軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不満の発露

『なんですか連中のあの態度は!? これでは単に、竜石とやらを回収しにきただけではありませんかッ』

『まったくです。我らの故郷がどうなっているかなどどうでもいいのでしょう』

『我らの技術なくしてはモンスターはびこる海を渡ることもできなかった連中が……』

その夜、ドリームメイカーの幹部たちは集まって口々に不満を述べていた。

直前の連合会議での決議はシンプルで、

・引き続きルーツの攻略に邁進する

・ランズハーヴェストの整備を進め、第2次派兵の受け入れ準備を整える

と、これだけである。

ポーンソニア王国、多人国家アインビストの両国はトップである騎士団長と獣人王がそれぞれ遠征中であり不在。

フォレスティア連合国とビオス宗主国は成果があまり上がっておらず第2次派兵が到着するまでにもっと稼ぎたいという腹づもり。

そして遠征軍を率いる形になっている海洋国家ヴィレオセアン、その同盟国クインブランド皇国は現状維持である。

そうなると、もともとルーツのなかったドリームメイカーの奪還は、「まず第2次派兵を受け入れ、落ち着いてから……」という流れになるのは自然なことだった。

『皆の者、落ち着け』

『しかしグルゥセル長官。これほどコケにされて落ち着いてなど——』

『他ならぬ王様が誰よりも悔しい思いをされているとなぜわからぬ。1日でも早いドリームメイカーの解放を国民が待っており、王様はその期待を一身に背負っておられるのだぞ』

『あっ……』

興奮していた幹部たちはばつの悪そうな顔をすると、いつもどおり——いや、若干顔色はよくないが——柔和な笑みを浮かべているドリアーチへと頭を垂れた。

『王様、申し訳ありません! 我らがふがいないばかりに……』

『いえ。皆の気持ちはうれしく思います。そして焦る気持ちは私も同じです。これからどうすればよいか考えていきましょう』

とドリアーチが促すと、空気が変わって建設的な意見が出てくる。

『やはり連合会議でドリームメイカー奪還を最優先するよう言うべきでは』

『何度も言っている。意味がなかろう。連中はグランドリーム大陸に来ることが目的で、それを達成すればもはや我らの価値など見いだしておらぬ』

『向こうの大陸との通信を握られているのが痛い』

『なぜ連中はドリームメイカーを軽視する?』

『西海岸に面しているこのランズハーヴェストがまず便利であるということだろうな。ドリームメイカーはさらに船で1日2日かかる』

『ドリームメイカーの所有権が我らにあるということもあるのでは? 奪還しても連中に得はない』

『ならばなにか差し出すか』

『バカな! 安全にこの大陸まで運ぶことこそが最大の便益ではないか。これ以上へりくだる必要はなかろう』

『だが連中は竜石ばかり取りに行って、我らのことなど忘れてしまったようだぞ』

『——我らを忘れた、か』

ぽつり、とグルゥセルが言った。

『こういうのはどうだろうか? 我らは我らの力で、ドリームメイカーを奪還する。竜石など我らにとって価値はない。我らにとって必要なのは唯一無二のドリームメイカーだ』

幹部たちは目を輝かせた。

『それはいい。我らの力で奪還する……すばらしい言葉の響きですな』

『いずれにせよ偵察もしていない現状はおかしいですから、少しずつ手を出してもいいかもしれません』

『いかがでしょうか、王様』

圧倒的多数の賛成を前に、ドリアーチはたじろいた。

その頭にあるのは——彼らはなぜここまで焦っているのか、という点でもある。

確かに手の届くところに故郷があるのだが、それにしても焦りすぎではないか——。

(しかし、いちばん慎重派のグルゥセルが言っていること……)

最も信頼していると言っていい、グルゥセルへとドリアーチは視線を向けた。

『勝算はあるのですか』

『まず偵察を入れ、順に道を作っていきましょう。破壊の状況やモンスターの分布を知らなければなにもできません』

『そう……ですね。では我らは我らで動きましょう』

『はっ』

全員が輝かしい笑顔で了承する。

だがドリアーチは心の中の不安を消せなかった。

グルゥセルが言っていることは正しく聞こえる。だが、それは「行き当たりばったりで、行けそうならそのまま奪還作戦を実行します」ということではないのか——。

グルゥセル率いる軍が、ドリームメイカー奪還のために動く、というのは各国からたいした反論もなく受け入れられた。竜石にかまけていた自分たちに少々負い目があったのかもしれない。

「アイツらどこに行くんだ?」

「古巣を取り戻すんだと」

「ふーん……モンスターに破壊されたんじゃないのかよ」

「さあてな。こっちの人種はなに考えてるかわからねえよ。大金が転がってるのにそっちを見もしねえんだから」

出かけていくドリームメイカーの軍を、冒険者たちはそんな冷ややかな目で向けていた。

(ついに動いたのか)

ヒカルはこの数日シルバーフェイスとしてドリアーチに会っておらず、この決定については知らなかった。彼の考えを聞いておくべきかとも思ったが、ドリアーチたちにとってドリームメイカーはなによりも大事な故郷だ。聞いたところでなにができるわけもない。

(……に、しても、だ)

冒険者ギルドの臨時支部で、植生やモンスターの分布をまとめた資料を提出しながらヒカルは考えている。

(冒険者が短絡的なのは今さらだけど、兵士や指導者たちまで少々頭が単純にできてやいないか?)

利益を追求しすぎている。連合軍という環境が競争を煽っているのかもしれないが、それにしてもとヒカルは思う。

「——ありがとうございます、ヒカルさん。お連れの方のランクをEに上げようかと思いますがいかがでしょうか?」

「えっ」

男ばかりがたむろしている場所へラヴィアとポーラを連れてきたくはなかったので、ふたりは女性だけが泊まれる区画にいる。

冒険者ギルドの受付嬢はしかし相変わらずの美形の女性で、にこにことして提案してきた。さらりとした長髪を右でまとめ、口元に小さなホクロがあった。

「あ……はい。それではお願いします」

「承りました。今度ギルドにいらした際に、更新させていただきます」

「でも、なんでですか? ちょっと早い気がしますが」

ヒカルが行っている調査依頼は手堅く地味な仕事だ。何十回と積み上げてようやくランクアップにつながるかというところだろう。

それを、あっけなく「上げる」と言うのである。

元々ランクFに上がってからあまり冒険者ギルドの依頼を受けてこなかったラヴィアとポーラだし、FとEは結構意味合いが違う。

Eになると多くのダンジョンの入場許可が得られるし、冒険者として多少信頼されるのがEからなのである。

「あら。お嫌ですか?」

「……疑問に思うのはおかしくはないでしょう」

「実は調査依頼を受けてくださる冒険者は非常に少なくて。皆さん一攫千金を夢見てこの新大陸に来ているんですね。ですのでせめて、調査依頼をやってくださる方には報いましょうという話になりまして」

「金額で報いるのは予算の問題もありますしね」

「おっしゃるとおりです。それだけでなくヒカルさんたちは非常に丁寧に調査内容をまとめてくださっています。これくらい皆さんが調査してくださるといいのですが」

ヒカルとしては森林では「隠密」を使い放題なので、調査依頼の難易度は非常に低いという事情があるのだが。

ともあれランクアップはヒカルとしてもうれしいことだし、ラヴィアやポーラも喜ぶだろうと思い、受付嬢に礼を言ってギルドを出た。

「…………」

しかしヒカルは次の調査依頼は受けず、「少し休憩します」と言っておいた。

ヒカルの頭には、これらの問題に対するひとつの仮定があった。だが、欲に突き動かされた人たちを説得することは難しいだろうともわかっていた。

「なら、まあ、 実力行使(・・・・) するだけだな」

ヒカルはこれからなすべきことを決断した。