軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

攻め手の事情

ルダンシャ領の領境に小さな街がある。ここには10人ほどの武装集団が駐屯していたが、彼らに注意を払う市民は少なかった。部隊として考えるには少人数ともあるが、彼ら武装集団は領兵でありルダンシャ代表の命令で駐屯していることは明らかだったからだ。

だが、領兵を統括する団長はぴりぴりしていた。先ほど「ヒョードル一家」の失敗が伝えられると感情に任せて握りこぶしをテーブルに叩きつけたほどだ。

「だから……イヤだったのだ。ごろつきを雇って任務を遂行するなどということは」

その剣幕に部下たちも直立不動のまま動かない。

団長ことラークス=ロードグラード=ルダンシャは、代表やリュカと同じロードグラード一族ではあったが、養子として引き取られてきたために領内での扱いはさほどよくない。

彼は、自身を守るのは自分自身しかいないと考えていた。だからこそ剣の訓練に血道を上げ、今では領兵をまとめる小隊長的な立場に落ち着いている。

「……どうするか」

宿の2階——雪がこびりつき、曇った窓から外を見やる。

むかつきは収まらないが、任務を全うする以外に道はない。

ラークスは今回の任務——リュカ抹殺——を受けたときのことを思い出していた。

——ラークス、アンタはさぁ、うちに拾ってもらった恩義があるわよねぇ?

——はっ。ロードグラード家に拾っていただいた恩義は片時も忘れたことがございません。月に1度の教会の祈祷においてもロードグラード家への感謝を——。

——そンなのはどうでもいいの。ただアンタには誠意を見せてもらいたいのよ。

厚化粧で年齢を誤魔化した女が——ラークスの心中では「化け物」と呼んでいる女が、にたりと笑った。もしや身体を捧げて性欲のはけ口になれとでも言われるのかとひやりとしたが、ルダンシャ代表の趣味は若く少年のような男だ。そんなのばかり1ダースほど 飼っている(・・・・・) 。

ラークスは青い髪を短く刈り込んだ20台後半の男で、筋肉質だ。剣をやらなければ優男として社交界で浮名を流したかもしれないが、あいにくがっしりとした体つきに、顔を含めあちこちに古傷がある。

ルダンシャ代表の魔の手から逃れるために彼女の趣味から真逆へと自分を鍛えたという意味合いもあった。

——リュカを始末なさい。

ああ、そっちの指令か、とほっとしつつも、反面、ここで俺も死ぬのだなと思った。

ルダンシャ代表が冬に入ってからこの「合同結婚式」をつぶそうと暗躍していたことは知っている。だがルマニアが本腰を入れて「果実」——ビジネス上の利益を得ようとしている以上は、ルダンシャがどうこう言ってもひっくり返らない。

本来はキリハルにも反対意見が強くあるはずだったが、キリハル代表の女王マルケドが賛成しているだけでなく、マルケドが「ルダンシャと力を合わせてひっくり返すのかえ?」などと煽ったものだから、ルダンシャ嫌いどもは賛成も反対も言えなくなってしまったのである。うまいやり方だった。

もちろん、それはマルケドのアイディアではなく筆頭大臣であり女王の知恵袋であるゾフィーラ=ヴァン=ホーテンスのアイディアではあったが。

——なんでこのタイミングなのよ……ようやくキリハルをつぶす手段が手に入ろうっていうのにさ。

ぶつぶつ言っているルダンシャ代表を見て、「このバカが」とラークスは思う。今、連合国内部で戦っている場合か。大陸全体が混沌としているのに。

バカだと思っていても彼女はルダンシャの代表だ。合同結婚式自体をなくせないのなら、リュカを殺せばいい——ついにその手段に至ったのだ。

彼女を殺せば、連合国が進めようとしている合同結婚式を台無しにしたことでラークスは死罪を仰せつかるだろう。抹殺に失敗したとしてもルダンシャ代表が自分を許すはずがない。どのみち殺される。

どうせ死ぬのならば——自分の力を試せるところまで、試そう。

そう、ラークスは自分を納得させた。

幸いジャラザックにはアレクセイを始めとして猛者が多い。「武のジャラザック」は伊達ではないはずだ。最期に戦う相手として不足はない。

——承知しました。

悲壮の覚悟を持ってうなずいたラークスへ、ルダンシャ代表は、

——あらぁ? そんな顔しないのよ。せっかくの男ぶりが下がるわよぉ? アンタは心配しなくても平気。ジャラザックには「ヒョードル一家」とかいうごろつきがいるって聞いてるわ。そいつらを使いなさい。

——……は?

——明らかにルダンシャの関係者とわかるアンタがジャラザックに乗り込んだら、ルダンシャだって無事じゃ済まないじゃない。そんなこともわかンないの?

この女は、自分の覚悟すらあざ笑うように言ってのけた。

ごろつきを使えと。

もし、ヒョードル一家に接触したのがラークスだとわかれば、ラークスは「罪だけ」をかぶることになる。「自分で手を汚さない卑怯者」という汚名とともに。

頭が真っ白になった。死に様すら自分の自由にならないのだ。気がついたときにはすでにルダンシャ代表はいなくなっており、自分はひとり立ち尽くしていた。

——クソ……。

この任務——任務と言っていいかわからない、単なる「自殺 幇助(ほうじょ) 」——に部下をつき合わせたくはなかった。だから、ひとりでヒョードル一家と接触し、ひとりですべてを終わらせるつもりだった。

だが、出発の朝、彼の部屋の前には10人の部下——苦しい訓練をともにくぐり抜けて来た部下たちがいた。「隊長ひとりでは行かせませんよ」だなんて言って。彼らは、ラークスが「死ぬかもしれない」——「おそらく死ぬであろう」任務を受けたことに気がついていたのだ。

たった10人。されど頼りになる10人だ。この町に駐屯している人数が、部隊としては少ないのはこのためだ。

「隊長、ヒョードル一家が失敗した場合についてはなにか言われていたのですか?」

部下のひとりが言う。

「いや……特にはないな。そもそもジャラザック領を出たことが想定外だ」

「それなら直接手を下してもいいってことですよねぇ?」

へらりとした若い男が口を出した。彼、ロイの入隊はこの中ではいちばん若く、今年の冬に入る前だった。「ラークス様に憧れているんです」とか言っており、それはうわべだけだろうと最初はラークスも思っていたものの、彼の態度はずっと変わらなかった。さらには「自分も隊長とともに命を捨てる覚悟があります」と言って今回の任務についてきてくれた。

ラークスの中で、ロイは他の9人と同じ仲間だった。

「直接手を下す……?」

「ジャラザック領にルダンシャ領兵が入るのはマズイですけど、スカラーザードは中央直轄ですから」

「ロイ、そうは言っても明らかに領兵である我々が向かえば中央防衛軍が口を出してくるぞ」

「そこは冒険者の なり(・・) をしていきましょうよ」

「ふむ……」

ラークスは考える。ロイの言うとおり、任務遂行が明るみに出る——つまりリュカの抹殺が成功した時点でラークスたちの身元がバレたとしても、文句を言ってくるのは中央だ。中央の文句などルダンシャ代表はなんの痛痒も感じないだろう。

「……リュカ様がジャラザックを出たのは、我らにとって幸運だったのかもしれないな」

「ラークス様。それじゃあ」

「ロイ、お前の意見を採用する。領兵だと知れるものをここに残し、変装してスカラーザードを目指す。向こうも命を狙われていることに気づいたはずだから、戦いは短期決戦となる」

「了解!!」

部下たちが一斉に敬礼する。そして、スカラーザードへ向けて動き出した。

「…………」

陰でロイが、小さく笑ったことには誰も気づかない。