作品タイトル不明
滅びの大陸からの声
「余が聞いている範囲ではデウ=ローク島はすでに新大陸の者たちの手に落ちた」
「戦いがあったのか?」
「詳細はわからぬ。だが、ヴィレオセアンは我が国を含め各国に支援を求めた。それほどの脅威を感じているのだ」
「……なるほどな」
ヒカルもまた理解した。
デウ=ローク島より東は巨大な海棲モンスターの跋扈する海域。
そこを「船団」が通過しているのだ。相応の武力を持っている——と考えて間違いない。
ひょっとしたらモンスターを避けるなにかの方法があるのかもしれないがどちらにしたところでこちらの知らない技術を持っている。
500年前に滅びたはずの人たちが生き残った。
しかも、こちらの大陸よりもはるかに凶悪なモンスターがいる土地で。
「それで、これから対策会議というところか」
「うむ。東の大陸——彼らは『 グランドリーム(偉大なる夢) 大陸』と呼んでいるがな、そのグランドリームから来た者たちの要求がなんなのかはまだわからぬが」
「国王が集まるほどなのか?」
ヒカルにはそこが引っかかっていた。
外敵の侵略は当事者である国にとっては脅威だろう。東の海に接しているヴィレオセアンはもちろん、同様に接しているクインブランド皇国も侵略の危険がある。
だが、ポーンソニア王国やフォレスティア連合国など他の国はどうだろうか。国王がわざわざ出向くほどか。
するとカグライはフッと笑った。
「海にかけては大陸一を自負し、絶対の自信を持っているヴィレオセアンがあれほど下手に出た国家間通信を送ってきたのは歴史上初のことであろうな」
「……そんなに?」
「うむ。目を疑ったぞ。本気で送ってきたのかと再確認しようとしたら、念を押すようにヴィレオセアンが再送してきた。『お願いだから来てください。大陸全体に関係する一大事です』とな。——こうまで言われれば行かないという選択肢はない。もとより我が国とヴィレオセアンの国交は良好だし、500年前のことには 我が種族(マンノーム) も関係している」
ヴィレオセアンの本気度が、皇帝を動かしたらしい。
「他にもポーンソニア王国からはクジャストリア 女王(・・) が、フォレスティア連合国からはマルケド女王が来るという。マルケド女王は我が国内を通過する予定だ」
「へぇ……」
あのマルケドもわざわざ行くのか、とヒカルは思う。
「……それで? 話は最初に戻るが——なんで おれ(・・) なんだ」
「決まっていよう。ウンケンが亡き今、彼の者と同じ——いや、それ以上の隠密能力を有しているのはそなたしか思いつかなかった」
「マンノームの里には腕利きがいるんじゃないのか」
「無論のこと、すでに依頼済みよ」
「……いったいなにがあるっていうんだ?」
「これは余の直感であるが——何らかの戦いが起きると思われる」
直感——。
ヒカルはカグライのソウルボードを確認する。
【ソウルボード】カグライ=ギィ=クインブランド
年齢73 位階38
4
【生命力】
【自然回復力】1
【スタミナ】3
【知覚鋭敏】
【嗅覚】2
【魔力】
【魔力量】4
【精霊適性】
【風】2
【筋力】
【筋力量】3
【武装習熟】
【剣】3
【敏捷性】
【瞬発力】1
【器用さ】
【器用さ】3
【道具習熟】
【楽器】2
【精神力】
【心の強さ】8
【カリスマ性】5
【英雄性向】1
【魅力】2
【直感】
【直感】2
【ひらめき】
【音楽】2
【天稟】1
【記憶力】1
「直感」は2——ヒカルと同じだ。
限られた情報からでも、なんらかの雰囲気を感じ取ることはできるはず。
戦いが高確率で起きるだろうとヒカルは踏んだ。
「……おれになにをして欲しい?」
ヒカルの問いに、
「情報を手に入れて欲しい」
カグライは即答した。
「今回のことは、グランドリームから来た者たちも、余らも、お互いがお互いを知らぬ。情報を集めれば集めただけよい」
「それはクインブランド皇国にとって『よい』のか?」
すると、カグライは笑った。
「それもある。だがそれ以上に——知りたいではないか。500年もの間、連絡が途絶えていた者たちがなにを考え、どう生きてきたのかを。誰よりも早く、である。交渉にも使えるし平和の道筋もつけられよう、そしてなにより余の知的好奇心が満たされる。未知なる相手の懐に忍び込んで情報を得る——かような偉業を果たせるのはそなた以外いない。そうであろ?」
ヒカルは一瞬、考えた。ラヴィアたちはポーンドにいてヒカルが帰るのを待っている。だがヴィレオセアンに行くには今カグライと行動をともにするべきだろう。ただでさえスケジュールはギリギリで、放っておいたらグランドリームとの最初の接触を見逃すかもしれない。
コウの「龍の道」が使えれば追いつけるが、まだコウは寝ているはずだ。
出発が明日の正午なら、朝イチで冒険者ギルドに行けば連絡を飛ばすことができる。なにかあれば冒険者ギルドを通じて連絡するから毎日確認してくれとはラヴィアにも伝えてあった。
「……わかった同行しよう。だがおれの存在は隠せ。馬車を1台用意し、そこにおれはいるようにする。寝る場所や食事はこちらで勝手になんとかする」
「報酬は金でよいか?」
「いや、金はかさばるし金には困っていない。——そうだな、この城の蔵書室を見せて欲しい。珍しい本を1冊、もらおうか」
「欲のないことよ。——我がマンノームの里に来るか? あそこならもっと珍しい本があるぞえ」
「それは止しておく……後々面倒になりそうだ」
ヤ○ザに目をつけられる感覚である。
「そうであるか。ならばそれでよい——取引成立じゃな?」
カグライが握手を求めて右手を差し出したときだ。
ひゅうと風が吹いてカーテンがあおられた——ちらりと視線をそちらに投げたカグライは、目の前にいた 白銀の貌(シルバーフェイス) が姿を消したことにすぐには気づかなかった。
「おはよう、ポーラ」
「あ、ラヴィアちゃん——コウちゃんが今ちょっと目を開いたんだよ」
グランドホテルの一室にラヴィアたちは滞在していた。カゴに毛布を敷いて、そこに寝かされているコウはパッと見は白い犬のようにも見える。丸まって、ふわふわの毛並みだ。
「だいぶお腹がへっこんだよねぇ」
「ほんとうに」
竜石を飲み込んだコウの腹は、その位置がわかるほどにふくらんでいたが、今ではパッと見ではわからない。この小さな身体の中で消化しているのだろうか。
息をしているし、身体も温かいので眠っているような状態だった。
「ポーラ、申し訳ないのだけれど今日もコウちゃんを見ててもらっていい?」
「もちろん。冒険者ギルドに行くの? 行ってらっしゃい」
ラヴィアはひとり、冒険者ギルドに向かう。ヒカルからの連絡が来ていないかを確認するためだ。
ギルドに着くと、相変わらず冒険者は少なかった。表情に陰のあるオーロラがひっそりとカウンターの向こうに立っている。
美人なのにどこか陰気くさいところがもったいない人である。
「……ラヴィアさんに連絡があります」
「!」
もしかしてヒカルから——と思ったラヴィアだったが、
「先日納品いただいた素材の査定が終わりました」
「あ……そっちですか」
ヒカルがジルに預けたバッグいっぱいの素材で、卸先が決まるまで金額算出をちょっと待って欲しいと言われていたものだ。
「総額で68万7200ギランとなりました」
ラヴィアは目を見開く。かなり多い——とはいえ、ヒカルが持っている金額はすでに9千万ギランとかそういう世界なので、それと比べると少額になるのだが。
金額算出に関する説明を受ける。素材ごとに教えてくれるのでかなり時間がかかるのだが、今日はヒマなので問題ないのだろう。ラヴィアもなんだかこの陰のあるオーロラの声が心地よくなってきてのんびり聞いてしまった。
「以上となります。ご静聴ありがとうございました」
なんとなく頭を下げられ、なんとなく頭を下げて返した。
「こちらこそありがとうございました。では——」
「あ……もうひとつ」
「なにか?」
「今朝、ヒカルさんからの連絡がありました」
「え!?」
そっちを先に教えてよ! と叫びたいラヴィアだった。