軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ランズハーヴェスト上陸戦

新大陸遠征隊を乗せた船は、新大陸でもランズハーヴェストをまず目指した。

上陸の拠点としてはまだ手放してから間もないドリームメイカーのほうが向いているのだが「なにかあった場合に即座に大海へ撤退できる」という安心感は大きい。

まずはランズハーヴェスト、次にドリームメイカー、という順序に話は決まった。

ドリアーチたちは一刻も早くドリームメイカーに戻りたいだろうが、ドリームメイカー崩壊のあの日——あのモンスターの戦力を考えると贅沢など言えるわけもない。

「……不安はある」

曇天の海面は、深い藍色をしている。それは行く末の困難さを予感させる色合いだった。

ドリームメイカーの全軍2,000、ヴィレオセアン7,000、各国混成軍7,000、冒険者1,000——全軍で17,000人という人数はかなりのものだ。この後第2陣、3陣もあると思うと拠点の確保と防衛くらいはたやすい。

——と、そう思ってしまう。

だが、ドリームメイカーの兵士たちは各国の兵士よりもはるかに練度が高い。純粋に人数が増えたから勝てるというものではないだろう。

さらには遠征軍は一枚岩ではなく、冒険者たちなんててんでバラバラだ。

『あーら、黄昏れちゃって』

掛けられた日本語に振り返ると、セリカがそこにいた。

曇天では甲板にやってくる人も少なく、多くは船室でごろごろしている。

航海を始めてすでに12日が経っている。船上での生活にみんな飽き飽きしているのは間違いない。

『お仲間はいっしょじゃないのか』

『こっちのセリフよ。あんたたちいつもいっしょにいるじゃない。——ソリューズはギルドの会合に呼び出されているわ。シュフィもサーラもその付き添い』

『セリカは?』

『あたし、ああいう退屈な会議に出てると寝ちゃうのよ。だから自主的に離脱』

セリカはヒカルに並ぶと、手すりに手を置いた。風はあまり強くなく、春を強く感じさせる温さを含んでいる。

『で、なにを悩んでいたわけ? この共同経営者に話してみなさいよ』

共同経営者とはホットドッグチェーンのことを言っているのだろう。ヒカルとしては勝手にセリカがやっている事業という認識なのだが。

『……一応、忠告しておくよ』

セリカの質問には正面から答えなかった。

『死ぬなよ。マズイと思ったらなにを置いても逃げろ』

ヒカルが冗談でも言っているのかとセリカは一瞬笑いかけたが、

『……それ、マジのマジで言ってんのね?』

『大マジだよ』

『みんな竜石の山分け方法についてもう話してるくらいよ』

ヒカルが不安に思っていたのは単に戦力内容だけではない。船内のムードだ。彼らはすでに「勝った」つもりでいて、空気はたるみきっている。

『そんなにたやすくない相手だよ』

『ふーん……ソリューズには言っておくわ』

『あの人はたぶんもうわかってる。言わないだけさ』

『どうしてよ。ソリューズが言えばみんな聞くわよ』

『聞かないヤツも出てくるだろ。得てしてそういうヤツらは女だてらに冒険者をやっている君たちに反発している。そんなバカどもが暴走する種をまく必要はない……どのみち1回でも戦えばわかるんだ』

『その1回で死ぬ人もいるかもしれないじゃない』

『その1回で死ぬような人間なら、どのみちどこかで死ぬよ。——あの人はその辺までわかった上で会議とやらに出ているさ』

ヒカルがそこまで言うと、セリカは「むう」と唇を尖らせた。

『なんだかムカつく。どうして付き合いの長いあたしよりアンタのほうがソリューズのことを知ってるふうなのよ』

『地頭の差』

『言ったわね!』

『いたっ。蹴るなよ、仮にも女だろ』

『女子高生よ!』

『この世界に高校なんてないっての。——あっ』

そのときヒカルは、空を舞う鳥に気がついた。

『あら……カモメ?』

『…………』

『どうしたのよ、怖い顔して』

『……カモメがいるってことは、もう陸地が近いってことだ』

『!』

ヒカルはうなずき、セリカに背中を向けた。

『どこに行くの?』

『上陸の準備だよ。忙しくなるぞ』

ランズハーヴェスト沖にその船団が現れたのは3月中旬の昼下がりだった。

数十という大型船が海に浮かんでいるのは圧巻の一言だったが、残念ながら陸地で、船団が迫ってくるのを見ていた人間はいなかったので、この光景を後世に書き記すといったことは起こりえない。

だが、凶暴な生き物たちはそれを見ていた。

彼らは突如として現れた船に、生き物が乗っていることを風に乗ったニオイで知った。そうして陸地で、到着を、今か今かと待ち伏せていた。

「ランズハーヴェスト上陸作戦開始!!」

ヴィレオセアンの海軍がまず、小船を下ろして上陸作戦を開始する。その数は500人。街の痕跡が残っている場所へと向かう小船を、甲板に集まった人々が凝視している。

どの船も新大陸を見ようと、上陸作戦を見ようという人でいっぱいだった。

最初の船が海岸にたどり着く。海底につかないぎりぎりのところで兵士たちは浅瀬に飛び降りる。一帯は砂浜が広がっており、足は取られるものの歩行に問題はない。

「行ってる行ってる!」

「ちくしょー、一番乗りは俺がしたかったってのによー」

「バァカ、ああいう露払いは軍隊にやらせて、俺たちはあとから悠々と入るほうがいいだろうがよ」

甲板に集まった冒険者たちは完全に物見遊山の気分だ。

崩れた港があるものの、周囲は緑豊かな大地である。

見渡す限り続く海岸線。

ここに希少な竜石まであるという——。

彼らの期待値が高まるのも当然というものだろう。

「おっ、ひとつの部隊が森のほうに向かってるぞ」

最初のチームが足場の良い茂みまでたどり着いた——というそのときだった。

「……え?」

誰かが、マヌケな声を上げた。そんなふうな声しか出なかったのだ。

木々の間から飛び出してきたトカゲ——頭だけで兵士よりも大きいというトカゲが飛び出してくると、しゅるりとベロを伸ばして兵士を巻き取り、口の中に放り込んだのだ。

「な、な……」

「なんだよありゃ!?」

「俺まだ酔っ払ってんのか……サイズがよくわかんねえ」

「デカ過ぎるぞ! ありゃ竜か!?」

トカゲは他にも数匹いて、兵士たちを呑み込んでいく。

ここでようやく兵士側も反撃に移るがあまりにも戦力差がある。彼らの武器はトカゲの表皮を軽く傷つけるものの、トカゲは素早く、ベロのリーチは長い。

「トカゲに全員食われちまうぞ!?」

それは冒険者のほとんどが抱いた感想だろう。

だがこの形勢は一気に逆転する。

「「魔法部隊いっけぇー!」」

いつの間にか後追いの小船が海岸にたどり着いていた。それに乗っていたのは黒い鎧を着た一派——「ヒュージツインズ」のメンバーだ。

彼らの放った精霊魔法は温度を急速に下げるもので、トカゲの動きはみるみる鈍くなる。そこへ長物——槍やハルバード、ポールアックスを手にした冒険者たちが襲いかかり、トカゲを串刺しにして行く。

「「救護、急いで!」」

指示を飛ばしているラムとレッグは最後に悠々と砂浜を歩いて行く。その間にも「ヒュージツインズ」はナイフを使ってトカゲの腹を割き、飲まれた兵士たちを救出して行く。

「おおおおお! すげえええ!」

「やっぱ冒険者だよなあ!? なあ!?」

兵士を救い出したことで冒険者たちのテンションはうなぎ登りだ。

だが——事態はそれだけで終わることはなかった。

『ギィィィエエエエエエエエ!!!!』

森の木々を薙ぎ倒して出てきたのはトカゲすら霞むほど巨大な鳥だった。オレンジ色の羽を持ったその鳥は、身体がデカ過ぎて飛ぶことはもはやできないのだろう、トカゲを足でつかむとクチバシを振り下ろす。トカゲの頭が弾けるように飛んだ。

巨鳥はギロリとその目を向けた——群れのトップであろうラムとレッグの双子に。

「リーダーを守れ!」

「防壁展開!」

カイトシールドを手にした黒鎧たちがラムとレッグの前に立ちふさがるが、突進してくる巨鳥は簡単に蹴散らしていく。

ラムとレッグが危うい——その場にいる誰しもがそう思ったときだ。

上空をオレンジ色の閃光が走っていくのに気がついた人間はそう多くない。

「これだけデカければ外すこともないな」

巨鳥の背後に突如として現れた黒いフードを目深にかぶった、銀の仮面をつけた少年—— 白銀の貌(シルバーフェイス) は、手にしていた銀色の筒をそちらに向けると引き金を引く。

断末魔の絶叫——。

巨鳥が霞むほどの巨大な火球が現れるや巨鳥を焼いていく。

「「へぇー……君があの有名なシルバーフェイスか」」

双子は、たった今襲撃され掛けていたというのに平然とした顔で、シルバーフェイスを見つめていた。