軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィル=ツェントラの「お忍び」観光(文字通りの意味で)

「え? え? え?」

手をつかまれて歩き出したことにディーナはついていけなかったが、「触れている相手の姿を消す魔道具がある」というヒカルの説明で「そういうものなのだろうか……」という顔をしていた。

確かに、気をつけないと対向から歩いてくる人とすぐにぶつかりそうになる。だから自分が「見えていない」ことにディーナはイヤでも気づかされた。

「こ、これが……軍艦に忍び込んだときに使った魔道具ですか」

「まあ、そんなものかな」

「…………」

するとディーナはちょっと考えてから、

「……なるほど、精霊魔法の一種ですね」

「違うけど」

「えっ!?」

違うの? と真面目に驚いたような顔だ。ヒカルはウソを吐いているわけではもちろんなく、ただの「集団遮断」である。「集団遮断」の使い手はあの軍艦にはいなかったどころか「隠密」の使い手すらほとんどいなかったが。光学迷彩なんかの技術があるせいで、「隠密」技術が伸びていないのかもしれない。

(ふぅーん……)

勘が外れたことで動揺しているディーナをヒカルは観察する。

「え、えーっと、それでなぜ観光などをするのでしょうか」

「せっかくこっちの大陸に来たんだからいろいろ見てみたいんじゃないのか」

「それは……確かに」

「手をつないでいれば——まあ身体のどこかに触れていればいいだけだが、それで一応姿を隠すことができる。とりあえず街を歩いてみよう」

ヒカルはディーナを連れてヴィル=ツェントラの街を歩いた。

港町であり海路を使った交易が盛んな街でもある。だから活気があふれていた。

見るものすべてが珍しいのだろう、ディーナは人にぶつかりそうになるたびにヒカルに手を引かれていた。

積まれた樽も、家々の外壁も、通りに出された看板も、客引きで声を張り上げる店員も、魚を焼く美味しそうなニオイも、なにもかも。

同じなのは潮の香りくらいかもしれない。

「す、すみません」

手を引かれること数度、さすがに悪いと思ったのかディーナがヒカルに謝る。

「構わない。それより疲れていないか? もう1時間くらい歩いたが」

「そうですね、言われてみると」

ヒカルは個室のあるレストランへと向かった。裏通りにある店で、ヒカルの見た目が怪しくとも金さえ払えば通してくれる——そんな場所だ。

ちなみにこの店についてはカグライの部下から情報を仕入れていた。

「腹は空いていないか? ここは魚介のスープが絶品らしい。おれも食べるから君も食べたらいい」

「そ、そうですか? でもお金は……」

「気にする必要はないさ。必要経費としてお偉いさんに請求してやろう」

ヒカルが冗談めかして言うとディーナもくすりと笑った。

(お、ちょっと気が緩んできたな。しかしこのやり方は……ストックホルム症候群みたいで罪悪感があるな)

誘拐犯に優しくされてしまい、誘拐された側が同情的になってしまうというあの感覚である。

ヒカルの罪悪感も今さらなにを言っているのかという感じではあるのだが。

朝が早かったために小腹が空いていたヒカルだったが、甲殻類をしっかりと煮込んだスープは確かに美味しく、満足して店を出た。

それからディーナを連れて冒険者ギルドや役所、港や造船所を回っていく。

「この街灯もすべて魔道具だ」

「へぇ……」

魔道具に関しては食いつきがよく、たいしたことのないものでも食い入るように見ている。

「こんなにいっぱいあるんですね……」

ぼそりとつぶやいた一言を、ヒカルは、なんでもないふうを装って答える。

「この辺のものは技術的にもたいしたことがないし、使う素材も精霊魔法石が少量でいい。いわゆるクズ石だ」

「精霊魔法石がそんなに多く採れるんですか」

「ああ。いちばん多いのはダンジョンから産出するものだな」

「ダンジョンから精霊魔法石が!?」

あまりに驚いたようにあんぐりと口を開ける。

「あっ」

自分が余計なことを口走ったと気がついたらしくディーナは口を閉じるが、ヒカルはそれには気づかないフリをした。

「ああ、あそこにホットドッグが出ているな。食べてみるか?」

「——えっ!? あ、ホットドッグ……パンにソーセージを挟んだ、軽食ですか……?」

「『ポーンドホットドッグ』はなかなか有名でね。ソースがまたいい」

その間だけ「隠密」を解除したヒカルは、自分が出資しているチェーンのホットドッグを購入する。

ハーフサイズというものがあり、1本を半分に切るようだ。

激辛も当然あったがもちろんスルーである。ケチャップとマスタードのスタンダードなものとサルサソースを選んだ。

「ほら」

「あ、ありがとうございます……んっ、これは確かに美味しいですね」

スタンダードを食べたディーナは喜んでいる。ヒカルもサルサソースのものを食べたが、

「……ソーセージが2級品だな」

「え? そ、そうですか? 十分美味しいと思いますけど」

ディーナは不思議そうな顔をする。

「ソーセージの文化は同じくあるようで安心した」

「確かに、そうですね! 入っているお肉は違いますけど」

ヒカルは考える。

(……グランドリーム大陸では畜産が発達していない可能性があるな)

少しずつ、情報のピースを集めていく。

それからまた時間をかけて街を回ったが、ディーナが疲れを見せたので昼過ぎには観光を切り上げることにした。

「今日はもう戻ろうか。——なにか見たいところでもあればリクエストには応えるが」

「…………」

木陰のベンチに座ったディーナは悩ましそうな顔をしていたが、

「……ひとつ、見てみたいものがあります」

意を決したように言った。

「魔法を見たいです」

ディーナが興味を示していたのは「魔道具」であり「魔法」。

そして滅びの大陸の人間は一様に「魔力」がない。

この2つに関連性は、きっとある。

「——いいぞ」

だがヒカルはその辺もまた 気づかない(・・・・・) フリをしてディーナの申し出を受けた。

ヒカルの魔法の心当たりと言えば——。

「あるときは悪を討ち」

「あるときは謎を残し」

「またあるときは人に恨まれ」

「またあるときは傍若無人に振る舞う」

「闇夜とともに行動し、仮面越しに真理を見抜く——」

「我らこそ!」

ばっ、と両腕を広げたラヴィアとポーラがそれぞれ杖を構えた。

「「 白銀の貌(シルバーフェイス) !」」

ディーナが目を見開き、ヒカルへとすーっと顔を向ける。ヒカルはぱちぱちぱちと手を叩いた。

あ、結局やるんだこれ、と思ったがやり始めてしまった以上止めることはできない。

「……あの、シルバーフェイスさんは3人いたんですか」

「3人だけとは限らないが」

呼び出したラヴィアとポーラは、新たに手に入れた仮面とローブを身にまとってやってきた。

それはもうウキウキである。ラヴィアが。仮面を実用として使うチャンスを心待ちにしていたらしい。

あれからポーズの練習もしていたのか妙にそろっている。ポーラは羞恥心を乗り越えたようではあったが仮面からはみ出た顔は赤かった。

昨晩、ディーナをカグライに一晩預け、ヒカルはラヴィアたちのところへ戻って寝た。その際にディーナについて話をしておいた。

「それじゃ、魔法を見せよう」

ヒカルたちがやってきたのは街の郊外だった。馬車で1時間ほど揺られないと到着しないが街中で魔法をぶっ放すわけにもいかないので仕方ない。

「『我が呼び声に応えよ精霊。原初の明かりたる焔もて、焼き尽くせ』」

ラヴィアが、離れた場所にある枯れ木に向かって火魔法「ファイアブレス」の詠唱をする。魔法陣が中空に現れるとディーナが目を剥いて、そこから火が飛び出していくと口を開き、炎が枯れ木を焼き尽くすと「あららららら」と声を漏らした。

(あー、これはやはりアレだな。滅びの大陸には精霊魔法が 存在しない(・・・・・) んだ)

ラヴィアの火魔法は高レベルではあるので威力に驚くのは理解できるが、魔法陣の出現から驚かれてはそうとしか考えられない。

「————」

「満足してもらえたかな?」

「ッ!? え、ええ……なかなかのものですね」

「あれは初級魔法だけどな」

「!?」

ますますぎょっとした顔をするディーナ。

「グランドリーム大陸には精霊魔法がない。だから魔術を軸にした科学が発展したんだ。違うか?」

「…………」

「今回の君たちの目的は、魔法に関するなにか。魔法の知見を得ること——」

「…………」

「——魔法使いを連れて帰ること」

「っ!」

「ふむ、そっちか。連れていってなにをさせるつもりだ?」

「……私からは今はなにも言えません」

「そう、ゴルジアに言われたんだな?」

「…………」

貝のように押し黙るディーナに、ヒカルは薄く笑って見せた。

「では他の魔法もお見せしよう」