軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドリームメイカー奪還作戦とそれぞれの思惑と

ジンが逃走を選んだのには理由があった。

そこいらのモンスターを相手にならば10人の兵士がいれば十分に戦うことができたはずだ。だが、想定していたモンスターとは明らかに違った。これには偵察部隊のメンタルも参ってしまった。

彼らもまた人の子だ。いくら訓練を受けている兵士とはいえ、長期に及ぶ故郷を離れた場所での生活、そして奪還戦——となれば緊張も限界だろう。

ここに思いが至らなかった自分が悪いとジンは猛省する。

(クソッ、ふだんだったらそれくらい気づくはずなのに——こっちに来てからというもの、頭がまともに働かねえ気がする)

前方に門が見えてきた。

『一気に走り抜けろ! 最後尾は俺が持つ!』

『ジン、なにする気だ!?』

『ちょっとした足止めだよ!』

仲間が門を走り抜けていくのを確認しつつ、ジンは振り返る。汚らわしい四本足モンスターまでは50メートルの距離を切っていた。よどんだ灰色の眼がどこを見ているのかはわからなかったが、おそらく、ジンを見据えているはずだ。

地面を揺らしながら走ってくるそいつは、森に入ってしまえば逃げることもたやすい。

だが、ジンはそのまま逃げることを選択しなかった。

『お前……ずっと俺たちの仲間を食ってたんだろうなあ!?』

ジンが懐から取り出したのは、手でぎりぎり握れないくらいの太さがある筒状のものだった。

鈍い金色の金属で覆われたそれは、中央に切れ込みがあって茶筒のように横に回転させられるようになっている。

ジンの手がそれを回転させると、カチリ、と音が鳴ってキィィィィと甲高い音を発した。

『食らえ、豚野郎が!!』

全力でその筒をモンスターに向けて投げつける——と、カッ、と紫色の光とともに爆炎を放った。

ルーデンド 元(・) 魔術局長があちらの大陸にある触媒をもとに研究したものだった。殺傷能力よりも驚きや、なにかを燃やすときに使えるとした携行武器だ。

《ビュウオオオオオオオオオ》

前足を上げてモンスターが吠える。右目のあたりに着弾し、目から右頬に掛けて炎症が広がっている。

それを見たドランが、

『やったか……?』

『やってねえよ! さっさと逃げろ!』

ジンは冷静だった。一歩足止めする程度しか時間を稼げないことはわかりきっていた——だがそれでもやらずにはいられなかった。

一矢報いもせず、尻尾を巻いて逃げることなどできなかった。

『逃げろ逃げろ逃げろ!』

《ブオオオオオオオ!!》

怒り狂ったモンスターが突進してくる。ジンが門を飛び出したところで、モンスターが門に激突する——その巨体を通せるほどの隙間はなかったのだ。

が、どぉぉおおんと門を外壁ごと揺らすと、門の部分が崩れだした。

『……もしかして、がれきに埋まったか?』

《ブオオオオオオオオオオオオオオ!!》

『んなわけねーよな!? 逃げろ!』

がれきを振り払って起き上がったモンスターから、ジンたちは逃げ出した。

すでにズズンが黄色の「撤退準備」を告げる信号弾を空に打ち上げていた。

船へと逃げ帰ったジンたちだったが、彼らは誰ひとり欠けることもなかった。森に入った兵士を見失ったようで、モンスターは船まで追ってくることもなかった。

彼らは情報を検討し直す。

『街はほぼ無事だったな。あれならちょっと手を入れればすぐに元通りだ』

『水や食料はどうにかする必要があるけど』

『作物の確認も必要だ』

『モンスターは少ないから、裏路地を進めば行けるはずだ』

『このまま偵察は続行するよな、ジン』

水を向けられたジンは、うなずいた。

『当然だ。明日中に必要な情報をそろえて、ランズハーヴェストに戻る』

そうと決まれば話は早かった。ドリームメイカーは勝手知ったる庭のようなもので、彼らは裏通りという裏通りを熟知している。

夜明け前から行動を開始した彼らは、1日でドリームメイカーの情報を調べ上げ、ランズハーヴェストに貴重な情報を持ち帰ることになる。

『よくぞ無事に帰ってきた』

成果よりもなによりも、そう言ってくれたグルゥセルにジンは胸の内が熱くなった。だが報告を終えた後に、

『では本格的な奪還作戦を行う際には、ジンに先導してもらおう』

という言葉を聞いてウッと言葉を詰まらせるのだった。

『……え、俺——私ですか』

『お前以外にジンという名を持つ者はいない』

『でも——』

『頑張れ』

『うむ』

ドランとズズンが左右からジンの肩を叩いてくる。

俺の休暇はどこだよぉぉぉ——というジンの叫び声はランズハーヴェストに響き渡ったとかなんとか。

しかし、「本格的な奪還作戦を行う」と決めてからのドリームメイカーは動きが速かった。翌日には全軍に通達し、さらに翌日には2,000人のうち1,950というできる限り最大人数を動員してドリームメイカーへと進発したのだ。

「……どうやら 原住民(・・・) が動き出したようですぞ」

早朝からランズハーヴェストを出て行くドリームメイカー軍を遠目に見ながら、クインブランド皇国の騎士服を着た男が言った。

「構わない。どのみちここの守りは冒険者だ」

応えるのは同国騎士団副長——クインブランド皇国軍の最高責任者だ。長髪を後ろでひとつにまとめた美丈夫である。

「それよりも我が軍の戦況はどうなっている?」

「はっ。予定していたルーツ攻略が若干手こずっており、現状では3箇所に分散して取りかかっておりますが、兵をまとめて2箇所にする予定です」

「その 手こずる(・・・・) という言い方が気にくわない。あの程度のモンスターはどうにでもなるだろう?」

副長は最初のルーツ攻略の際に自身が先陣に立っている。

ルーツを守っていたのは身長3メートルはあろうかという黄毛の大ザルだった。異様な握力で木々をへし折るところは恐ろしかったが——騎士団が相手になれば1時間と経たずに制圧が可能だった。

クインブランドは連れてきた2,000の兵のうち、1,000を動員している。ルーツ1箇所に300名強が当たっているというのに攻略できないというのはなぜか——そう副長が思うのは自然なことだった。

「はっ……それがどうも、モンスターがしぶといようで……毒や目くらましなどを使い、はたまた他のモンスターをけしかけるなどして巧みに戦闘するようです」

「多少の無理が出ても構わないので一気に制圧しなさい」

「しかし負傷者が出ていて……現時点で死者こそありませんが戦闘不能は30名ほどおります」

「それよりも第2陣が来るほうを恐れなさい。あの 教皇狂い(・・・・) どもはおそらく大量の神殿騎士を動員するぞ」

副長が懸念しているのは第2陣でのビオス宗主国による軍の動員である。ここで大量の戦果を上げることで地に落ちた教皇の権威を取り戻そうとするに違いない。

竜石が得られる——そんな眉唾の情報が、真実だとわかったのだから。

「わかりました……リスクがあっても早期に制圧できる戦法を選択するよう伝えます」

「それがいい。第2陣が来れば、余裕が生まれるのは我が軍とて同様なのだから」

言い残し、副長は歩き出した。

「急がねば……」

胸にある焦燥の正体は第2陣の来訪なのだと疑っていない表情だった。

しかし、問題が起きたのはその日の夜だった。

店が営業しているような場所ではなかったが、それでも使えそうな土台から建物の復元が進んでおり、冒険者ギルドなどは什器も入って営業が始まっている。

「あー……疲れたにゃ〜〜……」

ぐでーとテーブルに突っ伏しているのは「東方四星」のサーラだ。

「あらあら。休むのは天幕に戻ってからにしてくださいませ」

「そうよ! 大体あなた戦闘に参加していなかったじゃない!」

「サーラはサーラで違った気遣いがあるから仕方ないさ」

彼女たち4人は、ルーツ攻略にこそ回らなかったもののランズハーヴェスト周辺を回って大型モンスターの討伐にいそしんでいた。ヒカルが調査中に見つけたものはもちろん、他の冒険者や軍が発見し、放置したものもある。

「それにしてもヒカルのせいでだいぶ働かせられたわ!」

セリカはぷりぷりしているが、ヒカルたちのパーティー「新月明星」が調べ上げた情報は正確性が高く、彼女たちが大型モンスターを探すのに大いに役立ったのは事実だった。

特にマッピングや地形の情報がありがたかった。

「ふふ、行動中は地図をべた褒めしていたのにね?」

「じ、事実は事実と言っているだけよ!」

ソリューズに茶化されムキになってセリカが反論したが、そこへ女性がマグカップを4つ運んできた。

「は〜い、お待たせ。ホットワイン4つね」

酒は数が限られているので飲める量は少ないが、それでも遠征から帰ってきてこういうものにありつけるのはありがたい。セリカが喜んで飛びついて、それを口に運ぶ——。

「た、大変だ!」

そのとき息せき切って駈け込んできた冒険者があった。

一斉に、人々に視線が彼へと向けられる。

「モンスターが! モンスターが出たんだ!」

が、その言葉に一気に白けたムードが漂った。

「おいおい……モンスターくらい出るに決まってんだろ」

「酔ってんのか? 酔うほどの酒がどこにあるんだ?」

「いや、そうじゃないんだよ!?」

しかし男は必死に言った。

「大群なんだ!! この街が、街が、囲まれてる!!」