軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

部隊の進軍

「アァァッ!? そんなもんか新大陸のモンスターはッ!!」

獣人王ゲルハルトが大剣を振り抜くと、巨大な六本足のモンスターは前足を叩き斬られた。

足一本で人ひとりほども大きいというのにゲルハルトはまったく恐れた様子もない。

モンスターが絶叫するとさらに踏み込んだゲルハルトは、返り血を浴びながらも大剣をモンスターの顔にぶち込む。頭の半分ほどまでめり込んだところで、剣は止まった。

「たいしたことはねぇなあ。次だ、次!」

「お、王よ、お待ちください。後ろがついていけません!」

「あぁ?」

振り返ったゲルハルトはそこでようやく、疲労困憊気味のアインビスト軍に気がついた。

ここいら一帯は森、森、森だ。ランズハーヴェストを進発したアインビスト軍は次から次へと現れるモンスターに苦戦していた。

苦戦せずに突き進んでいるのはゲルハルトだけで、彼が大物という大物は全部仕留めていた。

「チッ、ゴットホルトでもいりゃあもうちっとなんとかなるんだがな……」

ランクAパーティー「極虎」のリーダーにして軍属でもあるゴットホルトだったが、彼はここにいない。冒険者ギルド側でやらなければならないことがあるようで、今日はそちらに行っているのだ。

彼がいないと「極虎」全員も抜けてしまうことになる。精強を誇るアインビスト軍ではあるのだが、それでもランクAパーティーはやはり別格であり抜けた穴は大きかった。

「ふぅむ……あそこにルーツとかいうのは見えてるんだがな」

ヴィレオセアンから提供された地図——ヒカルがルーツの位置を記した地図——には、この先にルーツがあるとなっている。そしてひときわ高い樹木がすでに目視できており、おそらくそこだろうとゲルハルトはにらんでいた。

ルーツには、守護騎士のように凶悪なモンスターがいるという。

それと戦えると思うと、ゲルハルトはうずうずした。

(待てよ? こいつらには休憩が必要だ。だが、ルーツでの戦いはどのみちこいつらはあまり役に立たねえ。ってことは、だ——)

ゲルハルトは休息を指示している隊長のところへと足を運んだ。

「おい」

「はっ、獣人王、いかがなさいました」

「俺はちょっと出てくる。お前らは休憩していろ」

「……出てくる?」

「返事ッ!」

「は、はいっ! 承知しました!」

ゲルハルトは満足そうにうなずくと、

「それじゃあな」

「いってらっしゃいませ——えっ!?」

前傾姿勢になるや爆発するように走り出した。

その方角は、ルーツがあると思われる方角だ。

「ゲ、ゲ、ゲルハルト様ぁっ!?」

たったひとりでルーツに向かったことは疑いようもなかった。

ランズハーヴェストの中央広場では大きなかがり火がいくつも焚かれていた。そして櫓が3基組まれており、そこにはひと抱えもありそうなサイズの竜石が1つずつ載っていた。

かがり火の光を受けて、青に、黄色に、紫にとそれぞれ違う輝きを放っている。

「かぁーっ、すっげぇなあ。これ、1日で取ってきたんだろ?」

「クインブランド、ポーンソニア、アインビストが1つずつ取ってきたそうだ」

「これだけでいくらになるんだ」

「おいおい、ひとつだけ真ん中で割れてんじゃねえか。なんだありゃ」

「しーっ。言うな。獣人王に殺されるぞ」

冒険者や兵士たちが集まって竜石を見上げてはあれやこれや言っている。

ここに竜石を置いたのは戦果を見せ、人々のやる気を出させるためだった。この土地はこれだけ稼げるのだ、と。

巨大なモンスターは彼らにとって未知の存在であり、そんなのと戦い続けるにはよほどの精神力が必要になる。

しかし、わかりやすい「エサ」をぶら下げれば乗り越えられる。

現に冒険者や兵士たちのモチベーションは上がっていた。

「チッ」

だが——不機嫌な者もいた。

「……ゲルハルト様、そのように露骨な舌打ちはお止めください」

広場を通りがかったゲルハルトに、ゴットホルトが真面目くさった顔で言う。

「大体ゴットホルト、お前が悪いんだぞ。お前が今日の進軍に同行していりゃああんなふうに竜石を叩き割ることもなかった」

「人のせいになさらないでいただきたい。単身、ルーツに突っ込んで、ルーツのモンスターを倒そうと剣を振るった結果、勢い余って竜石を叩き割ったと聞いています。完全に自業自得ではありませんか」

「お前がいれば違う結果になったろうが!」

「そうかもしれませんが、自分がいないことは王もご存じだったでしょう」

「あんなにモンスターが弱いのが悪いんだよ!」

「王が強すぎるほうが問題なのでしょう」

「……つうかよ、こんなもんなのか? ここのモンスターは。俺が当たったヤツが弱すぎたってことは?」

「わかりません」

ゴットホルトは確実ではない推測を話さなかった。

確かに、話に聞いていたルーツという存在はあった。だが話に聞いていたモンスターの強さではなく、また竜石も聞いていたより小さかった。

単純に考えられるのはドリームメイカーが竜石を誇張したということだ。そうすることで利益を大きく見せて遠征軍を起こさせた。

ただ——それほどすぐにバレるウソを吐くだろうか、という疑問は残る。

それにモンスターを弱く申告するならまだしも強いと申告し、実際にはさほど強くないというのはちぐはぐだ。

「ポーンソニアはローレンスが取ってきたんだろ? そんじゃあクインブランドは誰が竜石を取ってきたんだ」

だが自分の主であるゲルハルトはドリームメイカーの思惑よりも「誰が強いのか」が気になっているようだ。

「はっ。『ヒュージツインズ』のラムとレッグだと聞いています」

「あん? なんで冒険者が竜石狩りにいってんだよ。お前は別の用事とやらだったじゃねえか」

「『ヒュージツインズ』は人数が多いですからね、ギルドの用事は部下に任せ、精鋭を引き連れて竜石を目指したようです」

「ずりぃじゃねえか! ゴットホルト、お前も明日からそうしろ」

「『極虎』は『ヒュージツインズ』の1/10くらいですよ、人数。不可能です」

「許さん」

「残念ですが冒険者の命令系統はギルドが最上位です。これは獣人王といえど曲げられません」

「お前は軍属だろうが! お前がいねえと軍を誰がまとめるんだよ」

「あなたです」

「俺には竜石狩りという仕事がある」

「いえ、あなたが軍のトップです」

「ヤダね」

「いえ、あなたの仕事です」

「ヤダっつってんだろ!」

ふたりはそんなことを言いながら去って行った。

ランズハーヴェストを中心に、各国軍はルーツを目指して進攻する。ヒカルなどは冒険者ギルドの現地依頼として「生態系の調査」を受諾しており、竜石からは離れて過ごしていた。いずれにしてもランズハーヴェストが使えるようになるよりも、ドリームメイカーを解放したほうが早いのは明白だからだ。

ドリームメイカー解放後に、大陸の再調査、そしてどう「邪」のエネルギーをつぶしていくかを検討する必要がある——今はそう考えていた。

大陸上陸後、20日が経過しようとしていた。

ルーツは着々と攻略されており、中央広場には所狭しと竜石が置かれてあった。ただ大きいものは少なく、さらに小さいボーリング玉サイズのものも増えてきた。

軍の遠征部隊は1日で往復できた手近なルーツはもはやなくなっているので、往復で3〜5日かかるルーツを目指して進んでいた。中には道中に新たなルーツを発見するケースもあり、毎日なにかしらの発見があった。

(……遅すぎる)

ヒカルは内心、焦りがあった。

各国軍やトップランクの冒険者は竜石狩りに出向いており、確かに大量の竜石は各国に巨大な富をもたらすだろう。

だが、本来は、まずドリームメイカーを解放するのが順序だ。すでにドリームメイカーまで到達できるほどの距離を遠征しているのである。

ランズハーヴェストとドリームメイカーをつなぐ道路も整備を進めているのだが、それとてドリームメイカー側からと、ランズハーヴェスト側からとで進めたほうがいち早くできあがるだろう。

(第2次派兵が来る前に、根こそぎ稼ぐつもりだな……)

すでにギルドは「リンガの羽根ペン」による遠距離通信を確立しており、ヴィル=ツェントラの冒険者ギルドとはかろうじて連絡を取り合うことができていた。

軍が所有している通信用魔道具はさらに精度が高いので、もっと頻繁な連絡を行っているだろう。となれば、あたかもゴールドラッシュのように大量の竜石を得ている——そんな情報は伝わっているはずだ。

今回の派兵で十分な人数を送り込んできたヴィレオセアン、アインビスト、クインブランドはともかく、数で劣るポーンソニア、フォレスティア、ビオスは兵士の損耗も多く動きが取りづらい。

おそらく第2次派兵ではポーンソニアらの兵力は大きく増えることだろう。

そうなれば競争が過熱する前に竜石を確保したいと考えるのはふつうだ。

(ま、ゲルハルトだけは強いモンスターを他の誰にも渡したくないようだけどな……)

ルーツを制圧後、ランズハーヴェストに戻らず次のルーツに向かっているのはゲルハルトだけだ。だがそのおかげもあってアインビストは頭ひとつ抜けて多くの竜石を得ている。

ともあれ、第2次派兵が来る前にランズハーヴェスト近辺の竜石を集めきりたいという腹づもりである以上、ドリームメイカーの解放は遅れる一方だった。

ドリームメイカーの人々は、当然それを不満に思っていた。