軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不穏な人たち

『あのシルバーフェイスとかいう男ども、なんなのですか。ドリアーチ様の前でも仮面を取らぬとは。 原始大陸(プリミーヴァル) の猿はやはり猿でしたな。礼儀もわきまえぬ』

『しかし侮れませんぞ。あの者どもの力でドリアーチ様が回復されたのも事実。ドリアーチ様はあの者の非礼を咎めず、それどころか晩餐会の後に個人的に歓待したとか』

『……ドリアーチ様は変わられたのだ。やはり王としての適性に問題が――』

『シッ。それ以上は不敬ですぞ』

『ここには我らしかいない。かまうことはありますまい。ドリアーチ様は病のせいで弱気になられ、プリミーヴァルの猿どもにつけこまれたと、そういうことでしょう』

『すべては病のせい』

『左様。――あなたもそうは思いませんか』

部屋の隅に座っていた男は、ただじっと瞳を閉じていた。

『ねえ、グルゥセル殿』

* *

ヒカルが騎士リュックと再会したのは彼らが滞在場所として与えられている建物で、だった。回復魔法を求めた現地住民が集まっているのかなとも思ったが、そんなことはまったくなく静かなものだった。

「情報はうまく統制されているようだ。そのうち広まるかもしれないが……その場合でも我らに迷惑がかからないようにするとドリアーチ様は請け合ってくださった」

「ふぅん。じゃあこれからなにをするんだ? 唯一の目的は果たしたわけだろう」

「果たしたのは我らではないが――まあ、そうだな。現状を維持しつつ魔法使い殿の警護に当たる」

「ヒマってことか」

「ヒマと言うな」

リュックともだいぶ気安く話せるようになってきた。そもそもヒカルが身分など無視して話しかけているので向こうもそれに付き合ってしまった結果、という感じがないでもないが。

どうやらリュックたちは、後から来るはずの視察団が到着するまでなにもやることはないらしい。

「ヴィレオセアンとはどう連絡を取る手はずになっているんだ?」

「通信手段はない」

「……そうなのか?」

「急ぎだったからな。視察団はおそらく通信の魔道具を持ち込むことになるだろうが、あれは設置にも時間と専門知識を要する」

「『リンガの羽根ペン』」

「わからんぞ。もっと金を出せば小型化した通信の魔道具も調達できる」

「大陸間を超える性能があるのか?」

「……それもわからんが……。大体、ドリームメイカーの海軍も、デウ=ローク島海上の部隊とは通信できないと言っていた。我らが劣っているわけではない」

どうやら通信については行き当たりばったりのようだ。

廃墟の「リンガの羽根ペン」を探すプランは望み薄かもしれない。

「シルバーフェイスこそどうするつもりだ? 活動するにしてもたいしてやることはなかろう」

「まあ、そうだなあ。とりあえず金策かな」

「金を稼ぐのか?」

きょとんとするリュックを見て、ああ、この人は貴族のボンボンなんだなとヒカルは認識する。

「……シルバーフェイス、なんだその目は」

「いや別に。貴族のボンボンはお金で苦労したこともないんだろうなとか思ってない」

「思ってるだろ! 実際、金など稼ぐ必要はなかろう。必要な滞在費はドリアーチ様が出すと言っておられる」

「ま、アンタたちがそれでいいならいいんじゃないか。おれにはおれのやり方がある」

まず、借りを作るのがイヤだ。次に金の流れまで監視されそうでイヤだ。

金稼ぎのいいところは、物の流れにヒカル自身が関わることでこの街と接点ができることだ。ドリアーチやドゥインクラー、グルゥセルに用意されたものではなく独自の接点である。

ワカマルのような老人――マンノームに限らず、老人はヒカルたちと同じ大陸言語を片言なり話せる者が多いという。

(この小さな国が一枚岩でないなら、いろんなところにアンテナを張っておくべきだ)

やがてやらなければならない、邪に連なる者の討伐においてはあらゆるツテを使う必要があるだろう。その土台作りだ。

ちなみにラヴィアはこっちの国の言語を覚えるつもり満々だったりするが。

「……そのー、シルバーフェイスはどのようにして金を稼ぐつもりだ? 差し支えがなければ教えて欲しいのだが」

突き放されれば気になるようで、リュックが聞いてきた。

「モンスターを倒して素材を売る」

「それでは冒険者ではないか」

「なにかおかしいか?」

「おかしくはないが……こう、シルバーフェイスは 搦(から) め手から攻略していくクチだろう? なにか特殊な手段があるのではないかと……」

僕をなんだと思ってるんだと言いたいところである。

「シルバーフェイスも泥臭いことをするのだな」

金稼ぎに幸運はあっても近道はしない。近道なんてするとろくなことにならない――それがヒカルの持論である。

ラヴィアが言語の習得、ポーラにはモンスター素材の販路がないかを調べてもらうことにした。コウはお勉強のラヴィアとともに留守番である。

(久しぶりだな、ひとりで森を歩くのは)

街の外に出たいと申し出るとドゥインクラーは「護衛をつけましょうね」とこちらの考えを探るような目で言ってきたが丁重にお断りしておいた。

外壁を通り抜けるにはいくつかある門を開いてもらうしかないが、朝と夕には遠征部隊が出発し、帰ってくるので開いているということだった。今回だけは通用門から特別に出してもらった。

街近辺の地図と、危険なモンスターの一覧を寄越されたがそもそも文字が読めないので口頭でざっと読み上げてもらい、頭に叩き込んだ。地図はもらっておいた。

(ずっと森だけど、踏み固められた道もある)

木漏れ日の下を歩いていくその道はしっかりしている。広さは乗用車が通れるほどで、遠征部隊の馬車が通るためのものらしい。

ドリームメイカーでは兵士の訓練がてら遠征部隊が森で狩りをしている。牧畜をやるほどの土地がないために肉を食べるならモンスターを狩らねばならない。果物についても同様のようだ。その他、木材に石材など必要な資材も街の外で調達している。

(日常的に狩りをしているから「魂の位階」が高いんだろうなー)

ヒカルが見てきたドリームメイカーの兵士たちはおしなべて「魂の位階」が高かったが住民についてはそんなことはなかった。兵士は、軍属であり、ハンターであり、生産者なのだろう。

ただもったいないのはドリームメイカーに「ギルドカード」「ソウルカード」は存在しないために彼らは「職業」の恩恵を得られないのだという。「職業」の効果は伝え聞いているもののどれほどのものなのかピンときていないようで、今のところ「ギルドカードが欲しい」といったような話は聞いていない。

(さて、それじゃ――始めますか)

すでに「隠密」は発動済みだ。

ヒカルは、視線の先――草を食んでいる鹿のような生き物を見つけていた。

ヤママネキのようなモンスターがこれから先出てくるのなら、「魂の位階」はどれだけ上げていても損はない。ヒカルの位階は44だ。ここの兵士は3桁もザラだと思うと、ポイントを上げやすいのかもしれない。

検証も含めつつ、ヒカルは狩りを開始した。

この日の夕方、帰り道に積まれていた動物の山を見て遠征部隊は度肝を抜かれることになる。