軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「年越しの華祭り」はヒカルにとって2度目だったが、ヴィル=ツェントラのそれは非常に盛大だった。

朝から多くの出店が現れ、あちこちのお店でセールをやっている。この日ばかりは財布の紐も緩むのか買い物カゴを重そうに持って歩く人々が目についた。

そんなセールも夕方には終わり、店じまい。それから人々は街に繰り出して大騒ぎである。

「ふぁー……こんなに大騒ぎになるんですねえ」

ポーラが感心したように言う。

年末の寒さだというのに大通りの端はテーブルで埋め尽くされ、人々が宴会をやっている。惜しみなく魔導ランプも外に出されて通りを照らしている。

聞き慣れない歌が聞こえる。

それは船乗りの歌だ。ヴィル=ツェントラはヴィレオセアンの首都ではあってもあくまで船乗りの街なのだ。

遠くに行った船乗りを待つ女の歌、長く故郷を空けたことを悔やみながらも夢を追う男の歌……しかし子どもたちの歌う童謡はここでも、アインビストのホープシュタットでも同じなのが不思議ではあった。

「ヒカル、あれ」

くいくいとラヴィアが袖を引いてくる。彼女の指すほうを見ると、大通りの真ん中に人だかりができている。

「いいぞお兄ちゃん、男を見せろや」

「そんな身勝手な男、振っちまいなよ!」

「聞こえねぇぞ、でけぇ声出せ」

ギャラリーがてんでばらばらに声をかけているが、どうも男が女にプロポーズしているようなそんな雰囲気だった。

女が男に背を向けたようで、ワァッとギャラリーから声が上がる。そのとき、

——待ってくれ、リュカ!

と、人だかりの中から聞き覚えのあるような声が聞こえてきた。

「……ヒカル、もしかしてアレ」

「……行きたくないけどこれは行かなきゃいけない流れなんだろうな……」

イヤな予感がびしばし感じられたが人だかりを割りながらヒカルたちはその修羅場へと入っていく。

「違うんだ、リュカ。君を置いていこうと思ったわけじゃない。俺は、弱い……もっともっと強くならなきゃいけないんだ!」

「…………」

「お願いだよ、こっちを見てくれ!」

案の定、クロードとリュカがいた。

元々リュカとは街中で合流する予定だったのでクロードとはばったり遭遇してしまったのだろう。クロードの背後にはイヴァンとローイエがいて、

「しっかりしろクロード」

「決めろ。男だろう」

とかなんとか無責任な声を投げている。

「アイツらはほんとにもう……」

クロードに背を向けたままのリュカは困り果てているようでもあった。ヒカルはリュカとクロードの間に立ち、ラヴィアとポーラがリュカの保護に向かう。

「げぇっ、ヒカル!?」

「その驚き方はなんだよ」

突然の登場に、驚愕の表情を浮かべるクロード、イヴァン、ローイエ。まったく同じ表情をしている辺りどれだけ仲良しなのかと言いたくなる。

「さてクロード、リュカをひとり置いてこの街にやってきたお前が、今さら彼女の関心を惹こうなんていうのはあまりに都合が良すぎるじゃないか?」

「いや、それは違う……っていうかなんでヒカルが知ってるんだ!?」

「そりゃあもう、一通り話は聞いたさ。彼女を保護しているのは僕だからな」

「なにぃっ!?」

保護、という言葉に反応したのかクロードの顔が朱色に染まる。

「ヒカルッ! リュカをどうするつもりだ!! 場合によっては許さないぞ!」

人差し指をヒカルに向けたクロードへ、歓声が飛ぶ。

「いいぞぉっ、兄ちゃん、やっちまえ!」

「寝取られたら取り返せ!」

ヒカルはできる限り悪役然とふんぞり返る。

「ならば誓えよ、ここで、彼女への愛を。絶対に彼女を守り切るという誓いを——新大陸へも連れていき、そこでもなお彼女を絶対に守り切るという誓いを」

「なっ!?」

新大陸という言葉に、クロードだけでなくギャラリーも反応した。

「おい、アイツら新大陸に行くのか?」

「海も危険なら大陸も危険だって話だろ」

「女を連れて行くなんてむちゃくちゃだ」

だがヒカルはそこで言葉を止めない。

「クロード。万全を期すまで行動しないのはお前の悪いクセだ。いつだって万全なんてこない。欲しいなら、今すぐ手を伸ばせ」

「——ああ、わかった。誓う、誓ってやる!」

すぅ、とクロードは大きく息を吸う。

「リュカ!! すまなかった、俺は自分に自信がなかった……お前を守り切るという自信が! でも吹っ切れた。そんな自信なんかよりお前がいない日々のほうがつらいんだ。だからそばにいてくれ! 俺は、どんな状況でも全身全霊をかけてお前を守るから!」

「————」

振り返ったリュカが、走り出す。

「クロードッ」

「リュカ!」

そしてクロードもまた。

群衆が見ている前でふたりが抱き合うと、ワァッとギャラリーが拍手をした——。

『なにあの茶番』

リュカが走り出した時点で人混みから逃げ出したヒカルたちを待っていたのは、そんな、セリカの一言だった。

『言うなよ。そっちはなにしてるんだ?』

『今から宴会よ宴会。アンタたちも来る?』

見ると、「東方四星」の4人が勢ぞろいしている。両手に食べ物や酒瓶を持っている辺り、外ではなく内々でパァッとやるようだ。

「君も来ないか、ヒカルくん」

ソリューズが相変わらずのさわやかな笑顔で言うが、ヒカルの目にはもはや彼女の笑顔はうさんくさい。

「お断りします」

「なに、遠慮することはないよ。巨馬車に乗って長旅したような仲じゃないか」

「お断りします。ていうか女性ばかりのところに行っても気を遣うだけですよ。年越しは仲間内でどうぞ」

「……そうだね」

ソリューズはすんなりと引いた。

「年越しを4人で過ごせるのも久しぶりだから、そうしよう」

後で聞いたところ、「東方四星」は基本的にポーンソニアに滞在しているので、年越しの華祭りではあちこちの貴族から声が掛かるらしい。

「ヒカルは人気者ね」

「人気者っていうのとは違うと思うけど」

「東方四星」と別れてからヒカルたちが向かったのは、ヴィル=ツェントラに来てからよく使っている料理店だった。

だいぶ常連になっているので、「年越しの華祭り」というかき入れ時だというのにカウンター席を押さえてもらった。

20人入れるかどうかという大きさの店だったが中は満席だ。どうしてもカウンターがいいという客がいて、ヒカルが交換して通された席は2階の窓際だった。

大通りを見下ろすその席は、冴え冴えとした月の光もよく見えた。

ヴィル=ツェントラらしい海鮮を使った料理に舌鼓を打つ。

「あーあ。グランドリーム大陸でばったりクロードに会わせて驚かせる作戦が水の泡だ」

「でもリュカさんにとってはよかったと思う。もやもやしたまま年を越して、3か月も待つのはかわいそう」

「ヒカル様があそこでけしかけたのもよかったですね!」

「ん……グランドリーム大陸まで行けばさすがにクロードも腹が決まると思ったんだよね。でも——」

クロードは公衆の面前ではっきりと言った。リュカを守ると。

元々クロードとリュカのふたりは道ならぬ恋に落ちていた。その想いがバレてしまうと命の危険に直結していたからこそ、彼らは慎重だった。

その慎重さはあのときには必要だったが、今はそのせいでよくわからないすれ違いを生んでしまっていたわけだ。

「……自信がないなりにクロードも成長したんだな」

ぽつりと言ってヒカルはお茶を口に運んだ。

「ヒカル様、『東方四星』のセリカさんとは……」

言いかけてポーラが口をつぐんだ。

「ん? セリカがどうかした」

「あ、いえその……なんでもありません——」

「ポーラはヒカルが、どこかに行ってしまうんじゃないかと不安がってる」

「ラヴィアちゃん!?」

「ん、僕が? どうして?」

「セリカはヒカルと同じ異世界人なんでしょう? だから、彼女とふたりで話していた内容は、元の世界に帰る方法じゃないかと」

「ああ……」

ヒカルが見ると、ポーラは確かに不安を滲ませた瞳を伏せていた。

「——そうだね、元の世界に帰る方法について情報交換していたってところだな。そして、そのヒントが得られたようだ」

「えっ!?」

「そうなの? どんなヒント?」

そこまでとは予想していなかったようでラヴィアも驚いて聞いてきた。

「話すのは構わないけど、その前に言っておくよ。もしもその方法が、向こうの世界とこちらをつなげる方法が見つかったとしたら——」

ちょうどそのとき、ヒカルたちの横顔を様々な色合いの光が照らしだした。そしてドン、ドンッ、と空から音が聞こえてくる。

年が変わったことを伝える花火が打ち上がったのだ。

だけれど3人はそれにも気づかないように話を続けていた。