軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヤママネキの襲来

緑色の巨人だった。

森林が立ち上がり人型となったかのような見た目をしていた。

高さは5階建てのビルほどもあるだろうか。

『ヴォオオオオオオオ!!』

口が大きく開くと咆吼を発する。ヒカルの乗った軍艦から巨人までの距離は1キロメートルほどはあるというのにその音圧にマントがはためき、川は波立ち、軍艦が揺れる。

「——化け物め……」

思わず笑ってしまった。

1キロメートルの距離に入ったので、ヒカルは「魔力探知」であのモンスターを確認できる。

そこにそびえているのは、実際の姿よりも膨れ上がった魔力の塊だった。

(——ん?「魔力の塊」? 先住民族であるグルゥセルたちは魔力がまったくないのに……ふーむ。まあ、考えるのはあとだね)

ドゥインクラーの姿は見えないからおそらくブリッジで指示を出しているのだろう。伝声管を伝ってあちこちから声が聞こえ、非常事態を知らせる鐘がカーンカーンと高い音を立てる。

兵士たちが走り回り、わめいている。戦闘準備に移っているのだろう。その間を縫ってディーナが走ってきた。

「シルバーフェイス様、ここは危険です。客室にお戻りください」

「客室だって安全じゃないさ。それより——アイツはなんだ?」

「……ヤママネキ、と我らは呼んでいます。こんなところに出るべきモンスターではないのですが」

そのヤママネキは街の外縁に張り巡らされている土壁にかぶりついている。ちょうどヤママネキの肩くらいの高さで、厚さは5メートル以上ある。

ヤママネキは緑の腕を振り上げると、壁に叩きつけた。壁から土が飛び散る。これならば時間を稼げそうではあるが、逆に言うと時間が経つと土壁も崩される。

ヒカルは街を見やる。まず気がついたのはポーンソニアやヴィレオセアンの町並みとはまったく違う、ということだ。碁盤目に整理された町並みで家々の形も似通っている。明るい灰色の壁と、広い屋根が特徴的だった。

街には水路が走っており、大河から水を引き、また大河に注ぎ込むようになっている。

土壁と街の外縁までは100メートルほどの空間があり、そこにわらわらと兵士たちが出撃していくのが見えた。

(有効な攻撃手段はあるのか?)

大砲を持っているような科学レベルだから期待が持てる——と思ったが、

「え?」

出てきたのは、投石器だった。

巨大なスプーンに岩石を載せているような代物である。

投石器がしなって一抱えもあるほどの岩石がヤママネキに放り込まれる。岩石はヤママネキの頭の部分に当たる——が、

「効いてないな」

パッ、と緑が散ったように見えたがそれだけで、ヤママネキはきょとんとしたようなフリのあと、またも咆吼を放つ。すると展開していた兵士たちは後方に吹き飛ばされた。

街でも人々が避難を始めている。

これはマズイんじゃないのか——とヒカルが思っていると、先頭をゆく軍艦が街の外縁に近づきつつあった。

そこから大砲——ブラストキャノンが放たれる。

ドン、ドドン、と腹に響くような音とともに爆発の魔道具でもある鉄球がヤママネキに飛来する。

10発ほど放たれた鉄球のうち、ヤママネキに当たったのは3発がいいところだ。他は土壁にぶつかり、あるいは地面に落ち、あるいは森林に飛び込んでいった。

「おお」

ヤママネキの左肩に着弾したものは直撃だった。さきほどよりも多くの緑が散る——まるで血しぶきのように。

緑の向こうに現れたのは黒い肌——おそらく土であり、そこにみっしりと真っ赤な線が走っている。

血管のようだとヒカルは思った。

「……あれがなんだかわかるか?」

隣のラヴィアにヒカルは小声で聞く。

「見たこともないモンスターね。あのおどろおどろしい赤さが……」

ラヴィアはぶるっと身体を震わせた。

軍艦の砲撃は有効だとわかったが、一方で不都合もある。狙いが定まらないのだ。そのせいで土壁を削ってしまい、ヤママネキの通り道を作ってしまう。

ヤママネキは街と軍艦とを見比べて、軍艦を襲うことに決めたようだ。大地を踏みしめてこちらへ向かってくる。

すると乗船している兵士たちは悲鳴にも似た声を上げた。

(それにしてもどうしてこんなに混乱しているんだ? あのレベルのモンスターとなるとレアなのか? 軍艦にブラストキャノンを積んでいるのに街にはないのか?)

わからないことが多い。

「シ、シルバーフェイス様、あれをどうにかできませんか?」

青い顔でディーナが聞いてくる。彼女の反応を見るに、ヤママネキの襲来は想定外の出来事、ということだろう。

どうやってアレを倒すのか?

ディーナが言っているのは、ヒカルが軍艦を沈めるときに使ったリヴォルヴァーだろうとはすぐにわかった。

(だけどなぁ……)

ヒカルの武器だとあまりに分が悪い。「暗殺」は近距離武器で発動するがヤママネキに近寄るのも大変だ。 爆火光線(フレイムレーザー) ならば届くし「狙撃」も発動するが、あの巨体の一箇所を焼いたところで焼け石に水だろう。船を沈められたのは、動力源の場所がはっきりとわかっていたからだし、沈めたのはオマケのようなもので船を沈黙させることしか考えていなかった。

(やるなら限りなく近寄って 業火の恩恵(フレイムゴスペル) を何発も撃ち込むしかないかな。でもそれで倒せる保証もない……)

そこまで考えたところで、

「ブラストキャノンが正解なんじゃないか? グルゥセルもそれを理解しているから撃ち込んでいるんだろう」

「それはそうなのですが……」

ヤママネキが街に向かっていないことは兵士たちにとっては幸運だ。先頭の軍艦が離脱し、次から次へと軍艦が進んでいって砲撃を打ち込んでいく。

多くの砲撃は外れていったが、着弾するものも増えていく。緑が散り、黒い肌と赤い線が露出していく。

『ヴォオオオオ!!』

だがヤママネキも負けていない。咆吼でもって反撃してくる。砲撃を行っていた軍艦が傾いて甲板にいた兵士の多くが運河へと放り込まれる。

『うろたえるなッ!!』

拡声器の魔道具が声を伝えてくる。司令官であるグルゥセルの声だ。

『確実にブラストキャノンは効いている。砲弾を使い切るつもりで撃ち込め!! 我らがドリームメイカーを守るのだ!!』

ヒカルには彼の言葉がわからない。だが兵士たちはグルゥセルの言葉に奮起し、ブラストキャノンの準備を始める。

『ヴォオオオオオオオオオオ!!』

さらに多くの砲弾が撃ち込まれるが、ヒカルたちの軍艦は最後尾に近かったために動けない。こちらから撃つと、外した弾丸が街へと飛び込む可能性があるのだ。

ヤママネキはしかし軍艦へ向けて進んでいく。大河までの距離は100メートルを切っている。身体の緑は半分ほどが消えており、顔も片眼がえぐれている——眼、といってもなにもない窪みがあるきりだったが。

『主砲、行けェッ!!』

現在、ヤママネキと相対しているのはグルゥセルの船だ。そこからひときわ大きな鉄球が射出され、ヤママネキの腹にめり込むと爆発が起きる。

ワァッ、と歓声が上がる。

ヤママネキが前のめりになった——倒した、と兵士たちは思ったのだろう。

「違う……まずいぞ!」

ヤママネキは倒れようとしているのではないとヒカルは気がついた。

前のめりに、 走ろう(・・・) としているのだ。

片足が地面を踏み、ぐぐいと巨体を前へと押し出す。そして次の足——。

『待避せよ!!』

グルゥセルが叫んだが、遅い。

「シルバーフェイス様! あそこにはグルゥセル様が!!」

ディーナが叫ぶが、ヒカルは違うところを見ていた。

( あれ(・・) は——なんだ?)

ヤママネキに接近していた軍艦は岸から30メートルほどの距離だ。ヤママネキならば10歩で届く。

兵士たちの顔が恐怖に歪む。

(青い コア(・・) がある)

主砲が当たったおかげで緑が剥がされ、露出していた、みぞおち部分の青色の光。

「魔力探知」で確認してみると、確かにその部分だけ魔力密度が濃いようだ。

(迷っている時間はない)

ヒカルはすでに 全能の筒(リヴォルヴァー) を引き抜き、構えていた。

弾丸は 爆火光線(フレイムレーザー) だ。撃つべきものがわかっているのなら、これに限る。

ヤママネキが川の水を蹴立てて走る。

巨体の影が軍艦を覆う。

「いやああああああっ!!」

ディーナが悲痛に叫ぶ。

ガァンッ——。

一筋の朱色の閃光がほとばしり、ヤママネキのみぞおちを真横から貫いていく。

青色のコア、そのちょうどど真ん中を撃ち抜いた。

「くっ」

反動でヒカルは背後に吹っ飛んでいく。甲板の上をごろごろごろんと転がっていく。

『!?』

ヤママネキは一瞬硬直したようだった。

だがその直後、指先からこぼれるように黒土が滴り、空中に拡散していく——。

「ウワアアアアア!?」

司令船にいた兵士たちの叫び声が上がる。

ヤママネキの身体は崩壊したが、膨大な量の黒土、そして葉に枝が降り注いできたからだ。

だが司令船は倒れることなくぎりぎり持ちこたえた。

土が大河に落ちて波紋を広げ、他の軍艦を揺らしていく——。

後には静けさだけが残った。