軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カグライの先読み

深夜、カグライの部屋に来客があった。本来ならばこの時間帯の来客などあるはずもないが、今が非常事態であるということと、その来客が「どうしてもイヤだというなら勝手に寝室に入るけどそれでもいい?」と聞いてきたので仕方なく小間使いは客を通した—— 白銀の貌(シルバーフェイス) と、もうひとりの黒のローブである。

「ずいぶんな時間に来たものであるな」

寝間着に着替えていたカグライではあったが特になんの感情も見せずにヒカルを招じ入れた。寝室の隣にある応接室は明るく、急いで用意されたのであろうティーセットが湯気を立てている。

「まあ、急ぎだったからな」

「? そちらの者は?」

「人払いが先だ」

「ふむ……お前たち、下がれ」

カグライは言ったが、小間使いはともかく護衛騎士たちは顔色を変えた。

「陛下。どんな事情があったとしてもこのような時刻の来客に護衛を外すことはあり得ません。どうしてもとおっしゃるなら今ここで私を殺してください」

いちばんの腕利きが剣呑な光を目に灯してヒカルを見据える。ヒカルは小さくため息をついて、

「……時間がない。1人なら残ってもいいしカグライの横に立っていてもいい。ただしここで話されること、見ることは他言無用だ。もし漏れると戦局に差し障りがある。できるか?」

「当然だ。それほどの大口を叩くのであればよほどの用件なのであろうな」

「それこそ、当然だ。おれだってヒマじゃない。こんな時間の訪問なんてやりたくはなかった」

最初の訪問も夜中だったし、先日の訪問も夜中だったが? という顔でカグライがこちらを見てきたがヒカルは黙殺した。

結局、護衛騎士がひとりだけ残り、カグライの背後に立った。いつでも応戦できるようにとご丁寧に右手は剣の柄にかけられている。

「それで、何用じゃ」

問われ、ヒカルは小さくうなずいた。そして隣に立つ黒ローブのフードを取った。

「! その者は——」

「!?」

カグライと護衛騎士が驚きに固まる。それもそのはず、そこにいたのは銀髪に紫色の肌を持った滅びの大陸の人間だったからだ。

「ディーナ、所属の紹介を」

「……はい。私はディーナと申します。グランドリーム大陸から来た海軍総司令官の直属書記官として働いております」

カグライは、このときばかりは額に手を当てて天を仰いだ。

それから数秒して顔を戻したときには平静に戻っていた。

「——停戦交渉じゃな? その地ならしと見た」

その一言に、今度はディーナが驚きに口を開く。

「ど、どうしてそれを……」

「まずひとつは、それ以外に用件が考えられぬ。戦うのであれば交渉や潜入は必要ない。もうひとつはそなたが非戦闘員だからじゃな。シルバーフェイスが連れてきている以上、 船から直接(・・・・・) 来たのであろ。間違えて工作員を連れてくるほどシルバーフェイスは愚かではない」

そいつはどうも、と褒められたヒカルは肩をすくめて見せる。

「愚かではないが少々非常識ではある」

「…………」

褒められてはいなかったようだ。

「両方の語学に堪能で総司令官殿の腹心であれば、停戦の落としどころもある程度わかっていると判断できる」

「ふ、腹心というほどでは……」

ここで謙遜することはマイナスでしかないのだが、これまで交渉ごとには無関係だったのだろう、ディーナは思わず本音を口にしてしまう。

「となれば、そなたらの停戦条件を聞こうではないか。侵略の目的もな」

「——その前に」

ディーナはきっとした表情を作る。

「私がここにいることを総司令官は知りません。ですので、こちらに来ているゴルジアに一度会わせてください。彼なら船に連絡が取れます。話はそれからとさせてください」

「…………」

カグライがちらりとヒカルを見る。言わんとしていることは2つだろう。

1つは「船に連絡が取れる」なんらかの手段を彼らが持っている。それがなにか知っているか? という問い——ヒカルは知らない。

もう1つは「どうして総司令官が知らない? お前、どうやって彼女をここに連れてきた?」という問い——ヒカルは答える気もない。

なので首を横に振った。2回。

「……事情はわかった。ではゴルジア殿に引き合わせよう」

なんらかの面倒事もいっしょについてきたな……という予感とともに、カグライは言った。

「…………」

「…………」

そうしてまたヒカルへと視線を向ける。ここにもいくつかの意味が含まれていたが、ヒカルはうなずいて答えた。

それについては(・・・・・・・) 肯定だ。

翌日、ヴィレオセアン総首領パトリシア=ジルベルスタインの屋敷には早朝からクインブランド皇国の馬車があった。

馬車の扉は閉じられており中に誰がいるのかはわからない。

そこへやってきたのはヴィレオセアン海軍が所有する馬車だ。6人の衛兵を引き連れたリュック=ランドンが先導する。

「? なぜこのような朝からクインブランドの馬車が……?」

リュックが先導する馬車にいるのは滅びの大陸から来た使者、ゴルジアが乗っている。人目に触れないよう早い時間に来ることにしたのは、無用の混乱を避けるためだ。

そのときクインブランドの馬車の扉が開き、中からシルバーフェイスが現れた。彼が小さくうなずいてみせたので、リュックも目礼だけする。

(なんらかの任務か?)

そうは思うものの得体の知れない男だ、シルバーフェイスは。リュックはその前を素通りしようとして——、

『ゴルジアさん、聞こえますか! 書記官のディーナです!』

クインブランドの馬車から出てきたもうひとりに目が釘付けとなった。

銀髪に紫色の肌——ゴルジアと同じ滅びの大陸の人間だ。

『!? どういうことだ!?』

リュックが止めるのも間に合わず、ゴルジアは馬車の扉を開けて外へと出てきてしまった。ふたりが、屋敷の前で顔を合わせてしまう。

『手短に話します。実は昨晩私もこちらに来ることになりました。それで取りいそぎゴルジアさんに、グルゥセル司令官に伝えていただきたいことが——』

早口でまくし立てるディーナと、いまだ混乱している様子のゴルジア。

そして、

「なんのつもりだ、シルバーフェイス!!」

リュックがそちらに駈けつけるのを、ヒカルが遮る。

「見ての通り、感動の再会さ」

「見てわかるか! 説明しろ!」

「彼女はディーナ、書記官だ。そしてゴルジア殿に用があるというからこうして引き合わせた。さもないと今日ゴルジア殿は1日交渉で拘束されるだろ?」

「ふざけるな! 事前の通達もなく、正式な使者を足止めするなどあってはならないことだぞ!? 大体そちらの女性はどこから来たのだ!」

「沖の軍艦から」

「なにぃ!?」

言い合いしている間にも、ディーナはゴルジアに自分が無事であることと身内で争わないようにという伝言を依頼する。

さらにはどうやって自分がここに連れてこられたかも伝えつつ、

『一応、「司令官の目的を話す」と言って時間を稼いでいるんですが、私の口から言うべきかどうか迷っています』

『おいおいおいおい、そんなことは言わねぇほうがいい。あとでお前が処罰されるぞ』

『でもこのままでは王の容態が手遅れになります! プリミーヴァルが協力を約束してくれれば司令官とドゥインクラー様の争いも避けられます』

『まさか、あの争いを知られてんのか?』

『はい……昨晩軍艦に侵入されましたから』

『なにぃ!? あの警戒網をかいくぐったのか!? こちらの想定以上じゃねえか……まずいぞ。連中は交渉に時間をかければかけるほど我らが譲歩すると考える』

『そ、それは……』

『今晩、司令官に連絡を取る。それまでは話すんじゃねえ、いいな?』

『わかりました!』

簡単な相談もまとまったようだ。

わめくリュックをシルバーフェイスはのらりくらりとかわしていたが、

「さてリュック=ランドン殿。おれたちの用件は終わりだ。彼女は非戦闘員であり使者でもないので、クインブランドで身柄を預かる。いつでも面会には応じるので連絡を待っているよ」

「ふざけ……!」

とそこへゴルジアが口を挟む。

「悪いな、待たせて。まさか同胞がここにいるとは思わなくってよ」

「……彼女を連れていこうとは思わないのですか」

「俺の任務は、ディーナのことじゃねぇからしょうがないでしょうよ」

「…………」

そう、ゴルジアに言われればリュックもそれ以上文句を言う時間がない。

忌々しげにヒカルをにらみつけてから、ゴルジアを連れて屋敷へと入っていった。

「じゃ、こっちも行こうか」

「……あの、よろしかったのですか?」

「なにが?」

おずおずとディーナは口にした。

「あなたのされたことはルール違反だったのでしょう?」

「気にするな。君を連れてきたことも十分ルール違反だ」

「……それは、そうですが」

「ならば、行こう」

すべては想定内だ。彼女が本来伝えるべき内容だけでなくゴルジアと意見交換をすることも。こちらが彼らの言葉を理解できないとわかっているからこそだ。

昨晩、カグライが最後にヒカルに確認したのは、これだ。「おそらく情報交換なりするけどいいのか?」という確認である。

もちろん、問題ない。だからこそヒカルはカグライにもうなずいて答えた。

彼女たちは相談をし、ゴルジアはディーナに「勝手な行動をするな」と釘を刺してくれたはずだ。この短時間で軍艦に戻る方法をアドバイスできるわけがない。

つまりは「時間を稼いだ」のはヒカルのほうだとも言える。

「どこに……行くのですか?」

ヒカルは笑った。

「観光に」

そして彼女の手を握る——と、ふたりの姿はかき消えた。