軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親衛隊の顔見せ

ラヴィアの「隠密」は「生命遮断」「魔力遮断」「知覚遮断」とすべて3であり、「探知」3以上を持っている人間は、ヒカルが見た範囲ではいないのでおそらく十分な隠密性能を発揮してくれることだろう。

注意しなければならないのはトラップだ。ヒカルは「魔力探知」があるので魔術系トラップは看破できるが、一方で物理的なトラップ――例えば触ると縄に張られた竹が揺れて音が出る「鳴子」のようなものは看破できない。

そのあたりは「とにかく気をつける」ことだけが対策手段だ。ラヴィアに至っては「魔力探知」もないのでなおさら注意が必要だろう。

相手に見つかっても逃げるのに夜闇は便利だから活動時間は必然的に夜になる。

(心配だ……)

ヒカルはそう思ったが、ラヴィアにはすでに スパイ許可(・・・・・) を出してしまった。

ラヴィアにひっつかれたまま、久しぶりにふたりで眠った翌朝、目覚めるとポーラが食事の準備をしてくれていた。パンにチーズ、サラミやハムといった加工肉の朝食にもずいぶん慣れたが、なんちゃって和風の家だと若干の違和感があった。

ポーラの手作りらしいドレッシングを使ったサラダはとても美味しい。ドリームメイカーでも、種類は少ないながら野菜や果物が流通しているようだ。

「ラヴィアは今夜からでも活動するのか?」

「ええ、そのつもり」

いつもならポーラの隣に座っているラヴィアだったが、今日は自然とヒカルの隣にいた。なんとなくそれが、うれしくも面映いヒカルである。

「それならあまり日中には活動しすぎないほうがいいんだよな、眠気は不注意につながるから。でもそうなるとポーラの活動時間が短くなる、か」

「私は別に構いませんよ?」

「回復魔法の活動は落ち着いてるのか?」

そう言えば調査に出ていた間のポーラのことを聞いていなかった――と思ってヒカルが水を向けると、ポーラは一瞬、虫でも口に入ってしまったかのような変な顔をしてから、

「あ、えーっと……そのぅ、活動は順調なんですが」

「?」

どうも歯切れが悪い。するとラヴィアがぽんと手を叩いた。

「そうだ、ヒカル。わたしたちの行動には『絶対に信頼できる人間』が必要よね?」

「え? ああ。それはもちろん。むしろ信頼できる人間をどんどん増やしていくのが当面の目的だね」

「それならポーラの……あの人たちがちょうどいいと思う」

「 あの人たち(・・・・・) ?」

ヒカルはわけがわからずキョトンとしたが、それがなんなのかはすぐにわかることになる。

食後、外出の準備ができたヒカルたちは仮面をつけて連れ立って家から外へと出ていった――と、

『おはようございます、花仮面の女神様!』

『『『『『おはようございます!』』』』』

ガタイのいい男たちが並んで、きっかり30度の会釈をした。

その横には、邸宅の見張り――つまるところグルゥセルの手下らしい兵士が2名、困ったような顔で一応付き添っている。

「……なに? これは」

とヒカルがポーラに聞こうとすると、先頭にいた男が真面目くさった顔で言った。

『シルバーフェイス殿、我らは花仮面の女神様の恐れ多くも貴き魔の法力でもって身体の欠損を治癒していただき、生への希望を与えてくださった花仮面の女神様に忠誠を誓った者どもであります!』

「今なんて?」

ヒカルがラヴィアに視線を向けるとざっくりと通訳してくれた。「絶対に信頼できるでしょう?」とラヴィアが言う。

生きる希望を与えてくれたポーラのために尽くす――その感情は信仰に近い。

ケガによって何年もの間 忸怩(じくじ) たる思いを抱えてきた彼らだからこそ、ポーラに神性を垣間見たのかもしれない。

「つまり……彼らは命を救われた、というか、生きる希望を与えてくれたフラワーフェイスのためになにかしたいということか」

「――むしろ、命を捧げたいと、こう申しております」

横から現れたのは頭痛をこらえるような顔のディーナだった。

「シルバーフェイス様……確かにフラワーフェイス様の回復魔法を望んだのは我々ですが、これほどのお力とは知りませんでした……このような形で国民を取り込まれるのは少々困ります」

「それについては、 おれ(・・) が言ったことじゃないんだが……まあ、いい。彼らはよほどの重傷だったんだろ? アンタたちだって彼らを殺さずにおいておく――活かすこともなく放置するしかできなかったんじゃないか? なら、構わないだろう」

「……それは……」

ぐっ、と言葉に詰まるディーナ。回復魔法がないこの国で、しかも男の仕事と言えば力仕事が多いこの街では彼らの居場所もほとんどなかった。

「むしろ感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない」

ポーラに心酔しているのならそれでいい。せいぜい利用させてもらおうとヒカルは仮面の裏で笑った。

(ヒカルが悪い顔をしている……)

(そんなヒカル様も素敵です)

ポーラとラヴィアもまた仮面の裏でそんなことを思っていたが、それはさておき。

「で? ディーナがこんな朝から来るとはなんの用だ? 花仮面の女神様 親衛隊(・・・) の文句を言いに来たわけじゃないだろ」

「……はい。王様がお呼びですので、お迎えにまいりました」

ヒカルとしてもドリアーチに今回のことを話さなければならないと思っていたのでそれはそれで好都合だった。

「じゃ、ここで別行動になるけど、いいか?」

「ええ。いってらっしゃい」

「は、はい。いってらっしゃいませ、シルバーフェイス様――あ、あの、この方たちはどうしたら。シルバーフェイス様に意見を聞こうと思っていたんですけど」

ポーラに、ではなく親衛隊に向かってヒカルは答えた。

「フラワーフェイスを守ってくれるんだろ? 頼んだよ」

ラヴィアがヒカルの言葉を通訳すると、親衛隊の皆さんは自信を顔に見せつつ誇らしげにうなずいた。

歩きがてらディーナがフラワーフェイスの魔法について話してくれた。

それはフラワーフェイスを讃えながらも驚きのほうが大きかったという彼女の感想つきで、話は長かった。

ディーナとしては苦手なシルバーフェイスとの時間をやり過ごせる話があってよかったと安堵していたのかもしれない。

「ふうん……結構な人間が癒えない傷を持っているってわけか」

ヒカルは国民厨房「ザギン」で働くマスターを思い浮かべたが、「クマ店長」という印象しか浮かんでこないのでそれは頭の端に追いやって周囲に視線を向けてみる。

通りには露店が並んでいる場所もあり、そこで働く男の多くは義足であったり、片手が不自由そうであったりした。

あまり気にしていなかったが、こうして見ると怪我人が多いようだ。

「……戦えないまでも日常生活が問題なく送れる人たちは、あのように商売をなさったりすることが多いです。歴代の王様は皆様『勤労』を推奨なさっていますから」

「若い男は一通り兵士になるんだな」

徴兵制のようなものだろう。

そうでもしなければ動物性タンパク質を確保することができない事情がこの街にはある。

「そんなこと続けてたら、戦える兵士もいなくなるんじゃないのか?」

「…………」

キッ、ときつい視線をディーナが向けてきた。「言われなくてもわかっている」とでも言いたげな目だ。

だがヒカルは続けた。

「西の海を超えて、向こうの大陸に渡ろうという意見が出るのもうなずけるな」

「――あなたは、戦争を起こしてほしいのですか?」

「いや、一般論を言ったまでだ」

「そのような意地悪を口になさるのは、私が憎いからですか!? 私はあなたに謝罪をいたしました、それでもなおあなたは私が許せないのですか!?」

「…………」

「――ひっ」

仮面の向こう、細められた目を見てディーナは一瞬たじろいた。

「……ドリアーチの家に着いたな。おしゃべりは終わりだ」

ヒカルはそう言うと、さっさと入っていった。