軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夢ある国の王

ワンルームマンションだ、とヒカルは思った。

ドリームメイカーの国——首都——町——? に到着した彼らを待っていたのは大歓声だった。軍艦の帰りを喜ぶ人々が、港に押し寄せていた。

土まみれではあったがグルゥセルが手を挙げて応えると、ますます大きな歓声が上がる。

まず、リュック=ランドンが護衛する回復魔法使いがドリームメイカーの王の下へと連れて行かれた。その間、ヒカルたちは休息を与えられ——もちろん監視付き——通された建物がマッチ箱のようにきっちりと間取りの切られたところであり、室内は必要最低限のものしかないワンルームマンションのようだった。

「ディーナ。ひとり1室である必要はない。むしろ分断されるほうが迷惑だ。3人で過ごせる部屋に変えてくれ」

次に連れて行かれたところは、

「……ファミリーマンションだ」

3LDKといった間取りの部屋で、バルコニーもついていた。4階の高さにあるというのに水道も完備している。屋上に貯水タンクがありそこから水を下ろしているのだとか。

「ようやく到着か……この間取りといい、栄一が持ち込んだのは間違いないよなあ」

すでに家具もそろっている部屋なので、ヒカルはイスに座って一息吐いた。

「ヒカル、ヒカル」

バルコニーに出ていたラヴィアがこっちこっちと手招きしている。

「どうした?」

「見たことのない町並み。こんなの、私たちのいた大陸のどこにもない」

バルコニーからはドリームメイカーの目抜き通りが見える。多くの人々が行き交うが、六つ足のロバのような生き物が台車を引いている。

家々は身を寄せ合うように隙間も少なく立っており、整然とした町並みだった。

「……ヒカルはあまり驚いてない?」

「ん、まあね。どことなく僕のいた国に似ているからかな」

実際の日本とはかけ離れてはいるが、ポーンソニアやヴィレオセアンといったヨーロッパ風の町並みのほうがずっと日本より遠い。なによりこういった、すっきりした集合住宅の多さは日本を思い起こさせた。

「ヒカルはここの王様と、お話ししたいんでしょう」

「んー、どうかなぁ。別に今の国王が転生者ってわけでもないしね。なにか書き残しでもあれば興味があるけど」

「回復するかしら?」

「……どうかな。ポーラの魔法でも駄目だったらいよいよもって絶望的だとは思うけど」

「ふふ」

なにがおかしいのか、ラヴィアは口元にそっと手を当てて笑う。

「ヒカル、ポーラを信用しているのね」

「まあ、秘密を明かした以上は多少は……」

するとラヴィアはヒカルにそっと身を寄せて、腕に手を添えた。

「わたしたち、思っていた以上にずっとうまくやっていけると思うの。それがうれしくて」

「僕ら3人が?」

「それにコウちゃんもね」

「ああ、ペット枠か」

「ひどい」

ラヴィアがくすくす笑った。

そのポーラは室内で、いそいそと荷物の片付けをしたりお茶を淹れたりコウにエサ——食事を与えたりしている。

コウはコウで『この大陸ほんと臭い』と顔をしかめっぱなしだった。顔をしかめると歯茎までにゅっと出るのでひどい凶悪面になっている。

「さて、と。休憩タイムかと思ったけどそうも行かないようだ」

ヒカルの眼下には大通りがあり、その道は国王の居住する宮殿まで続いている。

そちらから走ってくる5人ほどの兵士がいたのだ。

リュックの連れた回復魔法使いでは歯が立たず、シルバーフェイスたちにも来て欲しいとのことだった。

宮殿だけは他の建築様式とはまったく異なっていた。まず敷地には外壁がぐるりと張り巡らしてあり、壁面には建国の歴史が彫り込まれている。

次に敷地内には庭園があった。街路樹や芝生と言った類のものがまったくないドリームメイカーの中でも宮殿だけは別のようだ。

兵士が守る門を抜けて庭園を歩いていくと、

「これは確かに日本人だなぁ……」

うろこ状の黒いレンガが載せられた、木造住宅があった。

黒のレンガは瓦のつもりなのだろうが、微妙に形が違っている。栄一の記憶違いのせいかもしれないし、年月を経るにつれて変わったのかもしれない。

平屋造りなのだが見上げるほどに大きい。巨大な両開きの扉は寺の門のようですらある。中に入ると絨毯が敷かれてあり、土足で上がっていくようだ。

薄暗い宮殿内にはランプの明かりが灯っていた。

「こちらだ」

待ち受けていたグルゥセルがヒカルたちを先導していく。

途中、開け放たれた部屋には悄然とした回復魔法使いと彼を守るように立つリュックたちヴィレオセアンの騎士がいた。

リュックはシルバーフェイスに気がつくとこちらに来ようとしたが、他の兵士が止めている。ヒカルはリュックへと片手を挙げてみせた。気持ちとしては「まあ、待ってろ」といった程度なのだがリュックはやたらと神妙な顔でうなずいた。

「腕はいいのか」

不意にグルゥセルが口を開いた。

「腕?」

「あ……ヤママネキを撃っただろう。ケガをした、と聞いた」

「そのことか。もうすっかりいいよ。ウチの回復魔法使いは優秀だからな」

ヒカルが言うと、後ろを歩いていたポーラが「でへへへ」とくねくねしている。しゃきっとしなさいと言いたい。

「……助かった。ありがとう」

「急に礼か」

「ディーナがお前に、撃つを要求した、と聞いた」

だいぶうまくなったと思ったが、やはり言葉はたどたどしい。

「別にディーナがいなくとも撃ったさ。放っておけばこっちも危なかったし……それに、ヤママネキの急所らしきところが見えたから撃っただけで、運が良かっただけとも言える。あれを露出させたのはアンタたちだしな」

「それでも、借りは借りだ」

そんなことを言い出したらヒカルはすでに軍艦を1隻沈めているのだが、その辺はいいのだろうかと思ってしまう。あれはポーラを誘拐されたことへの報復だからヒカルとしても当然の行為ではあったが。

「ヤママネキはよく出るのか? というかブラストキャノンを街に配備してないのか? あの感じだと武力のほとんどが出払っていたってことだろ。1日到着が遅れてたらまずかったぞ」

「……それについては、言いたいことが多いが。だが今は、ドリアーチ様だ」

グルゥセルが立ち止まったのは、両開きの鉄扉の前だった。兵士2名がそこを守っている。

『グルゥセル、参りました。シルバーフェイスと回復魔法使い、その他1名を連れています』

こちらの言葉で彼が言うと、扉が開かれる。

明るい——ヒカルはまずそう思った。

天井には金箔で描かれた戦う人々がおり、そこに光が当てられている。

室内は巨大な絨毯が敷かれてあって、壁際には調度品が並んでいた。

そして中央に大きなベッドがあり——それを8人が取り囲んでいる。

(グルゥセルも入れて、9氏族の長たちというわけか)

案の定ドゥインクラーもそこにいて、ヒカルにかすかにうなずいて見せた。ただ船上で見せたような気安い様子はまったくなく、威厳あふれるたたずまいだった。

「ああ……遠いところ、わざ、わざ、済まない……ゴホッ」

『王様! 口を開かれませんよう!』

『どうぞお楽に!』

ベッドに寝そべっていたのが、現国王なのだろう。

ドリアーチは、ヒカルと同じ黒い髪をしていた。