軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄弟の縁

「最も思慮深き兄弟」――とはワカマルとコウキマルの呼び名だった。

ドリームメイカーにおいてマンノームの血を引く者はそもそも特別扱いされやすい。彼らは長命であり歴史を知る。

国王一族が発明に勤しむ一方で、ワカマルやコウキマルは哲学の議論を深めていった。

――なぜこの世界には魔物がいるのか。

――なぜこの大陸には魔法がないのか。

――人が生きる意味は。

――生と死の違いはなにか。

――ドリームメイカーが発展していった場合、どのような国家に発展するか。

――どんな国家を理想として掲げるべきか。

ふたりの議論はマンノームとして100年以上生きてきた経験や知識に裏付けされており、同じマンノームでもなかなかついていけないほど深い議論になることがしばしばだった。

ドリアーチの父である、先代国王はふたりの議論をおおいに喜んだ。

死が常にそばにある彼らは、長期的視座に立った議論をすることがなかったからだ。

――ふたりの知恵はきっと、この国を富ませよう。

ワカマルは国王の言葉を誇らしげに聞いたが、コウキマルはどこか冷ややかに聞いていた。

ふたりには家族があった。

それぞれマンノームの血を引かない女性と結婚し、死に別れた。ワカマルはそれでも2度3度と結婚をし、子供にも恵まれたが、コウキマルは二度と結婚することはなかった。

代わりにコウキマルは弟子を多く取った。自分の知恵を授けるための弟子だ。

血のつながった家族を増やすことでワカマルの思考は、より平和や調和といった方向へと傾いていく。逆にコウキマルは弟子たちとともにいる時間が増え、結果、思考の純度が増してどんどん尖っていった。

――この大陸では衰退する未来しかあり得ない。西海を超え、 原始大陸(プリミーヴァル) を目指すべきである。

最初に「原始」という言葉を使いだしたのはコウキマルたちだった。その言葉には自分たちが優越しているという響きがあった。

彼の意見は一部取り入れられ、海を渡るために必要な技術が磨かれていくことになる。

――少人数の国家では少数の国民の自由を損ねても、全体利益が最優先されなければならない。

一部の特権階級――つまり国王や9の氏族――を排除すべきだという考えもここから生まれてきた。

血筋によらぬ、優秀な者だけをピックアップし、その者たちが国家運営に当たるべきだという考えである。

先代国王はその意見すらも「ひとつの可能性であり、ドリームメイカーの今後に役立つ議論である」と認めたという――のだが、これはさすがに、まずかった。

コウキマル自身がどう考えていたのかはわからないが、弟子たちの中には過激な思考をしている自分に酔う者もあった。娯楽の少ないドリームメイカーだったからこそかもしれない。彼らは、弱腰たる国王に取って代わり、「理念が治める国家」という理想論を掲げて立ち上がろうとした。

すでにコウキマルには止められないところまで来ていた。

――兄よ、さらばだ。

数年ぶりに会った弟は厳しい顔でそう言うや、去っていった。彼らが武装蜂起し、軍と衝突したことをワカマルは後日知った――。

* *

ヒカルは地図を戻すや自分が出てきた穴へと走って戻る。

「コウ! どこだ!」

『ゲフ――』

支柱の上で仰向けになっているコウの腹はぼっこりと膨れ上がっていた。またかと思いつつ、ヒカルはそちらに向かう。

「コウ! 急いで戻るぞ!」

『うぅ、お腹いっぱいすぎて動けない……』

「あのさぁ……もう」

支柱はしっかりしていたものの足場は狭い。背中にくくりつけてある「次元竜の文箱」が重くて何度かふらついたが、コウのところへたどり着いた。

「よくもまぁここまで食べたもんだ……」

中央で光る竜石はヒカルの身体ぶんくらいはえぐれている。

だが大半は残ったままだ。

「これ、全部食べるまでここにいるだなんて言わないよな?」

『さすがに、無理……』

「壊すぞ」

ヒカルはリヴォルヴァーを抜いて、 業火の恩恵(フレイムゴスペル) の弾丸を装弾した。

「一発で済めばいいけど――っと!」

引き金を引くや、轟音とともに巨大な火球が現れ、蛇のように尾を引いて発光体へと絡みついていく。

オレンジの光に照らされ、ヒカルは周囲の気温がぐっと上がったのを感じた。

ミシ、ミシミシ――とヒビが入るや発光体が崩壊していく。

「お、おおお?」

支柱も当然崩れだし、ヒカルは宙に放り出された。

手を伸ばしてコウをつかみつつ、落下。地面の寸前でグラヴィティ・バランサーを起動し着地に成功する。

「退避退避!」

がらがらと支柱が降ってくるのを避けて逃げ、入ってきた場所から脱出する。

直後、

「うぇぇっ!?」

とてつもない光が発せられ、「卵」の上部が吹っ飛んだ。轟音と衝撃にヒカルの身体は3回転ほど前に転げた。

「マジか……」

『うぇっ、ぺっぺっ、土が口に入ったよ……竜石は魔力エネルギーの塊だから、魔法を撃ったらそりゃ爆発するよ』

「それもそうか」

ぱらぱらと殻の欠片が降ってくる。こうなってもなおゴーレムたちは微動だにしないのだから徹底している――彼らの索敵対象は「卵」の外側なのだろう。落ちてきた殻にちらりと視線を向けるだけだった。

ヒカルはゴーレムの間をすり抜けて森へと入り、ジンとワカマルの待つ船へと戻った。

『おいおいおい! なんだアレ!? すげー爆発があったぞ!』

「なんにせよ無事でよかった。あの爆発はお前さんがやったのか?」

船で早速質問攻めに会うが、ヒカルは、やはり眠ってしまったコウを横にしてやって、水を飲んで一息ついてから答えた。

「――早く街に戻りましょう。急がないと街が侵略される」

「!」

目を見開くワカマルに、

「おそらくコウキマルさんは生きていますよ。……ワカマルさん、あなたたちになにがあったのか細大漏らさず話してもらえませんか?」

ヒカルが続けると、彼は――マンノームの老人は真剣な顔でうなずいた。

「わかった……」

そうしてワカマルが話してくれたのは兄弟がどのように道を違えていったのかという話だ。

ヒカルは話を注意深く聞きながら考えていた。

(……ワカマルさんが内通者であるという可能性は、捨てきれない)

この危険な 遠出(・・) に付き合った理由として「コウキマルが生きているかもしれないから」というのは理解できる。

一方で、彼自身が内通者であるからこそ、ヒカルを 見張る(・・・) ためについてきた――とも考えられるのではないだろうか?

「塔」を目指して上陸する際に、ワカマルは「ついていきたい」と言ったのはヒカルを見張るためではないか?

コウキマルを見捨てられないのが「兄」だというのなら、これもまた理解できる。

(ならば一体誰が信用できる? グルゥセル、ドゥインクラーか? ……情報が足りない、あまりにも)

邪に連なる者やコウキマルによってドリームメイカーが崩壊に導かれるまでのタイムリミットはいつなのか。残された時間がどれくらいあるのか。

地図を見たところ、ドリームメイカー近辺のルーツはすでに 配備(・・) が終わっているようだ。であれば「竜石が成長するまで」が、残された時間かもしれない。その竜石を使って具体的にどのように侵略するのかはわからないが。

(いっそすべてルーツを破壊するか? いや、今回「卵」を吹っ飛ばしたことで僕の行動がバレた可能性が高い。内通者はきっと、僕のことをコウキマルに伝えているはずだから、警戒されるに決まっている。ならば、どうする――)

ヒカルはふと、気がつく。

(……ひとり、確実に内通者ではない人間がいる)

それは、

(ドリアーチ国王)

栄一の血を引き、国そのものがアイデンティティーとなっている人物だ。

戻ったら彼にこっそりコンタクトをとろうとヒカルは考えた。

「――というわけだ」

そこでワカマルの話が終わった。深刻な口調で話していたので、ジンは内容をよくわかっていないまでも特に邪魔することなく船を操舵している。

今、船は全速力でドリームメイカーに向かっていた。

「コウキマルさんと弟子たちが街を出たということですね」

「ああ、ついていくと言った家族もいたようじゃが、少数じゃな。それで……ヒカル、お前さんは『塔』とやらでなにを見たんじゃ」

「生きている人間の痕跡を見ました」

「――――」

そのワカマルの表情からどんな感情を読み取ったらいいのだろうか。

驚き、恥、怒り――そしてわずかな、安堵。

「ですが、いつごろまでそこで生活していたのかはわかりません」

「あの爆発は? コウキマルとは関係ないのか」

「モンスターがいたので、強力な精霊魔法で対抗しました」

「そ、そうか……あれほどの魔法があるのか。まるでブラストキャノン並じゃな」

とっさにウソを吐いたが、ワカマルは魔法の威力に驚いただけのようでそれ以上は聞いてこなかった。

「……弟子の方の中に、マンノームの血を引く人はいましたか?」

「いや、おらんかったはずじゃが?」

「コウキマルさんが追い出されたのは何年ほど前ですか」

「なぜそんな質問を――ああ、そういうことか……。もう40年も前じゃよ」

ヒカルの質問の意図に気がついたようだ。

マンノームの血を引く者がいないのであれば、弟子たちの年齢はかなり行っていることになる。

「……コウキマルがただひとり、生き残っているのかもしれんな」

「その可能性は高いと思います」

「ちょっと気持ちを整理したい……失礼するよ」

ワカマルはヒカルから離れ、ひとり海を見つめていた。ジンが話を聞きたそうにしていたがヒカルには説明することができない――言葉が通じないからだ。

(ほんとに……厄介だよな、言葉がわからないっていうのは)

戻ってからの諜報活動を考えると、言語問題をどうにかしないととヒカルは思うのだった。