軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者ギルドでの情報収集

翌日の昼、ヒカルたちはスカラーザードの冒険者ギルドに顔を出した。ラヴィアの冒険者登録はこの国で行ったから——とはいえ首都のフォレスザードだが——彼女にとっては「ホーム」であり、ヒカルとポーラにとってはアウェーということになる。

ちなみにコウは、朝から食べ過ぎたので家で寝ている。

1月も後半になっているがスカラーザードの雪解けは4月以降だ。両開きのドアを開くと、中から暖気が外へと噴き出す。冒険者ギルドに冒険者の数は少なく、ギルドの受付嬢がヒマそうにおしゃべりをしていた。

「すみません。少々聞きたいことがあるのですが」

「っ! あ、はい」

なるべく礼儀正しさに気を遣い、ヒカルは受付嬢のひとりに話しかける。彼女はなぜかドギマギした様子でヒカルのギルドカードを確認し、そのランクが「D」であると知ると目を見開いた。

ヒカルの年齢でランクDはやはり珍しいのだ。

それから受付嬢から情報を聞き出して、ヒカルはホール内のテーブル席で待っているラヴィアたちのところに戻った。

「いろいろ聞いてきたよ——ってどうしたの?」

なんだかジト目でラヴィアがこちらを見ている。

「……なんでもない」

するとラヴィアはヒカルの横に自分のイスを引っ張ってきて、身体が触れるくらいの位置で座った。

「いや、全然なんでもなくないだろ。どうしたんだよ?」

「……ヒカル、自覚ない」

「自覚?」

ヒカルがよくわからずにポーラを見ると、ポーラはポーラで「あははは……」などと苦笑している。

実のところ、ヒカルは少し背が伸びた。そしてソウルボードの「筋力量」に1振ったこともあって身体ががっしりとしてきている。華奢だった印象は消えつつあり、年相応に——少年から青年になりつつあるのだ。

しかも極め付きは「ラヴィアの好きにしていい」と言われ、つい今朝、彼女 好み(・・) にハサミを入れた黒髪。これが知的な雰囲気を醸し出している。その風貌は荒くれ者とばかり接している受付嬢たちからすれば新鮮で魅力的に映るだろう。

ヒカルとしては、このギルドには以前来たことがある。そのときに特別扱いされなかったのだから、今回の受付嬢の反応に違和感こそあれ深い意味などないと思ってしまったのは仕方ないことだろう。

「ちょっとしたことで女の受け取り方は変わるの」

「? なんのこと?」

「それで、ヒカル。どんな情報があったの?」

「あ、ああ……それなんだけど、まずは聖都アギアポールについて話したほうがいいかな」

ヒカルの言葉にポーラがピクリと反応した。やはり気になるのだろう。

「地方教会を束ねる司祭たちが、『塔』に入ったようだ。『アインビストの国宝』盗難に関する事実究明と、『地下研究施設』への査察受け入れ——それに、教皇聖下の『罷免』を求めて行動している。『青の騎士』ギルベルト=ガブラスは牢獄から解放されて、司祭たちとともに行動しているって」

「それは……また、なんとも……」

スカラーザードに来るまでに、アインビストが抗議の使者をビオス宗主国に送ったことは耳にしていた。

冒険者ギルドのネットワークではその後の情報も集められており、冒険者たちに対しても「オープン」な情報として提供されているようだ。

ヒカルが盗賊を退治しているうちに、事態は大きく進展しているようだ。

(それにしても 公開しすぎ(・・・・・) なんだよな。国家間のやりとりとか内紛に近い内容とか、明らかに公開すべき範囲を超えている気がする……冒険者ギルドはビオスにいい感情を持っていないのか?)

ちなみにポーンソニア王国のクジャストリア王女とオーストリン王太子の現状にもたずねてみたが、そちらは「公開できません」と即答された。

「とりあえず今の状況から好転するかどうかは教会自身に任されてると思う。僕が手記を送ったことも意味があったようだし」

教皇がアインビストからの抗議を隠したり、あるいはわざと地方司祭に対してミスリードする可能性があったので、ヒカルは手を打っていた。それが、ヒカルが「塔」で見つけたスコット=フェアーズの手記だ。この手記のおかげでヒカルも「塔」の地下研究施設やグレイヴィ神父について知ることができた。

元々、「デニス=ルグリムという司祭に送って欲しい」とスコットは書いていた。デニスは海洋国家ヴィレオセアンの首都ヴィル=ツェントラの司祭だ。ヒカルが手記とともに今回の顛末を書き添えて送ったのだが無事に届いていたようだ——「地下研究施設」について「塔」に集まった地方司祭たちが査察受け入れを求めていることからもそれは明らかだ。

「腐りきった司祭や修道士……ゲロップとかあの辺が一掃されればいいけどね」

教会の自浄能力が試されている。

「きっと……大丈夫です」

ポーラはぎゅっと胸元で両手を握りしめた。彼女だって思うところがあるはずだ。手を出したい、口を出したい、声を上げたいことだってあるはずだ。それをぐっと我慢してきてくれた——ヒカルに迷惑をかけるまいとして。

その気持ちをヒカルもまた理解している。

「あ、あの、ヒカル様。私、今日は教会に行ってきてもいいでしょうか? この地の教会がどうなっているか気になりますし……冒険者ギルドが知っていることなら教会だって知っているでしょうし」

「もちろん、いいよ」

「ありがとうございます……勝手ばかり言いまして」

「勝手なんかじゃ——」

ない、と言う前にポーラは立ち上がり、ラヴィアの耳元になにかをささやいた。本人としては ささやいた(・・・・・) つもりだったのだろうが、ヒカルのすぐ横にラヴィアはいたものだからヒカルにもその声は聞こえた。

——今日はふたりでデートしてきてね。

ラヴィアの白い肌に紅が差す。

「ちょっと、ポーラっ!」

「夕方には戻りますね」

ぴゅうっ、とふだんからは想像できない素早い動きでギルドを出て行ってしまった。

「も、もう……ヒカル、今の聞こえた?」

「いや? なんて言ったの?」

聞かなかったフリをするに限る。

「知らなくていいの」

ムッとしたような顔で——そのくせさっきよりもさらにヒカルに身を寄せてラヴィアは言った。

ヒカルとラヴィアも冒険者ギルドから出る。ヒカルは、他にも聞いた情報があったのでラヴィアと共有する——。

「へえ! 合同結婚式ってそんなに盛り上がっているの?」

ギルドで聞いたのは合同結婚式に1,000組を超える申し込みがあったということだ。受付嬢ですらうっとりとした顔で、

「ああ……結ばれる運命にないおふたりが、困難を乗り越えてついに愛を誓う……ロマンチックですよね……」

なんて言っていたのだから、どれほど脚色されてクロードとリュカの話が伝わっているかわかったものではない。

だが、彼らの物語がファンタジーであればあるほど、変えられるカップルの運命が多いこともまた事実だ。リアリティあるお話だったら「そんなの俺たちには関係ない」となってしまう。

「この冬に各地の演劇場では散々上演されたらしいぞ。鉄板演目になりつつあるって」

誰もが知っているキリハルとルダンシャの関係。それを覆して、各国の承認を得て合同結婚式を開く——もちろん全員賛成ではなく、ルダンシャが猛烈に反対し、リュカの母でありルダンシャのトップ自らがリュカを殺そうとしたほどなのだが、そういう要素も観客には喜ばれているらしい。この演劇はルダンシャ国内でも上演されているが、内容はいろいろと改変されていた。

そんなわけでフォレスティア連合国内は空前の結婚ブームなのだ。

これでクロードとリュカの間に子どもでも生まれれば、今度はベビーブームになりそうだ。

「結婚式かぁ……。ヒカル、合同結婚式はどこでやるの? わたしたちは見に行けるの?」

「首都のフォレスザードでやるはずだけど。なにもなければ見に行こうよ」

「楽しみ!」

女の子というものは結婚式や花嫁が大好き——と知識では知っていたが目の前にするとやはりそうなのかという気持ちになるヒカルである。

(ラヴィアと僕も結婚……い、いや、早すぎるよな、うん、まだ16歳と15歳だし。あ、でもこっちの世界だと10代の結婚はふつうなんだっけ?)

顔が熱くなったヒカルをラヴィアが不思議そうな顔をして見ている。

「あ、あー、その、ラヴィア。そう言えば聞いたことがなかったけれど誕生日っていつなんだ?」

「わたし? 2月の14日だけれど」

「え!? もうすぐじゃないか」

しかもバレンタインデー! とは思ったがこの世界には当然そんなもの存在しない。

「もうすぐだけれど……それが?」

「もしかして誕生日って祝ったりしないものなのか?」

「んー。ちょっと贅沢をしたりはすると思うけど、それくらいかしら」

少しだけラヴィアはさみしそうな顔をした。彼女はずっとカゴの鳥だったから、そんな誕生日のお祝いもしてもらったことないのかもしれない。

だけれどそれをわざわざ口に出したりはしないから、ヒカルもあえてその話はしない。ラヴィアは、もう過去を吹っ切っている。

「ポーラはいつなんだろ」

「ポーラは4月の1日だと言っていたわ」

「いつの間に情報交換を……」

自分だけ知らなかったのかとがっくりくるヒカルである。

(しかもエイプリルフールとは……ポーラらしいな)

なにが「ポーラらしい」のか自分でもよくわかっていなかったが、なんとなくヒカルは思った。

「ヒカルはいつなの?」

「えぇと……この肉体のほう?」

「 中身(ヒカル) に決まってるでしょう」

苦笑されながら手を握られた。

「僕は3月6日だね」

「あら、1月ごとに並んでいたのね」

ただの偶然だろうけれど、なんとなくつながりを感じられた。

「それでさ、ポーラのことなんだけど……ポーラはまたどこかの宿に泊まるって考えてるよな? 昨日はこっちに来たばかりだったからうちに泊まっていたけど」

「ええ、そこは変わらないと思う」

「うーん……」

「同じ家にいたほうがいい?」

「どうだろう。ポーラなりに距離を置きたい気持ちもあるのかな、って……。彼女の親友であるピアとプリシーラとは離れ、僕らとパーティーを組むことになった。それですぐに僕らとの距離を詰めるのは——ピアとプリシーラに気兼ねしているのかな、とか」

「ポーラに聞いてみようか?」

「ん。そうしてもらえるとありがたい。……あとは、まぁ」

ヒカルはラヴィアの顔を見られず、そっぽを向きながら言った。

「……僕としても、君とふたりきりでいられる時間があるのは……うれしい、かな」

「…………」

ラヴィアが無言になる。さすがに自分本位過ぎて引かれただろうか——不安になって彼女をちらりと見た。

耳まで真っ赤になってうつむいているラヴィアがいた。

「……ばか。そんなこと言われたら、わたしだって……ふたりきりの時間はうれしいんだから」

ふたりして赤くなり、無言のまま歩いていく。冬のスカラーザードにあってそこだけ春が来たかのように温かな風が吹いていた。