軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

緊張するギルド

センクンがよりによってヒカルの名前を叫ぶと、周囲の冒険者たちも、

「ん、なんだあのガキ」

「よくここに顔出してるガキで、魔法書の買い取りをやってたはずだが……」

「依頼人なのか?『東方四星』とつるんでる冒険者とか聞いたぞ」

ざわついているのだが、この状況はヒカルにとっては大変よろしくない。ここまでかなり上手に立ち回って表舞台に立たずに来たのだ。

「魔力探知」で毎度のことギルドの中を確認するのは骨が折れるし、そもそもそこまではっきりくっきり「誰が」いるかまではわからないから今までは事前に確認を怠ってきた。それでも、セリカくらい膨大な魔力があればわかりやすいのだから、今後は軽く確認するくらいはしたほうがいいかもしれない。

「それに——麗しの黒の君!」

センクンはイスから飛び降りるとセリカの前まで行って片膝をつく。そうしてセリカの手を取ってその甲に口づけするところまでの流れがあまりにスムーズ過ぎて誰かが邪魔をする余地もなかった。

「ちょっとちょっとマジウケル〜〜〜! そういうの僕の仕事なんですけど〜!」

チャラいエルフのギリアムがギルドのカウンターを叩きながら爆笑しているが、それでハッとしたセリカがセンクンの顔面に正面から蹴りをくれた。

「げぶっ!?」

真後ろに転がっていくセンクンに、冒険者たちが驚きを超えた悲鳴を上げている。すわ、冒険者ランクAとBの戦争かと色めき立つ。

「そこで蹴られちゃうところがマジセンクン」

「それな」

だが「愉快痛快」のギリアムも、ナーゴも、まったく気にした様子もなくセンクンを回収している。

よかった。自分のことはみんな忘れてくれたようだ、とヒカルが安心していると、

「……騒がしいな」

のそりと、ギルドの入口に、身長もでかいが筋肉の付き方もすさまじいという男——虎系の獣人が現れた。

「ゴ、ゴ、ゴットホルトだ! アインビストのランクAパーティー『極虎』だぞ!」

またも冒険者たちが騒然とする。

10人ほど引き連れたゴットホルトはアインビストの冒険者だ。ゴットホルト自身がアインビストの獣人王ゲルハルトに心酔しており、今回の遠征にも従軍していた。

だがこのギルドに顔を出すのは実は初めてでありゴットホルトたちが来ていることを知らない冒険者は多かった。

ゴットホルトを先頭に、ぞろぞろと獣人たちが入ってくる。身長が高いもいれば低いもいる、男も女もいる。みな亜人種でありウサギや狼の獣人はわかりやすいが、ドワーフなんてのもいた。

「む……」

ゴットホルトと床に座って鼻を押さえているセンクンとの視線が交差する。

「……ポーンソニアの『愉快痛快』か。ウワサは聞いている」

「あー。オイラたちも知ってるよ。残念だなあ、お前らがポーンソニアに攻め込んできたら全員ぶっ飛ばしてやろうと思ってたのに」

センクンが言っているのは、以前アインビストがポーンソニアに派兵したことを指している。最終的には直接対決にはならなかったが。

だがゴットホルトは単なる切った張ったの冒険者とは違い、立場もある男だ。安い挑発には乗らなかった。

「そうか。それは残念だな」

そうして「愉快痛快」を無視してカウンターへと向かう。センクンは面白くなさそうながらも特にそれ以上手出しをしなかった——のだが、

「「なんだつまらない。そこで 罠のひとつ(・・・・・) も仕掛けるのが冒険者だろう?」」

声が—— 完全一致(ユニゾン) した二人分の声が聞こえてきた。

ギルドの奥から出てきたのはまた別の冒険者——顔がまったく同じ2人組が出てきた。

すらりと背が高いが、鍛えられている感じはあまりない。右側で髪を分けているのと左側で分けているのとくらいしか違いがヒカルには感じられなかった。

(命名、「L<>R」だな)

そんなバカなことが頭をよぎったが、それはヒカルだけで、すぐ隣のソリューズも、センクンも、ゴットホルトも緊張した表情を見せた。

「『ヒュージツインズ』……彼らが来るなんて」

「メンドーなヤツらも紛れこんでんじゃんかよー」

「……ラムにレッグ。久しいな」

どうやら有名人のようで、他の冒険者たちは動揺するかのようにさざめいた。

(なんだなんだ。そんなにヤバイふたりなのか?)

関わり合いになるのは止めておこうと、ソリューズの拘束が緩んだのをいいことにラヴィアとポーラの手をつかんで「集団遮断」でギルドの隅へと逃げる。

「「俺たちが来たからには、大船に乗ったつもりでいてよ。って大船に乗っていくんだったね! あっはっはっは」」

「これは、巨大竜石の取り分については事前に協議しておいたほうがよさそうだな」

ゴットホルトが言うとギルドの受付嬢も大きくうなずいた。

「そのとおりです。今回はギルドでも参加冒険者をしっかりと把握して部隊分けをしたく思っています。最大の依頼は新大陸での冒険者ギルド支部の開設と確保ですが……」

「「軍が竜石を目指すのに、 冒険者(おれたち) が指をくわえて見ているわけないじゃんねえ、ゴッホルちゃん」」

「——てめぇ、ゴットホルト様をナメてんのかァッ!」

「極虎」のメンバーらしき、犬系獣人の少年が目を吊り上げる。呼び方ひとつでこの切れっぷりはただ者ではない。当の本人であるゴットホルトが気にした様子もないのに。

「止せ。アイツにはなにを言っても無駄だ」

「「やだなぁゴッホルちゃん。まるで君が俺たちになにかを言ったことがあるみたいじゃないか。ゴッホルちゃんの言うことならいつでも聞くよ?」」

「あいにく、お前と殺し合いをしているほどヒマではない」

「「ざ〜んねん」」

やれやれと首を横に振っている双子——ほぼ確実に一卵性双生児のラムとレッグだが、ヒカルはゴットホルトの口から簡単に「殺し合い」という言葉が出てきたことに驚いていた。

(やり合えば、確実にどちらかが死ぬ……と、そう感じるほどの冒険者なんだな)

ゴットホルトも相当の剣の使い手だ。単体ならばソリューズよりは強く、ローレンスよりは劣るといったところか。それほどの人物が警戒しているのだ——あの双子を。

(何者だ?)

ヒカルの疑問をよそに、「極虎」「愉快痛快」「東方四星」はギルドマスターに呼ばれて奥へと入っていく。ソリューズは突然いなくなったヒカルに顔をしかめていたが、いっしょに奥に行って楽しいことなんてあるはずもないだろうから逃げるのは当然の選択だ。

逆にラムとレッグはすでに話が済んでいるのか、彼らがいなくなるとギルドのカウンターに革袋を——金貨の詰まった革袋を置いた。

「「酒は『愉快痛快』がおごると言ったんだって? それなら俺たちは君たちから情報を買うよ。さあ、新大陸の情報を教えておくれよ。内容次第じゃあ金貨をあげるよ」」

唖然とした冒険者たちだったが、次の瞬間にはウオオオオと声を上げて双子へと突っ込んでいった。

(これじゃ近づいてソウルボードを確認できないな)

いつでも機会はあるだろう。

遠征の登録についても今日の話し合いでどうなるかを確認してからのほうがいいかもしれない。身動きの取れない部隊に組み込まれたら首が絞まるのはヒカルのほうだ。

「……一度ホテルへ戻ろう」

「はい」

「わ、わかりましたっ」

ラヴィアとポーラを促し、ギルドから外へ出る——そこでヒカルは立ち止まった。

「な……んだよ、こいつらは」

黒一色の鎧に身を包んだ男や女——武器がまちまちなところを見るに、冒険者らしいが——たちがギルドを取り囲んでいた。

その数は優に100を超えるだろう。

彼らのひとりが所属を示す のぼり(・・・) を担いでいた。

『ヒュージツインズ』

クインブランド皇国における最大最高のパーティー「ヒュージツインズ」。

この全員がひとつのパーティーなのだとヒカルが聞くのは、それからすぐのことだ。