軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩りの成果

『なんだこの量は!?』

ドリームメイカーの門は朝夕と2回開かれる。市民も「一定以上の実力があれば」街の外へ出ることを許可されており、近辺で果物や動物を狩ったりしていた。

とはいえ街の背後にある大河を利用した漁業のほうが盛んであり――森に出るとモンスターにやられる可能性もあるのだから――獣の肉は魚に比べて高額なのは当然といえば当然だった。

『プリミーヴァルから来た仮面の男がこれをやったってのか?』

門番として詰めている兵士が遠征部隊にたずねる。部隊の兵士たちも困惑顔で、彼らが利用している荷馬車にはこんもりと獣が積まれている。

ふだんはこの荷馬車に数体の獣が載っているだけなのだが、パッと見で二桁は余裕だろう。

『あ、ああ……俺たちもおかしいとは思ったんだけどさ、でも獲物があるのは事実だ。獲物のそばにはあの男しかいなかった』

くいくいと遠征部隊が親指で指したのは、遠征部隊の荷馬車や積んでいる武器――携帯式火器等を興味深そうに眺めている、仮面の男だった。

『あんな小柄なヤツが……?』

『そうなんだよ……』

とそこへ、

『おーい、どうしたどうした。いつもならさっさと閉める門を開けっ放しってのは気が緩んでる証拠じゃねーの? そんなだからヤママネキが来ちゃうんだぜ』

街のほうからひとりの兵士がぶらぶらやってきた。だが彼らとは明らかに違う上等な鎧とマントを身に着けている。

『こ、これはジン様!』

門番と遠征部隊が敬礼する。

兵士の中にも序列があり、この態度からも明らかに後からやってきたこの男――ジンのほうが階級が上である。

『うおっ! なんだこの獣の山! お前ら遠征部隊ってこんなに強かったっけ? ――おいおい、スピットディアーもいるじゃねーか! こんなすばしっこいヤツよく仕留められたなー』

『それがジン様……どうも仕留めたのが遠征部隊ではないようで……』

『?』

門番が、先程の遠征部隊と同じようにくいくいと親指で仮面の男を指差す。

『…………あー』

ジンは言った。

『あいつなら、しゃーない』

『ご存知なのですか? あ、ジン様は西伐軍でいらっしゃいましたか』

『船でずっといっしょだったからな』

このジンこそ、ヒカルとともに釣りをしていた3人組の1人だった。

実のところヴィレオセアンに向かう部隊に選ばれたのは選りすぐりの兵士だけであり、ジン、ドラン、ズズンの3人はあれでもエリートなのだった。

ジンはヒカルのほうへと歩いていく。

「シルバーフェイス」

「ん。――ああ、ジンか。さっさと中に入りたいんだがまだ手続きは時間がかかるのか? いい加減日が暮れるぞ」

声をかけたはいいものの、ジンはヒカルたちの言葉を話せるわけではない。

『あー、その、なんだ……お前だけ先に中行ってろよ』

「ん? 入っていいのか」

『行け、行け』

「ああ、そこいらの獲物は値がつくかな? 売りたいんだけど」

ヒカルが親指と人差指でコインを示すと、

『金にしたいのか? それなりの金額になるぞ、これだと。あとでお前んとこいくわ』

「んー、あとで来てくれるってことかな。わかった。じゃあそれで」

ひらひらと手を振って去っていく後ろ姿を見送ると、ふー、とジンはひとつ息を吐いた。

『あれは何者なんですか』

遠征部隊に聞かれたジンは、

『わからねーよ。とにかくめちゃくちゃ強いってことだけがわかってる。いいか、絶対シルバーフェイスを怒らせるなよ? なり(・・) が小さいからナメてかかるバカが出てこないとも限らねーけど、そういうヤツがいたらお前らが注意するんだ。さもねーと……』

遠征部隊と門番に、戦艦を1隻沈められたこと、そしてヤママネキにトドメを刺したのがシルバーフェイスだということを伝える。

『ははっ! さすがにその話は盛り過ぎ……ですよね?』

『…………だったらよかったんだがなー』

『やはりそれほどの男でしたか』

疑い半分の門番とは別に、遠征部隊が遠い目をした。

『……積みきれなかった獲物が、まだ森に残ってるんですよね……』

『は、マジかよ!? あの荷車だけで相当なんだけど!?』

『夜になれば血のニオイを嗅ぎつけたモンスターに食われてしまいますよね……どうしたらいいでしょう……』

『どうってそりゃ………………ま、あきらめろ』

『いいのですか?』

『夜の森に入るな、ってのは鉄則だ。モンスターの強さが段違いになるからな。あきらめたぶんは、色つけてシルバーフェイスに金を渡すしかねーな』

上もまあ払ってくれるだろ、とジンはつぶやいてから、

『一応聞いとくけど、めぼしい獲物は全部押さえてあるよな?』

『はっ! もちろんであります!』

『よしよし。今夜は宴会だな!』

シルバーフェイスが面倒事を運んできたのは間違いないが、それでも食料が増えたことは喜ぶべきことだ。ジンは鼻歌を歌いながら街へと戻っていった。

ヒカルが宿――マンションの一室にしか見えないが一応、宿――に戻ると他のメンバーはみんなそろっていた。

この施設のいいところはマンションの機能をちゃんと備えているところで、水量も少なく温めだがシャワーも浴びることができる。逆にラヴィアやポーラは、シャワーをどう使って良いのかわからないようだった。

「ヒカル様、こちらが素材の買い取りをしているお店だそうです」

シャワーを浴びてさっぱりしたヒカルが出てくると、ポーラが植物紙に書かれたリストを見せてきた。植物紙もふつうに流通しているようで、鉛筆もまた簡単に手に入った。

日本人が中心になって作った文化だけはある。

ただ鉛筆は少々変わっていて、炭を木片で挟み、書いていく途中で炭が ちびて(・・・) くると芯を替えるような仕組みだった。

・皮革夢工房……動物の皮の買い取り。テナガムササビ、1メートルを超えるサイズの蛇は特に高額で買取。その他、毛皮のある動物ならなんでも。

・国民厨房「ザギン」……食用になる動植物全般。詳しくはお店まで。

・鉄鍋ドン……ホロリ鳥を捕獲したら絶対卸して欲しい。

・青果流通組合……食用果物。

「直接お店に卸せるものはそうしたほうが喜ばれるし、高く買ってくれるということでした。面倒であれば遠征部隊の所属している『調達部』という部署がまとめて買い上げるそうです」

「へぇー。1日ですぐにわかったんだ?」

「はい。ディーナさんに聞いたら調達部を紹介してくださって、そこで全部教えてもらいました」

食料調達の元締めに聞いたのだから手っ取り早くていい仕事をしたなとヒカルは思った。

この街は完全自給自足が成り立っているが、街の外で調達してくるぶんが過半を占めている。多くは川での漁業なのだが、肉を食うには狩るしかない。

市民が出ていって動物を簡単に狩れるものではない――ヒカルは今日出かけていって、そのことがよくわかった。

「ヒカルのほうはどうだったの?」

「うん。ここの兵士が精強である理由がよくわかったよ。まず動物は危機察知が敏感で容易に近寄らせてくれない。だから長距離の狙撃や足音を殺しての接近がどうしても必要になる」

「ヒカルみたいな『隠密』能力……ということかしら」

「いや、わりと物理的にがんばってる感じだね。忍び足の訓練をしたりして。ギルドカードの『職業』の恩恵もなしにやってるんだからたいしたものだよ。それに――動物の1つ1つのサイズが大きい」

見上げるほどに大きいイノシシなんてのもいた。一応倒したが、遠征部隊は持ち運べないようだった。

「好戦的なものは人間が群れてても突っ込んでくる。それを、森という足場の悪いところで連携しながら倒さなくちゃいけない。ただ倒すだけじゃなくて味が悪くならないようにもするんだから結構な熟練が必要だよね」

「それは……そうね」

「ふつうに戦ったらヴィレオセアンもポーンソニアも、どこも勝てないね。まあ、ふつうじゃなきゃ十分勝負になるんだけど」

「ふつうじゃ……ない?」

「魔法だよ」

「あっ」

ここの人たちは魔法が使えない。だから魔法を使えるぶんだけ、さらにはギルドカードの「職業」があるぶんだけヴィレオセアン海軍は有利のはずだった。

それを覆したのが「大砲」――ブラストキャノンではあるのだが、魔法と違って持ち運びが簡単ではないのが難点ではある。

遠征部隊が携帯式の火器を持っていたがあれがどれほどの火力なのかは不明だ。

「そんな危険なところでヒカルはケガをしなかったの……?」

「ああ、僕は大丈夫。『隠密』があれば結局のところ動物を狩るのはとてつもなく簡単だね。おまけに『投擲』まである」

「よかった」

ほっとした様子をラヴィアが見せた。

「あー……心配した?」

「初めて来る大陸ですもの」

「そうだよな……ごめん、早めに戻ってくればよかった」

「ほんとうですよ! ヒカル様がなかなか帰ってこないから、ラヴィアちゃんたら5分に1回は窓から外を見下ろしてたんですから」

「ちょ、ちょっとポーラっ」

真っ赤になったラヴィアを見てヒカルはほっこりした。

ちなみに今日の狩りでヒカルの「魂の位階」は1上がっている。ヤママネキを倒したときにも1上がっていたので、2ポイントの余裕がある。

(なんのスキルが必要になるかわからないから温存だなー)

とヒカルが考えていると、部屋の扉がノックされた。もちろん「魔力探知」でその人物の接近は察知済みである。

『おっすシルバーフェイス!』

鎧を脱いで、シャツにハーフパンツというだいぶラフな格好のジンがそこにはいた。

ヒカルに、革袋を放ってくる。キャッチするとじゃらりと音がした。早速換金してくれたようだ。

『飲みにいくぞー!』

「?」

『いいから行こうぜ。そっちのふたりもどうだ?』

「ヒカ――シルバーフェイス、たぶん食事のお誘い」

すでにラヴィアはそれくらいの言葉を学んだようである。ラヴィアの読書にかける意気込みがすごい。

「あー……まあ、行ってみようか?」

「ん」

「私は構いませんけど、コウちゃんはどうします?」

『行く行く!』

飛び出してきたコウを見て、ジンが小さく悲鳴を上げた。

「じゃ、みんなで行くか」

ドリームメイカーの夜の街に繰り出すことになった。