軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

諜報員ラヴィア

ヒカルには「隠密」があったが、諜報活動をするにあたっては話を盗み聞くにも書類を盗み読むにも「言語の壁」があった。

ドリームメイカーの言葉でわかるのはごくごく簡単な文章だけというヒカルである。とてもではないがスパイ活動なんてできっこない――と思っていたのだが、街に帰り着いてみると意外なところに解決策がありそうだった。

「おかえりなさい、ヒカル」

ヒカルが庭園邸宅に帰ってくると、真っ先にラヴィアが出てきた。夜更けだというのに、しかも「隠密」を解くやまっさきに駈けてきたのだから驚く。

もしや探知能力に目覚めたのでは?

「どうしたの」

「い、いや……ただいま、ラヴィア」

「ラヴィアちゃん、どこに行ったの――って、ヒカル様!? ちょっ、ラヴィアちゃん、どうしてわかったの!?」

「ふふ。わたしはヒカルがいるならどこでもわかるの」

得意げに言ってくれるが、ヒカルとしてはうれしいやら恥ずかしいやら。「探知」なんて関係なく、ヒカルだからわかったと言ってくれたのだ。

するとラヴィアはヒカルの姿を上から下まで見て、両手に抱えているコウ――お腹がでっぷりしていて眠っている児白龍を見ると、

『その様子を見ると収穫があったみたい』

「? ラヴィア、今なんて――」

「すごいんですよ、ヒカル様。ラヴィアちゃんったらかなりこっちの言葉を話せるようになっているんですから!」

「かなりと言っても、日常会話でぎりぎり通じる程度だけれどね」

「…………」

ヒカルは唖然とした。

さすがに、早すぎる。ラヴィアがいくら本を読みたい欲求にかられているとはいえ、言語の習得は一朝一夕にできるものではない。

「ヒカル?」

「あ、ああ……ごめん、ちょっと驚いた」

「そう? まずはコウちゃんを寝かせましょう。ヒカルも着替えて。それとも身体を洗いたいかしら? 疲れてるなら今日はもうゆっくり眠る?」

「いや。ちょっと早めに報告したいことがあるんだ」

ヒカルの真剣な声に、ラヴィアたちもつられて真面目な表情になった。

「――というわけだ」

沸かしてもらったお湯で簡単に身体を拭き、着替えたあと、ラヴィアとポーラに「遠征調査」で見てきたことをすべて話した。コウは離れた部屋で眠っている。

しばらく沈黙してから、ラヴィアは、

「邪に連なる者と、ワカマルさんの弟であるコウキマルさんが手を組んだ。そしてこの街には敵方への内通者がいてそれが誰かわからない」

「簡単にまとめると、そうだね」

「――ヒカルはその内通者を調べないと危険だと考えているのね?」

うなずいた。

内通者がどこまでの情報にアクセスできるのかわからないが、今のところ、ドリームメイカー内部のことは筒抜けだと思ったほうがいいだろう。ヒカルたちの存在も伝わっているはずだ。

「一方で、『塔』……というか『卵』というか……ルーツの破壊を進めないといけない。場所についてはわかっているけど、こっちはとにかく時間がかかると思うんだ」

ルーツの場所はメモをしてあるし、「魔力探知」もあるので探すことはさほど難しくないだろう。ただ問題は行き来だ。船でいける場所は船を借りればいいが、森林の内陸部は歩いていかなければならない――連れていけるのは「隠密」を使える人物だけ、となると、ヒカルが単独で行かなければならないだろう。

「どちらを優先すべきかちょっと迷ってはいるんだけど……」

「ヒカル。情報収集はわたしがやるわ」

「え?」

「こっちの言葉を覚えるのにも張り合いが出るし、実はポーラの治癒活動中にこっそり『隠密』であちこち散歩もしたの。わたしがいちばん、街の地理に詳しいと思う」

「でも――」

一理ある、とは思った。彼女には「隠密」もあるし、ヒカルよりもラヴィアのほうが言語に通じている点も大きい。

ただ一方で、それを任せるにはあまりに危険だ。

「ヒカル、お願い……あなたがわたしに危険なことをさせたくないと思っていることはわかるわ。でも、わたしもあなたのためになにかしたい。ポーラだって魔法で活躍してる。わたしだけなにもしてない」

ヒカルの懸念は感づかれていたようだ。

ふぅ、とヒカルは息を吐いた。

「……ラヴィアは十分してくれているよ。リヴォルヴァーの弾丸だってラヴィアの火魔法が大活躍なんだよ?」

「ヒカル、お願い」

ぐい、と身を乗り出してくる。

いつになく頑固だな、とヒカルは思ったが、確かにここのところラヴィアに頼ったことはあまりなかったかもしれない。

寂しい思いをしていたのかもしれない――と思うと、彼女に対する愛しさもこみ上げてくる。

「こうなるとラヴィアちゃんはテコでも動かないですよ、ヒカル様。私、コウちゃんの様子を見ながらいっしょに寝ちゃいますから、心ゆくまで話し合いをしてくださいね」

ふわーあ、とわざとらしいあくびをしながらポーラが出ていく。

「……まったくポーラも変な気を使って」

「ヒカル。こっちの話は終わってないわ」

「わかった、わかったよ。スパイ活動はラヴィアに頼む」

「ほんと!?」

危険なことをお願いしているというのに、ラヴィアはパァッと表情を輝かせた。

「でも、ラヴィアのほうが僕よりもずっと言葉を理解しているとはいっても、スパイ活動をするにはまだまだ足りないと思う」

「ええ……もっともっとお勉強をがんばるわ」

ぎゅっと両手で握りこぶしを作って、むん、と力むラヴィアにヒカルは苦笑しつつ、

「君が望むならソウルボードで手助けもできる」

「!『言語理解』!」

ソウルボードの詳細についてはラヴィアにも教えてあったので、すぐに気がついたようだ。

「直感」から始まる無印ソウルボードには「知性」の先に「演算」「言語理解」「言語出力」がある。これらの項目にポイントが振られている人間はほんとうに稀だ。最近だと海洋国家ヴィレオセアンの司祭、デニス=ルグリムに「言語理解」「言語出力」が1ポイントずつ振られてあった。

ディーナあたりにもここのポイントが入っていそうだが、それはともかく、ラヴィアのポイントは4残っている。

「『直感』ソウルボードのアンロック、『知性』項目のアンロック、残り2ポイントで『言語理解』に2を振るのがいいかな」

「ええ。きっと『言語出力』は話すほうよね?」

「話すよりもむしろ、文章作成能力かなという気がしている」

「なるほど。だったら『言語理解』だけでいいわ」

「ほんとうにいい?」

「ええ、もちろん」

ソウルボードのポイントは貴重だ。こんなに簡単に、あっさりと決めていいものなのかヒカルが迷っていると、

「わたしね……うれしいの」

手を胸に当ててラヴィアが言う。

「あなたの役に立てて。わたしもあなたの横に並んでもいいんだっていう安心感を得られるから」

「ラヴィア……」

「遠慮なくわたしを使ってね」

ヒカルの指が動いて、ラヴィアのソウルボードを操作する。

【ソウルボード】ラヴィア

年齢15 位階33

0

【生命力】

【スタミナ】3

【魔力】

【魔力量】15

【魔力の理】2

【精霊適性】

【火】6

【魔法創造】1

【敏捷性】

【隠密】

【生命遮断】3

【魔力遮断】3

【知覚遮断】3

【集団遮断】3

【直感】

【知性】

【言語理解】2

「終わったよ」

「ん……なにかあまり変わったという感じはしないのね」

「うん。僕も『直感』に振ったときにはすぐにはピンと来なかった。それでも、効果は確実にある」

「ん」

ラヴィアはヒカルの隣に来ると、ぎゅうと腕に抱きついた。

「どうしたの?」

「……もう話さなきゃいけないことは終わったかなって思って……あなたがいなくてやっぱり寂しかったから」

「…………」

ほんとうは、誰をターゲットにどう諜報を仕掛けていくかを話し合わなければいけないし、どうスケジューリングするかを考えなければならないのだが――ラヴィアが可愛いので全部やめることにした。