軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不穏の推移

まずは冒険者ギルドによる報告——街の襲撃だ。

これによって結界の1割が損傷しており、予備の魔道具でなんとかカバーできるもののストックがなくなることとなった。

予備がないのはあまりにも不安すぎるためにヴィル=ツェントラに連絡してなるべく早く第2陣を送り出してもらっては、という意見が出た。

それに反対したのはビオス宗主国、フォレスティア連合国だ。彼らはいまだ満足な「竜石」を確保できていないのである。

「ここで魔道具を作ることはできないのかね。幸い、原料となる精霊魔法石の代わりに『竜石』があるだろう」

と、フォレスティア連合国の陸軍大臣が提案する。

ギルドの暫定マスターがそれに答えた。

「結界の魔道具を作る技術は大部分がドリームメイカーのものです。ドリームメイカーの方に聞けば、あるいはできるかもしれませんが……」

「ふむ。そう言えばドリームメイカーはどちらに? ここには姿を見せていないようだが」

「それが」

ドリームメイカーが早々に故郷奪還のために行動を起こしたこと。

故郷を取り戻したいという思いがあまりにも強く、連絡要員も残さず全員でドリームメイカーに向かったことを暫定マスターは言った。

想定よりも早い出立だったので、ここにいる幹部たちは知らなかったのだ。

もちろん、ドリームメイカーまではさほど距離がないので連絡要員はそれほど必要ではなく、全員連れて行っても問題ないだろうという考えでのことだが、「ランズハーヴェスト襲撃」という事件の後では違ったように見えてしまう。

「……考えたくはありませんが、彼らはこの襲撃を知っていて、街を離れたということはありませんか?」

クインブランド皇国の騎士団副長が言うとその会議には沈黙が降り立った。

ここに獣人王ゲルハルトやポーンソニア騎士団長ローレンスがいればまた話は違っただろう。だがその2人はいなかった。ゲルハルトは会議が大嫌いで、ローレンスは疲労の残る王国軍の建て直しに奔走し、代理をこの場に派遣していたからだ。さらに不幸なことにはゲルハルトの代理はゴットホルトではなく別の者で——その者はけんかっ早い獣人だった。

「なんだなんだ。それじゃあ俺たちはドリームメイカーにまんまとはめられたってことか!? 竜石の集まりも悪くなってるしよォ!」

「そこまでは……言っていませんが。しかし状況を考えると」

「——限りなくドリームメイカーは黒、でしょうな。船も彼らでなければ動かすことができませぬ。つまるところ我らは追い詰められている」

陸軍大臣が続ける。

「どのみちここにいてもじり貧となる。なれば、ドリームメイカーに移るしかありませんな。結界もなく船も動かせない状況です。もしもドリームメイカーが我らを害するつもりなら、一刻の猶予もありません」

「……大臣殿はなにを示唆しておられる?」

「それは副長殿、簡単なことです。数が有利なうちに拠点を移すべきだということです。向こうは放棄されて1年未満。居心地も悪くないでしょう」

「ふむ……」

クインブランドの副長はうなり、他の参加者も考え込んだ。

彼らはドリームメイカーのことに考えが集中しており、陸軍大臣の目に宿るかすかな狂気に気づかなかった。

功を焦り、危機に焦る。

遠征に慣れていないフォレスティアの大臣は冷静な状態ではなかった。

「なら行くしかねェだろ! 王にそう言ってくるぜ!」

「あっ、待ちなさい!」

アインビストの代表はさっさと部屋を出て行ってしまった。

「……全軍は多すぎる。半分でも十分でしょう」

副長の折衷案というか、妥協にまみれた提案にみなうなずいた。

この期に及んで得も言われぬ不安が彼らの胸によぎっていた。

夜明け前——ドリームメイカーの南を流れる大河には大型の軍船が2隻、中型が5隻、浮かんでいた。

すでに夜の間にドリームメイカー内の偵察は終わっている。その結果は——「敵影少なし」である。死体を食らうバケモノもいたが、夜間は眠っているようだ。

夜明けとともに、軍は突入する。

ここにいる全員が故郷の奪還を望み、命を懸ける覚悟もできていた。

甲板に立つ兵士たちは東の空をにらみながら、肌寒い風を受けていた。誰も言葉を発せず、ただまんじりともせずその時を待っていた。

「おぉ……」

誰かが小さく声を漏らした。

東の空がだんだんと明るくなり始めたのである。

それでもグルゥセルは待った。まだ、明かりとしては心許ない。誤って川に兵士が落ちたために進軍がつまずいた——などとなっては笑い話にもならない。

夜明けまであと15分というところか。空は明るくなり手元もハッキリと見えてきた。

『全軍、上陸準備を開始せよ!』

拡声の魔道具を使ってグルゥセルが指示を出すと、待ってましたとばかりに小船が軍船から下りていく。そこにわらわらと兵士が乗り込み、全員の移動準備が整ったころには曙光が兵士たちの頬を照らしていた。

『進軍開始——我らの故郷を取り戻せ!!』

獣の咆吼のごとき喚声が上がる。

彼らに、恐怖はもはやなかった。考えているのはドリームメイカーを取り戻すというただそれだけだ。

小船が先行していく。水上であっても隊列を組んで進んでいくその姿は、冬の間の厳しい訓練のたまものだ。

最初の小船が港に吸い込まれていくと、次々に小船が港に入っていき、まだ使えそうな波止場へと停まっていく。破損している箇所も多いのですべての船を停められるわけではなく、すでに停泊した船の横につけて船同士をつないで固定していく。

小船の兵士があらかた上陸すると、中型船が入っていく。停泊できるのは2隻だけのようだ。その2隻は波止場に横付けすると、甲板から巨大な荷物を下ろしていく。下ろせるのも5基がせいぜいだった。

荷物には防水性能の高い布がかけられており、台車と一体化していた。

『ふんっ!』

数人の兵士が押すと、ごろごろと動き出した。

『大型船はやはり無理そうですね……』

司令船に残るグルゥセルへと観測兵が言った。

港湾内は崩れた波止場のせいで大型船が入れなかった。ぎりぎりまで近づいて、万が一の撤退用として停泊していることしかできない。

『……あとは兵士たちの健闘を祈るしかない』

『ハッ』

そのころ、先に上陸した兵士たちは港の出口で「台車」を待っていた。

街は静まり返っておりモンスターがやってくるような気配もない。

『いつでも射出できるように準備してくれ』

『わかりました、ジン隊長』

相変わらずこき使われているジンは、この台車の責任者になっていた。

布の覆いを外すと——そこにあったのは金色の装飾がなされた金属の筒、移動式ブラストキャノンだった。

ドリームメイカーで運用されていたときよりも軽量化、携帯性が進んでおり、これは元魔術局長ルーデンドとヴィレオセアンの魔道具師による研究成果だった。ルーデンドも今回の遠征に同行したがっていたが、仮にも一度は叛乱を起こした身であり、同行を許されていない。

『初弾、装填しました。10秒あれば射出可能です』

『よし……』

ジンがちらりと視線をやって確認したのは、大通りの先にいる偵察兵だ。白色の旗を揚げたままであるのは「問題なし」の合図である。

ブラストキャノンを守るように兵士たちが進んでいく。

死んだように静かな街の中を。

やがて彼らは大通りの先に——小山を見つける。その小山が なんなのか(・・・・・) 、ジンの報告で知っている彼らは息を呑んだ。

だが、

《——ッオオオオオオ……》

巨大なモンスターが眠そうに声を発し、起き上がった。

『ブラストキャノン、準備! 盾兵は左右に展開』

ジンの声に5基のブラストキャノンが横に並べられ、車輪の後退を停めるストッパーが噛まされた。

その横にはずらりと、身の丈ほどもある大盾を構えた兵士が並ぶ。

『装填準備、整いました!』

『弾丸装填!!』

弾丸がブラストキャノンに入っていくころには、モンスターは侵入者の存在に気づき、ブオオと大声を上げた。

それに伴って小山がうごめくと、そこからモンスターの子どもらしき存在がずるずると出てくる。

『5基装填完了! 仰角調整済みです!』

『撃てェェェェ!!』

モンスターがこちらに走り出す——その前に、ジンは号令を下した。