランは顔を青ざめさせて震えている。
毒——。
連中は、確実にこちらを殺しに来ている。
『ジンとドランがやられた!』
『応戦!』
『いや、撤退じゃ……』
『とにかくふたりを確認しろ!』
仲間の声が降り注いでくるが、ジンの頭は怒りに染まっていた。
視界が赤く、木立の間に展開している 敵軍(・・) を憎々しげににらみつける。
『……ズズン、ドランを安全なところに』
『ジン?』
『おああああああああああ!!』
怒りに突き動かされたジンは飛び出した。
これまでにないほどに、不安定な森だというのに風のように走ることができる。直線ではなくジグザグに走っていくジンに弓の狙いを定めることができない敵軍へとジンは飛びかかっていく——。
森林に、戦闘音が響き渡った。
『——それで、ドランの容態は』
『なんとか無事です。それよりジンがボロボロで……』
その日の夜、報告を聞いたグルゥセルは眉間にシワを寄せた。
端正なグルゥセルの横顔を、たき火の明かりが照らしている。
ふだんは寡黙なズズンだったが、こういうときは冷静に話ができる。これまでほとんど経験していない対人戦を経て偵察部隊はみんな興奮していたのだ。
『敵はクインブランド皇国で間違いなかったのだな』
『はい』
『…………』
なぜクインブランドが攻撃を仕掛けてきたのか、グルゥセルにはわからなかった。ジンの接触は特に問題があったとは思えないし、彼らがウソを吐いているようにも見えない。
『……ランズハーヴェストでなにかあったのか?』
その仮定に思い当たったが、真実を確認する方法はなかった。
ただ、ランズハーヴェストに連絡員すら置いてこなかったことが悔やまれた。
『明日の朝に、ランズハーヴェストへ向けて船を出す。向こうの真意を問うしかなかろう』
集まっていたドリームメイカーの軍幹部は真剣な顔でそれを聞いた。
『西側に軍を集めておく。……最悪の場合には戦闘になる』