軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遠征の始まり

3月の出航が間近になると街はそわそわし始めた。いや、この半年ほどずっとそわそわしていたようなものだ。

すでに新大陸への第1次派兵について一般告知がされていて、そのあとは第2次派兵のために新たな軍がやってくることがわかっている。

今、大陸全土においてヴィル=ツェントラは最も賑わい、最も人の出入りがあった。商人はこのビジネスチャンスを逃すまいと大量の荷物を運んでくるし、食料は遠征で使うので飛ぶように売れた。

とはいえ——街の喧騒もなんのその、ヒカルたちは日々をまったりと過ごしていた。クインブランド皇国から贈られた白金貨に関してはポーンドの「盗賊」ギルドの長であるケルベックのツテで売り払い、資金も十分だ。

「〜〜〜〜♪」

ラヴィアが上機嫌で本を選んでいる。長旅になるのでどの本を持って行くか考えているのだ。

そんな彼女には今までと違うところがある——髪飾り、である。

銀色の髪に映えるようなピンク色のリボンをベースに、魔法石が縫い付けられてある。これは「聖」属性の魔力を刻み込んでいる魔道具で、「邪」系統の魔力を退ける効果がある。

魔術の部分は職人に頼んだが、魔力を浸透させるところはポーラに頼んだ。

グランドリーム大陸になにが待っているかわからないので、2月14日のラヴィアの誕生日プレゼントでヒカルが贈ったものだ。

反対にラヴィアからは3月のヒカルの誕生日プレゼントで同様の効果を持つブレスレットをもらい、来月のポーラの誕生日用でネックレスをすでに作ってあった。

「じゃあ、行こうか」

「うんっ」

「い、行きましょう!」

ヒカル、ラヴィア、ポーラの3人は渡航冒険者として登録してあり、新大陸での冒険者ギルド開設の依頼を請け負っていた。

ヒカルも一応ランクDの冒険者である。ランクAやBばかりが目立っていたが、ランクCの冒険者たちも結構な数が今回の新大陸へは名乗りを上げていて、ランクDはさらに多かった。

ヴィル=ツェントラの港で冒険者ギルドの係員が受付をしている。そこを通ればすぐに乗船だ。

ヒカルもラヴィアもポーラも、それぞれちょっと大きめのリュックサックを買ってそこに着替えや必需品を詰め込んだ。

「わ、新しいのね」

冒険者ギルドが借りている船はヴィレオセアンの新造船だった。

ヒカルたちに与えられた部屋は2段ベッドが2つ入っている船室だったが、残り1人が来ることはない。冒険者ギルドとは「アレグロ王の宝物箱」の件や、魔法書の買い出し依頼のこともあって関係が良好で、1部屋貸し切りにしてもらったのだ。

ラヴィアがベッドに腰を下ろして足をぶらぶらさせている。ベッドとは言ってもマットレスなんてのはなくて、ただ木の板にシーツが貼られ、そこに毛布があるきりという代物だ。

それでも新しく清潔であるだけずっと快適だろう。

「船を探険したいな」

「うんうん、行こう」

「行きましょう!」

ヒカルはラヴィアとポーラを連れて部屋を出た。船室が続くこの一画は通路も狭く、他の冒険者ともぎりぎりですれ違うことがあった。

女性冒険者ばかりなのが気になったが、それもまたギルドが気を利かせてくれたのかもしれない。

(結構な利益をもたらしたからなー。こういう関係は大事にしないとね)

ほくほく顔で船を見ていく。

ヒカルたちのいるフロアは個室があり、その下は雑魚寝の大広間になっているようだ。むさ苦しいことこの上なかったが、活気はすごい。

「さぁさぁ張った張った!」

「かんぱーい!」

「果物はどうかね〜」

「腐る前に売っちまおうってか?」

サイコロ賭博をしている者もあれば、酒盛りを始めている者もある。

冒険者ではなく明らかに行商人もいて航海中にダメになりそうな果物を売りさばいている。

「活気はあるけど……ちょっと臭いな」

「なんというか、あらゆるニオイが混じってる」

「あははは……」

3人とも鼻をつまんでそんなことを言っていると、遠くからジャァァァァンという銅鑼の音が聞こえてきた。

いよいよ出航だ、とわかると、バクチをやっていた者も、酒を飲んでいた者も立ち上がり、みんなで甲板を目指す。

もちろん、ヒカルたちは先行していた。

甲板に出ると心地よい潮風が吹いてくる——春の訪れが近いと感じさせる、寒さの緩んだ風だ。

甲板から見下ろすと、波止場には多くの人たちが集まっていた。

同時に軍の遠征部隊も出航するので——そちらはヴィレオセアンの軍船と、ドリームメイカーの軍船とに乗り込んでいる——見送りの人がほとんどだろう。

楽隊が出てきて勇壮な音楽まで鳴らしている。

その中心にはこの国の長である総首領パトリシア、ヴィル=ツェントラ市長、それに他国の代表たちが一段高いところに立っていた。

「諸君!! これより新大陸へと向かう、勇敢なる者たちよ!! 航海の無事、そして任務の完遂を祈る!!」

こめかみに指先をピンと伸ばしてつける敬礼をする——それは地球で見た軍隊式敬礼と同じだった。

パトリシアに並ぶ代表者たちも敬礼をする。

軍船に乗り込んだ兵士たちも敬礼をして返した。

ワァァァァァァ……と歓声が大きく上がり、それに驚いたのか、カモメたちが空を飛んでいく。

「ああ……出発するんだな」

とヒカルは妙な感傷を覚えていた。

だがそれが胸をよぎったのも一瞬のことだ。

「……仇は絶対に取ってやる」

小太りなオッサンで、ドリームメイカーのことだけを考えて生きていた男。

ドゥインクラーの仇は必ず取ると、ヒカルは誓いを新たにした。

そしてそれとは別に——妙な予感を覚えてもいた。

ヒカルの「直感」スキルが囁いているのかどうかは、わからない。

ただ今回の遠征で、なにか——この世界の深淵に触れるような、そんな気がしていた。