軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騒がしい三人組

年が明けるとますます合同軍による訓練は盛んとなり、ヴィル=ツェントラの冒険者ギルドも多くの冒険者を迎え、ざわついていた。

ヒカルはシルバーフェイスとして定期的にドリアーチのところに顔を出しながら、一方で冒険者としての活動を進めていた。

冒険者が増えれば依頼もどんどんこなされそうなものだが、有名人である高ランク冒険者が多く来訪する状況に一般冒険者たちは大喜びし、逆に依頼は取り残されていたのである。ドリームメイカーの兵士たちも合同訓練が本格化したことでこなせる依頼が少なくなったのもある。

「東方四星」や一部の真面目な冒険者たちも依頼を進めていたおかげで依頼がパンクするということはなかったが。

(まったく……この世界の冒険者は、遊び人というかチンピラのなる職業なんだよな)

学生時代は改造バイクに乗っていた連中が、卒業しても定職に就けず暴力を振るうお仕事に就く。あるいは自衛隊や警察官の勧誘を受ける。この世界でも大体同じだ。

『やあ、ドリアーチ』

『シルバーフェイス。よく来てくれました』

ドリアーチとふたりで話すときには日本語を使うことが多かった。他人に聞かれる心配が減るからだ。

セリカにはドリアーチのことはまだ話していない。シルバーフェイスが日本語を使えるというのはヒカルがシルバーフェイスであることを自分から認めるようでイヤだからだ。彼女たちにはいまだに強硬にすっとぼけているヒカルである。

ドリアーチと、この数日起きたことについて情報交換をしていると、

『ああ、そうそう。パトリシア様からこの書簡をあなたに渡すよう言われていたのです』

『書簡? おれに?』

手に取ってみると、それはクインブランド皇国の皇帝カグライからの私信だった。

その割にたいした封もされていないのは中を見られても構わない、特に問題のない私信であるという意思表示だろう。

(それだけ僕も警戒されているんだぞ、と伝えたいのかね……)

カグライがシルバーフェイスに対して内密の連絡をしていたら、パトリシアは警戒するだろう。それに配慮してのことだ。

中に目を通すと——皇帝らしさもなにもない素っ気ない文章だった。

——余と同郷である、腕の立つ者を送り込む。なかなか気の良い者たちであるし、クジャストリア陛下もこのことは承知の上。ほぼ間違いなく貴様と激突するであろうが存分にたたきのめして構わぬ。追伸:討伐報酬は別途送るが褒美の本のことも忘れるでないぞ カグライ

ヒカルは無言で書簡を伏せた。

『……? どうしました、シルバーフェイス?』

『いや……ちょっとまあ、アイツなんなのかな、って……』

書簡を差し出すとドリアーチはびっくりしたようにそれを受け取り、

『読んでも、いいのですか』

『どうぞ』

しばらく目を通し、

『これは……なかなか。シルバーフェイスとカグライ様は仲がいいのですね』

『どうだろうね』

書簡を返されたが、持っていてもしょうがないのでびりりと破いて部屋の暖炉に放り込んだ。それをまたドリアーチは驚いたように目を見開く。

『ふつう、一国の長から来た私信を燃やしたりはしないものだと思いますが……』

『あの内容だよ? まあ、おれと彼の関係を邪推されたくないから証拠を消しておくって意味もあるけど——』

パトリシアは中身を見ているだろうな、と思いつつ。

「褒美の本」というのはクインブランドの皇城にある珍しい本をもらうという話である。あれからいろいろありすぎて取りに行けていない。

「討伐報酬」は、カグライの護衛としてヴィル=ツェントラまでやってきた際、巨大な甲羅と2つの頭を持つロックドラゴンを倒したことだろう。

ドリアーチが続いて手渡してくれた革袋には白金貨が入っていた。パッと見たところ200万ギランくらいはありそうだ。

(あの狸皇帝……)

白金貨などなにも考えずに使ったら足がつくに決まっている。ギルド口座への貯金としてもそうだ。シルバーフェイスの正体を見極めてやろうという意図なんてないだろう——などとはけっして思えない。

『シルバーフェイス。カグライ様への返信はどうしますか?』

『特にしなくていいさ。受け取ったとだけわかればアイツは満足する』

『ふふふ……やはり仲がよろしいようだ』

『止めてくれ』

パトリシアやクジャストリア、フォレスティア連合国の筆頭大臣ゾフィーラも頭がいいと感じたが、カグライはその数枚上手だとヒカルは認識していた。

(あれに匹敵するめんどくさいヤツは……)

ヒカルの脳裏には「太陽乙女」などとちまたでは言われている金髪シニヨンの女冒険者のまばゆい笑顔が——すでにうさんくさい笑顔にしか見えない——よぎった。

シルバーフェイスからヒカルに戻り、ラヴィア、ポーラと合流する。

すでに仲直りが済んだリュカは、今日からクロードの幕舎にいるようだ。既婚者が妻を連れてくることは従軍という状況ではあり得ないことなのだが、クロードは客人扱いであることからギリギリ許されたらしい。

「ねえ、ヒカル。リュカさんも仲直りできたし、これでわたしたちが 冒険者として(・・・・・・) グランドリーム大陸に行く必要はなくなったと思うけどどうする?」

「うーん、でも『冒険者という身分』はあったほうがいろいろ動きやすい気もするんだよね。でないとずっと仮面をつけてなきゃいけなくなる」

「……行くわよ、グランドリーム大陸へ」

「いや、行くこと自体は行くんだけどね」

ヒカルは苦笑する。

冒険者として渡航すれば「シルバーフェイス」は必要なときだけ出て行けばいい。ふだんの生活——特に寝起きは仮面をつける必要がない。その点は大きいとヒカルは思っていた。

気の休まる時間は誰しも必要なのである。

なので、リュカも含めて4人で登録していた渡航に関して彼女を抜いて3人に変更するべく冒険者ギルドに向かった。

「やあ」

ギルドの前でばったりと出会ったのは、先ほどヒカルが「うさんくさい」と考えていた笑顔の持ち主、ソリューズ率いる「東方四星」のメンバーだった。

「どうも」

「君たちもギルドに? じゃあいっしょに入ろうか」

「止めておきます」

「そう言わずに」

「いや、手をつかまないでください。ていうかモンスターの血で汚れてるじゃないですか」

「君も冒険者ならそれくらい気にしないだろう? というより君たちは冒険者にしてはよほど清潔だよね」

「そっちこそ」

「私たちは貴族に会ったりする必要があるからね」

「だから力が強いって!?」

ぐいぐい引っ張られていっしょにギルドに入る羽目になったのだが、入ってみて初めてヒカルはなぜソリューズがここまで強引なのか知った。

「おーい、ここにいる全員、今日は俺のオゴリにすっから。いやほんとマジね。つぶれるまで飲んでくれて構わないから」

「ちょ、センクンマジセンクン」

「それな」

オゴリ、と聞いた冒険者——万年金欠病に罹患しているチンピラたちはウオオオオオと叫び声を上げて、

「センクン! センクン! センクン!」

と大合唱を始めた。

それを気分良さそうに聞いている——3人組。

ひとりは背が低いからだろう、イスの上に立ってまるで指揮者のように両手を挙げている。

ひとりは冒険者にしてはめずらしくヘアオイルなんかで前髪をおっ立たせて、耳にピアスをしているエルフ。

もうひとりは目元までしっかり隠れた前髪をパッツンにしている——身長190を優に超える大男。

「……彼らがいると、知っていましたね?」

ヒカルがたずねると、ポン、とソリューズは手を叩いた。

「そうそう。ポーンソニアの王都ギルドからランクA冒険者パーティーが向かったという連絡が来ていたっけ」

「それを『知っていた』って言うんだよ……」

大騒ぎの渦中であっても「東方四星」は目立つ。冒険者たちの視線がこちらに注がれ、イスに乗っていた背の低い男——カグライと 同じ(・・) マンノームであるセンクンもまた気がついた。

「あぁぁっぁああああああああ! ヒカルゥゥゥゥゥゥゥ!」

ソリューズに会った時点で全力で逃げるべきだったとヒカルは後悔した。