軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ランズハーヴェスト防衛戦

ランズハーヴェストがモンスターに囲まれている——冒険者たちは即座に戦闘態勢へと移行していく。軍は竜石に目がくらんで出払い、残っているのは傷病兵や支援兵ばかりであるので戦えるのは冒険者しかいない。

冒険者だってまるまる戦力が残っているわけではない。高ランクパーティーは街を離れていて、Bの「東方四星」と、Cがぱらぱらといる程度だった。

「ソリューズ様、どうぞ冒険者の指揮をお願いします……!」

「承知しました」

ランズハーヴェスト冒険者ギルド出張所の、暫定的なマスターである男に懇請されてソリューズはうなずいた。

ギルドの建物から外に出ると、宵闇の下、今動ける冒険者がそろっている。その数は600——十重二十重に広がっている。

ソリューズは視線を巡らせたが、そこに黒髪の少年はいなかった。

(……一体どこに)

帰る手段がない以上、街の外で野営をしていなければ街にいるはずだ。ヒカルは調査研究の依頼を受けているので日帰りでほとんど行動しており、街にいるのは確かだと考えていたのだが。

(まあ、いいさ)

当てにしていた戦力が欠けたのは残念だが、ソリューズは気持ちを切り替える。

「ランクBパーティー『東方四星』リーダー、ソリューズ=ランデだ! 一時的に冒険者戦力の指揮を預かることになった」

こういうときは「ランク」が物を言う。

通常時ならば「女の言うことなんて聞けねえ」だなんて言われるものなのだが、ソリューズは名の知れた冒険者であり、また実力もあるから反対意見は出なかった。

「情報を持った 斥候(ローグ) がいれば教えて欲しい」

「北側を見てきた」

「俺は東から南」

「ウチは南と西の港見てきたよぉ〜」

間延びしているのはサーラだった。

彼らの言葉を総合すると、軍が移動した後の広い道路を使ってモンスターが進軍してきていると。ただし港——海にはいないようだ。

モンスターはすでに結界の外壁にまで到達しており、先頭をつぶす勢いで後ろから押し込んできており、結界に触れたモンスターの絶叫が響き渡っているという。

結界は手順を踏まないとあらゆる生き物を弾き飛ばす効力を持っている。

「ふむ……結界は想定以上に機能しているようだ。結界の保持能力がどれくらいかわかる者は?」

「私が軍に問い合わせてきます」

「——お願いします、マスター」

ギルドの暫定マスターがそう言ってくれたので丸投げする。

ソリューズはそれから、今いる冒険者を3つに分けることにした。

酔っ払いを含む150人は休憩することとし、この休憩をローテーションさせる。

各方面に150人ずつ貼り付くような形だ。

「みんな、聞いて欲しい。敵はモンスターだ。いかに凶悪で大きいとはいってもモンスターなんだ。人間を相手にしていた軍とは違う、モンスターとの戦いこそが冒険者の仕事じゃないか! 一体誰が、今までモンスターを倒してきたのか各国軍に見せつけてやろう! 行くぞ!!」

ウオオオッ!

という声が上がると一斉に冒険者は走り出した。

東側正面のリーダーが「東方四星」、北と南はランクCパーティーにそれぞれリーダーを任せることにした。

今回の遠征では、軍が中心になっており冒険者はさながら「オマケ」のような状態だった。そしてそれを口にする兵士も多く、冒険者とのいさかいもよく起きていた。

冒険者たちはその憂さを晴らす絶好のチャンスとばかりに戦闘へと赴いた——。

熾烈な戦いだった。

結界は有効だったが、使用されている魔術触媒の魔力が途絶えるとそこからモンスターが侵入してくる。それを逆手にとって一時的に結界に穴を空け、ある程度モンスターが通ったところで結界を再発動し、モンスターを孤立させて討伐する——そんな戦い方もした。

あるいは一度に複数の箇所に穴が空いて混乱したりもした。

だが冒険者たちは誰ひとり逃げることなく——逃げる場所などなかったせいかもしれないが——モンスターと戦った。軍から食事の準備や回復魔法での支援があったことも大きかった。

ランズハーヴェストに残された者たちは一丸となって必死の戦いを演じた。

それは一昼夜続いた。

6時間の休憩ローテーションがぐるりと一周したくらいだろう——モンスターは突如として撤退を始めた。

「追うな! 罠かもしれないぞ!」

結界から出ようとした冒険者へ、ソリューズが警戒した。

モンスターが罠を使う? そんなバカな——と思った者は多かったかもしれないが、誰も反発しなかった。

それほどまでにモンスターの動きは統率が取れていたのだ。

モンスターが撤退していくと周囲にはモンスターの死骸が山のように残された。そこには各方面ごと10数人の冒険者の死体もある。

ソリューズは待った。冒険者の死体を回収したがる仲間にもこらえてもらった。

待って。待って。待って——3時間過ぎて2度目の夜が明けたころ、

「サーラ、偵察に行ってきて」

「あいよ〜」

こんなときでもマイペースさを失わないサーラに頼んで情報を集めるよう指示を出す。

ほどなくしてサーラは戻ってくる。

「だいじょーぶだった。明らかに撤退。まったくいなくなってた」

「そう——」

そこで初めて、ソリューズは勝利宣言をした。

モンスターによる襲撃を退けた冒険者たちは最初こそ勝利の余韻に浸ることができたが、「竜石」確保に向かっていた軍が帰ってくると、その余韻はすぐにも薄れていった。

「なんだこの有様は。街の防衛は冒険者に任せていたであろう? 結界は破壊され、司祭も1人死んだ……それもこれも冒険者のせいではないか」

ビオス宗主国の神殿騎士大隊長が冒険者ギルドの暫定マスターへと不満を口にする。

ギルドが街の防衛を任されていたことは事実であり、その任務のために各国から委託金をもらっているという背景もあったので暫定マスターは頭を垂れるしかなかった。

「……申し訳ありません」

「申し訳ないで済むものか。いいか、ここは我ら神殿騎士が切り開き、確保した、人類による反撃の 橋頭堡(きょうとうほ) なのだぞ。たるんでいるのではないかね」

「…………」

ねちっこく大隊長は文句を言うのだが、そこは奥に引っ込んだ場所ではなく、竜石の置かれてある広場の真ん中だ。

当然、話を聞いていた冒険者は多い。

「——おい、あいつなに言ってんだ? 肝心なときにどこにもいなかったくせに」

「——死んだ司祭さんはめっちゃよくしてくれたよな……仲間が倒れたところまで助けにいってくれて。それで死んじまったんだけど」

「——つーか神殿騎士とかはいちばん人数少ないところだろ? ランズハーヴェストの奪還作戦じゃアイツらろくすっぽ動いてねえだろ」

「——ふざけやがって。マスターも言い返せよ。そもそも軍が出払っちまうから結界頼みの防衛戦になったんだろうか。俺たちにゃ結界の外で戦えってのか?」

冒険者たちの不満は溜まる一方だった。

反対に、大隊長が無思慮にも公衆の面前で不満を口に出してしまったことには、彼らが竜石の確保に失敗したという背景もあった。「ルーツ」での戦闘は有利に推移したのだが最後の最後でモンスターが竜石を巻き込んでの自爆を行い、神殿騎士も10人以上が帰らぬ人となっていた。

犠牲も出てさらに竜石も手に入らないのだから泣きっ面に蜂。拠点に戻ってみればモンスターに襲撃された後——大隊長が苛立つのも無理はない。

それでも大隊長もそれなりの地位にある人物だから声を荒げたりはしなかった。後になって司祭も冒険者によって守られていたという話を聞いて「言い過ぎたか」と反省したほどだ。だが発言を聞いていた冒険者たちは好意的に受け取らなかった。

ビオスのいけ好かないリーダーが、冒険者を罵り、怒鳴り散らした。

そんな話が広がっていった。

「おう、戻ったぜ」

ランズハーヴェスト内にイヤな空気が満ちているところへアインビストの獣人王ゲルハルトが戻り、次にクインブランド皇国、ポーンソニア王国、フォレスティア連合国と相次いで戻ってきた。いちばん深追いしていたヴィレオセアン陸軍が最後に戻った。

軍の首脳と冒険者ギルドを交えた会議が行われ、そこでは明るくない報告が続いた。