軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国王のルーツ

「まず立場を確認したい。アンタがドリームメイカーでどんな地位にいるのかだ」

ヒカルはそう切り出した。なにを話すにしてもドゥインクラーの目的——魂胆を把握しておきたいからだ。「お互い情報交換をして仲良くなりましょうね〜」なんて言われて「はいそうですね」と信じられるほどヒカルもウブではない。

「私、ドリームメイカーにある有力……家族? のうちのひとつ。その長」

ドゥインクラーが語るところによると、ドリームメイカーには国王を補佐する9つの氏族があるらしい。軍務、農政、建築等々をそれら氏族が仕切っている。

日本で言うなら「大臣」をやる「家」が決まっているようなものかもしれない。

そんなことが許されているのはドリームメイカーが1万人程度の国家だからだろう。ドリームメイカーは徹底的な村社会であり、お互いに助け合って生きてきたのだ。

ドゥインクラーは「治安」と「経済」を司る家の長だった。

(警察庁長官と財務大臣を兼任しているとか、どんなスーパーパワーだよ)

だが西伐軍はグルゥセル——「武力」を司る彼の配下にあるため、ドゥインクラーにどうこうできるのは軍艦1隻程度だ。

「グルゥセルとは馬が合わないようだな」

「はい。私の命も、部下の命も、すべて国王様のため」

「なぜそこで国王の話が出てくる?」

「国王様の病気を治す。その方法でグルゥセルと私、ケンカする。グルゥセルはみんな大事。みんなを大事」

回復魔法使い確保のためには犠牲をいとわないドゥインクラーと、最小の犠牲にしたいと考えるグルゥセル、というわけだ。

回復魔法の使う先が国王だとこれで判明した。

「……ずいぶん簡単に言うんだな。『誰』を治療するのかを」

「どうせ向こうに着けばすぐにわかること。グルゥセルは秘密主義。とてもよくない」

「アンタは、なんでもオープンにするから代わりに情報を寄越せと言いたいわけだな? そのほうが利益になるから」

パン、とドゥインクラーは手を叩いた。

「そのとおり! あなた、頭がいい。私、頭がいい、好き」

うれしそうにニコニコする小太りのオッサン。ヒカルはお茶をすすりながら考えている——気を許すな、と。

(こいつらは、確かに盲目的に国王のために生きている。だからこうしてフレンドリーに接していても国王のためだと思えばすぐに裏切るだろう)

ディーナのように。

「それで、国王様治せますか?」

よほど聞きたかった質問なのだろう、身を乗り出している。

「回復魔法にもできることとできないことがある。国王はどんな状態なんだ?」

「とても悪い。ずっと寝ている。起き上がれず、食事ができない」

「…………」

重体だ。こんなふうにのんびり船で向かっている場合ではなさそうだ。

人間、生きる上で食事はとてつもなく重要だ。これが食べられないとなると——点滴などもないだろうからどんどん痩せ細っていくだろう。

「毒の可能性は?」

「ない。と言いたいところだけど、わからない」

「魔法の類は?」

ドゥインクラーは首を横に振った。愚問だった。彼らは精霊魔法を一切使えないのだから魔法を疑っても意味はないだろう。

「質問を変える。モンスターは魔法を使うか?」

「モンスターが? 使わない。魔道具以外の魔法、私見たことない」

「魔道具はある、魔術はあるんだよな……」

「それで、治せるか?」

「……回復魔法を使ってみるしかないだろう。原因が特定できていればいいんだけどな、医者もわからないと言っているなら仕方ない。あらかじめ言っておくが、回復魔法はウイルス性の疾患にたいしては効き目が薄い」

「ウイルス? なに?」

「あー……そうだな、ちょっと説明が難しいけど、いわゆる病気だ」

「国王様、病気。医者はみんなそう言った」

「そうか……」

「……治せないのか?」

今にも泣きそうな顔になり、明らかに失望していた。だが向こうに着いて「病気には効かないけどいいか?」と言うより先に言っておいたほうがいいだろう。

「症状の緩和くらいが関の山かもしれない。——連れていく気が失せたか?」

「……それでも、連れていく。もう他に手がない」

ドゥインクラーには悲壮感が漂っていた。

(ていうか、向こうに着くまでに亡くなっていたら元も子もないよな。それに……この態度は「忠誠心」という言葉で片づけるには行きすぎてる気がする)

子分を引き連れ、荒事も辞さないような男だったはずだ、ドゥインクラーは。ヒカルは彼の手下がディーナを脅しているところを見ている。

そんな彼が子どものように泣きそうな顔になっている。

「どうしてそこまで国王が重要なんだ? アンタみたいなヤツは多いのか、ドリームメイカーには?」

「シルバーフェイスは自分の国の王様に忠誠を誓わないのか?」

誓わない。というかそもそも所属している国がない。

日本にいたころを思い返しても誰かに忠誠を誓うとか、命をかけるといったようなことはなかったし、それがふつうだった。

「一般的には忠誠を誓うような人間もいるが、アンタたちは度が過ぎている」

「そう、か。そうかもしれない。私たち、グランドリーム大陸で生きる。国王様とても大事」

「……たったひとりに頼っているのか?」

「国王様ひとりではない。でも国王様がいちばんご存じ。ドリームメイカーが栄えるきっかけになった先々代の国王様のことを」

そしてドゥインクラーは言った。

「エイーチ様のことを」

客室に戻ったヒカルは、すでに戻っていたラヴィアやポーラと合流した。ディーナはいないのでコウも出てきてのんびりしている。

「どうだった?」

ヒカルがドゥインクラーとどんな話をしてきたのか興味津々という顔でラヴィアが聞いてくる。

「……驚かされたよ」

仮面とフード付きマントを外し、ヒカルはイスに腰を下ろすと長々と口からため息が出た。

「まさかここで、 日本人(・・・) が出てくるとはね……」

ドゥインクラーがたどたどしい言葉で教えてくれたのは、こうだ。

エイーチ——栄一という男はグランドリーム大陸で 拾われた(・・・・) 、黒髪黒目の男だった。

最初、言葉が通じなかったが数年するとふつうに話せるようになり、すでに30代も後半だった彼はなにかに取り憑かれたように研究に没頭した。

その研究成果はドリームメイカーの生活を豊かにし、死亡率を大幅に減らした。

ヒカルが推測するに、栄一という男は教師だ。知識の幅が浅く広い。特化して掘り下げてはいないが、生活に役立つ科学と発明品をドリームメイカーにもたらした。

まず大砲などの火器、それに軍艦などの基礎知識。これらはモンスターとの戦いに大いに役立った。火薬の材料となる硝石や硫黄が街の近くで採取できたことも大きい。

次に衛生と栄養の概念だ。もともと種族的に頑強ではあったグランドリーム大陸の先住民だが、食生活は劣悪だった。

水の煮沸消毒や井戸の整備、バランスのよい食事を啓蒙していく。特に、娯楽がすくなかった彼らは酒をよく造って飲んでいたが、これがよくなかった。ヒカルの推測だが肝機能が弱かったようで、すぐ酔うらしい。事実、ドゥインクラーも「酒は1杯で気持ちよくなれるからいい」と言っていた。

また海が近く塩はやたら採れたために味の濃い食事が好まれていた。健康にいいわけがない。

また、カードゲームやボードゲームを造り出し、娯楽を提供した。

法律を整備して規律の大事さを9氏族の長に説いた。

反発も多かったが彼のもたらした知識が、発明品が、受け入れられていくと反発などしている場合ではなくなっていく。

そして栄一はついに9氏族から国王に推され、ドリームメイカー初の王座に就いた——とはいえ贅沢はせず死ぬまで質素な暮らしをしたというが。

「まさか異世界転生の王道、内政モノをやってる人がいたとはね……」

「内政モノ?」

「ああ、いや。その言葉は忘れて」

栄一は50手前で結婚してひとりだけ子どもができ、それが現国王の父だ。

多くの発明をしたがそれでも時間が足りず、彼は多くの「アイディア」を遺した。死の直前、病床にあっても配下にアイディアを話し、書き留めさせたという——。

——いつか、この内容を理解できる者が現れるから。

と言って。

実のところ「光学迷彩」についても栄一のアイディアノートにあったようで、現国王が実現にまでこぎ着けたらしい。ただ栄一はあくまでも「科学」がベースにあったが、現国王は魔道具として開発した。

ちなみに現国王の名前はドリアーチ。「栄一」が「エイーチ」と発音されている時点で誤読の予感があったが「ーチ」という発音の名前を国王一族は引き継いでいくことになっているらしい。

その残念な間違いを訂正すべきか迷ったが、ヒカルが口を出せばそれはすなわちヒカルも「栄一とおなじ転生者」であると向こうに報せるようなものだから言わないでおいた。

「つまりヒカルと同じ日本の人が、向こうでは救世主扱いになってるのね……」

「そういうこと。で、孫であるドリアーチは栄一の発明できなかったものをいくつか作り出すことに成功していて、国民の間でめちゃくちゃ人気がある、と。彼はきっと栄一と同じくらいのものをもたらしてくれると信じているんだろうな……まだ30代と若いみたいだし」

「その、ドリアーチ様の身体がお悪いんですよね? どんな状態なんでしょうか? 傷ですか?」

「残念ながらポーラ、病気だ」

「あうぅ……」

ポーラがしょんぼりする。彼女としてはここまで話を聞いた時点で「できることなら助けてあげたい」と思っていたのだろう。

(一応、敵になるかもしれない相手だし、しかもポーラを攫ったりした相手なんだけどなー。ま、それがポーラのいいところか)

救える命があれば救いたい。そう思ってしまうのは間違いなくポーラのいいところだとヒカルは思う。

それが甘いと言われるならそれでいい。

甘さのせいで招くトラブルを、解決するのはヒカルの仕事だ。