作品タイトル不明
激戦の幕開け
『回復魔法使い殿を守れッ! 連中はあの御方を殺そうとしたのだ!!』
ドゥインクラーが叫ぶや、宮殿の守備兵が一斉に武器を持って駈け出した。
だがそれ以上に早かったのが、
『ルーデンドォォ……この御方にブラストキャノンを向けたのか!? 向けたのかァァァァ!!』
ガリクソンだった。瞬く間に距離を詰めるや剣を振るって砲手2名の首を斬り飛ばす。噴水のように上がる血液が周囲に飛び散った。
『ルーデンドォ!!』
『ひっ!? ま、守れ! 私を守らんか!』
血走った目でルーデンドの姿を見つけたガリクソンだったが、その間には叛乱兵が何人もいる。大盾を構えた彼らを、ガリクソンは蹴り飛ばし、わずかな隙間に切っ先を差し込んで切り傷を負わせ、すぐにも防衛ラインを崩していく。
さらに、そこへ飛び込んで来たのが宮殿守備兵だ。これまで宮殿の城壁を軸に防戦一方だったが彼らの反撃に叛乱軍も混乱する。
「え? え? え?」
鐘が鳴ってからなにが起きているのか事態についていけないポーラは、ガリクソン以外の15人によって守られたまま、そばを通り過ぎて打って出る守備兵たちを唖然として見送ることしかできなかった。
15人はと言えば、彼らもまたポーラが傷つけられようとしたことにブチ切れたのだが、
『隊長、マジでヤベェ』
『俺たちが行ったら明らかに足手まといだわ』
『だなぁ……ていうか女神様を守ることを忘れてる』
ガリクソンの恐ろしさを知っているのかその場に留まりポーラを守る道を選んだようだ。
そのガリクソンはと言えば『ルーデンドォォ!』と叫びながら剣を振り回し、脂がまいてくると切れ味が悪くなったので叛乱兵の剣を取り上げそれを振り回し、さらに脂がまくと次の剣を取り上げ——と死神の永久機関のごとき活躍振りである。
ドゥインクラーのとっさの判断も見事だった。
ガリクソンが名のある兵士だったことに気づいてはいたが、ポーラの親衛隊としてしか動いてくれないだろうと思われた。
しかし敵方がミスをしてくれたのだ。よりにもよって回復魔法使いに刃を向けてしまうとは。そうなればガリクソンが怒り狂うことは火を見るより明らかなのに。
ガリクソンが叛乱兵を攻撃してくれるのなら、まさに百人力。拮抗していた戦力差は崩れ、こちらが圧倒的優位になる。
それを見越して、ガリクソンが突撃するや宮殿守備兵にも攻撃に移るよう指示を出したのだ。
ドゥインクラーは戦闘指揮の経験値がほとんどないが、それでもどこが勝負どころかはわかる。勝負すべき局面は、どちらも同じ「人のなすこと」なのだから戦闘においても政争においても同じなのだ。
『勝ったな』
満足げに鼻を鳴らすと、ドゥインクラーはドリアーチへ報告するべくきびすを返す——のだが、彼の足は止まった。
『な……なん、なんなんだ、アレは……』
この頃になると、ドリームメイカーの中心部である宮殿からも その姿(・・・) を見ることができた。
夜空に浮かぶ巨人——ヤママネキが城壁に迫っている。
「あ……!」
同時にポーラもまたヤママネキに気がついた。そして彼女は、先ほど鳴っていた低い鐘の音がヤママネキの襲来により、避難を指示するものなのだと思いつく。
「み、皆さん! あの、皆さん! 戦ってる場合じゃありませんー!」
ポーラが声を張り上げるが、ガリクソンを始め、戦闘状態の人々に聞こえるワケがない。
『どうしました、女神様』
「なんとかして戦いを止めてください! 今はそれどころじゃないんですぅ!」
『あっはっは、もう大丈夫ですよ。きっと女神様は、ご自分が狙われたことで興奮していらっしゃるんだ』
『なるほどな。女神様、ご安心ください。悪いヤツらはガリクソン隊長が全員倒します』
「なんでにこやかなんですか!? そうじゃなくって、あっち、あっち!」
『ん……』
ポーラが必死になって指で指し示すと、ようやく親衛隊の皆さんがそちらに顔を向ける。
『へ……おわぁーっ!?』
『なななんだありゃあ!?』
『モンスターの襲来だ! モンスターだ!』
『鐘を鳴らせ!』
『もう鳴ってる! っつーかあの鐘はこれだったのかよ!?』
『止めろ止めろぉ! 内輪もめしてる場合じゃねえぞ!』
親衛隊が声を張り上げるが、それでもなお戦闘に突入して極度の興奮状態にある彼らが止まるはずもない。
こういう場合は鳴り物で指示を出すものだが、宮殿守備兵の銅鑼や太鼓がどこにあるか親衛隊たちが知るはずもないし、叛乱兵の鳴り物は戦闘地帯の向こう側だ。
「あぁぁぁぁもぉぉぉぉお! 戦いは、止めて、くださぁぁぁぁい!」
ポーラが声の限りに叫んだときだった。
巨大な爆発が夜空で起きた。
光が降り注ぐ。
きーん、と耳が鳴る。
あまりの大きな音に、全員が思わず戦いの手を止めて空を見上げてしまう。
するとまたも火の玉が現れるや、北の空へ向かって一直線に飛んでいった。
「……ラヴィアちゃん」
小声でつぶやいたポーラの声を聞いた者はいなかっただろう。
ポーラは、屋根の上にいた小さな黒い影を見たが、次の瞬間には闇に溶け込んで見えなくなった。
彼女の火魔法の効果は劇的だった。火の玉を追って視線を北へと向けた兵士たちは、城壁にとりついているヤママネキの頭に気づいたのだ。
建物があるせいで見えなかった者も多いが、数人見ただけでも十分だ。
『ヤママネキだ! ヤママネキが来てるぞぉ! 何匹も!』
『は、なに? なにがいるって? 耳が聞こえーー』
『緊急避難! 緊急避難! 逃げるぞ!』
『戦闘止め! 止めえ!』
口々に叫ぶ彼らと同様に、混乱しているのはルーデンドもまた同じだった。
ガリクソンが鬼気迫る表情で突っ込んできたのであわてて退いたが、彼もまた路地裏からヤママネキの姿を目視した。
『こ、ここ、こんな……ことが……。これでは、王制の打倒どころか国の存続さえ危うい!』
『いかがなさいます』
『いかがもへったくれもあるものかッ!』
隣にいたのは衛生環境局長だ。彼も顔を青くして、明らかに動揺している。
叛乱が失敗する可能性は、ゼロではなかった。その結果全員が死罪になることも覚悟していた。だが魔物に侵略されて滅びる——そんなことは想像の埒外だ。
『避難……するしかないのか……。クッ、状況がわからん! ゴルジアはどこだ!』
『はぐれたようです』
『使えん! なら——』
ルーデンドが思わず言葉を切ったのは、目の前に黒い影がいたからだ。その顔には銀色の仮面——星の模様が彫り込まれている仮面があった。
『お、お前はシルバーフェイスのッ!?』
『うろたえている場合じゃないのはわかっているでしょう』
『!? 言葉が話せるのか!?』
ルーデンドも衛生環境局長も変なところで驚いていた。
『あなたたちには国民を避難させている間、城壁でモンスターを食い止めてもらいたい』
『無理だ。混乱のさなかで、我らと守備兵が歩調を合わせることなどできるわけがない。それに我らの装備ではヤママネキを相手にできん!』
『できる』
『なにを根拠にそんな——』
どさっ、と音がした。スターフェイスの前にあったのは、
『ま、ま、魔術触媒……!? そうか、お前が盗んだのかッ!?』
『多くの人間を死なせるわけにはいかなかったから』
『なんだそれは——いやちょっと待て。まさかお前、モンスターが攻めてくることを 知っていた(・・・・・) かのような口ぶりではないか』
『想定内のことではあった。守備兵にも連絡済みだから、がんばって』
『ま、待て! 待て! お前は——お前はどうするのだ!?』
『…………』
暗がりに姿を消そうとしていたスターフェイスは止まる。
『全国民を避難させる準備』
『避難……? どこに避難させるのだ』
『遠いところ。とっても、とっても遠くに』
そう言ったスターフェイスの首に、白い、毛皮のようなものが巻かれていることにルーデンドは今さら気がついた。