軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スカラーザードの街で

ラヴィアとそんなふうに甘い言葉を交わしながら街を歩くのも久しぶりだった。「東方四星」のセリカあたりに聞かれたら「は? なにしてんの?」と軽くキレられそうだな——なんてヒカルが思った。

「……あ」

「?」

立ち止まったヒカル。彼の視線を追ってラヴィアもまた、

「あ」

と声を漏らした。

そこにあったのはひとつの屋台だ。そこそこ繁盛しているようで、客足は途切れない。

これほど寒いスカラーザードでも屋台は出ている。ただし、軒を出しただけの簡素なものではなく横を戸板で囲ってしっかり防寒しているものだ。

屋台の店主——ガタイのいい、冒険者でもやらせたほうが稼げそうな金髪男がヒカルとラヴィアに気づく。

「おう、そこのおふたりさん! アンタたちもどうだい、おひとつ」

この男は初対面だったが、どうも彼に似た雰囲気の男にヒカルは心当たりがあった。しかも売りものが。

『ホットドッグ——1つ30ギラン』

激辛もあるよ、なんて声まで掛けてきた。

話を聞いてみるとやはり、このホットドッグ店「ポーンドホットドッグ」はセリカが出資し、チェーン展開を始めたうちのひとつらしい。動きが早い。早すぎる。

オーナー——と、店主が言っていた——の 少女(セリカ) は「他社に真似される前に主要都市に屋台を展開し、『ホットドッグはポーンドホットドッグ』と印象づけるのよ!」と檄を飛ばしているらしい。

ちなみに店のシンボルマークはツインテールを極限までデフォルメしたもの。

「よく売れてるもんだな。ホットドッグなんて誰にだって思いつくだろうに……」

ヒカルはそう思うのだが、

「味わいのバランスがとてもよくできているの。ケチャップと、マスタード……だっけ? この2つがとても美味しい」

マスタードに似たものはこの世界にもあったが、ここまでホットドッグにカスタマイズされたソースはないようで、この味付けが「ポーンドホットドッグ」の強みらしい。

加えて、ソーセージも日本にあるものとはちょっと違っていて、肉のインパクトがハッキリと出る。確かに——日本で食べたホットドッグより美味いとはヒカルも感じている。

「それにチーズやサルサソース、季節に合わせた野菜を組み合わせられるのもうれしいわ。このホットドッグひとつでちゃんとした食事になる……これは売れるわ!」

「や、ラヴィアは激辛味が好きなだけだろ」

ヒカルも出資しているこの「ポーンドホットドッグ」だが、激辛味を必ず入れるようにセリカに頼んでいた。どこかでラヴィアが屋台を見かけたとき、ラヴィアが欲しがるだろうから——というそれだけの理由で入れた 契約(・・) だ。

激辛マニアというのはどこの都市にもいるらしく、10本に1本は激辛が売れると店主も言っていた。スカラーザードは寒いので、辛い味の人気が高いようだ。

客足が途切れたときに詳しく話を聞いてみると、店主は元冒険者だが、若くして膝を壊し、冒険者を続けることが難しくなったという。セリカはそういった人間を集めて各地に派遣し、店主をやらせているのだとか。

(冒険者の再就職支援サービスみたいなもんか……っていうかあいつ、よくそんな時間があるよな?)

ランクB冒険者ともなれば多忙なはずだ。今は戦争にも駆り出されている。それなのにヒカルからも金を巻き上げてホットドッグビジネスを始めている——自分のトレードマークであるツインテールなんぞを使って。

「ヒカルの住んでいた日本には、美味しい食事がいっぱいあったんでしょう? 行けるものなら行ってみたかったなぁ……」

ラヴィアはセリカから日本のことをちょくちょく聞いていた。

「この世界もだいぶ食事は美味しいと僕は思うけど」

「……それに本も」

「そっちが目当てか」

本で言えば、確かに日本の出版量は半端ない。本の虫のラヴィアを喜ばせるのに十分だろう——もちろん日本語を学ばなければならないが、彼女は執念で最速マスターしそうな気がする。

ラヴィアは激辛味のホットドッグを完食した。店主は「いい食いっぷりだねぇ! この激辛味は 始祖(マスター) 直伝のソースを使ってるんだぜ! なんでもマスターは『師匠』と呼んで師事した少年に教えを受けたとかで……」なんて言っていたが、セリカは「オーナー」で、ポーンドのホットドッグ店主——名前はアーネストだったはずだ——が「マスター」なのかとどうでもいいところばかりヒカルは気になった。

ホットドッグの屋台を離れ、ヒカルはラヴィアとともに生活必需品の買い出しに向かった。

(ここは宝飾品か)

店舗の前でヒカルは足を止める。そこそこ大きめの窓ガラスがあり、中の様子が見える。身につける貴金属はラヴィアもほとんど身につけない。

ふと、ヒカルはあることを思いついた。

「ねぇ、ラヴィア。僕の国では誕生日にお祝いを贈るんだよ。で、僕たちはちょうど誕生日が近いじゃないか。それで——」

ふたりで、店舗に入る。

スカラーザードの教会は立派だったが人気は少なかった。なにもない日中ということもあるし、冬期は人々が暖かい地方へと出稼ぎに行くことも多いので人口自体が減っているということもある。

40歳くらいの神父がいたので話を聞いた。神父も聖都アギアポールで起きていることについて知っていた。

「フォレスティア連合国の教会を束ねている司祭様は全部で3人いらっしゃるのですが、皆様、アギアポールへと向かわれました」

教会同士の情報ネットワークで彼らもことの成り行きに注目しているのだ。

ポーラが国外から来たと知ると神父は話を聞きたがったので、ポーラはわかる範囲で教えた。

とそこへ、首都フォレスザードの教会で働いている修道士が訪れ、新たな情報をもたらす。

「アギアポールを落ち延びたグレイヴィ神父が難民を引き連れてアインビストへと亡命したそうです」

「なんですと!」

神父は驚いているが、ポーラも驚いた。だがその驚きは「ヒカルの読み通り」に動いていることの驚きだった。

「あの、グレイヴィ様はご無事なのでしょうか?」

「ええ。アインビストはグレイヴィ神父を始め、難民を受け入れたそうですよ。しかしグレイヴィ神父は『まだ救いが必要な者がいる』とおっしゃり、供をひとり連れてビオス宗主国へ戻られたとか」

「その『供』とは女性ではないですか?」

「そこまでは聞いていませんが……あ、そうかもしれませんね。なんでも非常に腕の立つ女性が難民を守り抜いたと聞きました。粗末な服は魔物の返り血で汚れていながらも、その女性は凜として立っていたと」

それは「青の騎士」コニア=メルコウリだろうとポーラは思った。

スカラーザードの神父は困惑顔だ。

「しかし……グレイヴィ神父と言えば『赤の司祭』にして我ら地方教会でも名の知られた聖職者ではありませんか。なぜ教皇聖下に頼るのではなく亡命を選んだのでしょう」

「その点こそ、司祭たちが『塔』に赴き確認していることではありませんか」

「もちろんそうなのですが、これではまるで……」

神父は言葉を濁した。今言おうとしたことは「教皇批判」につながることだったからだろう。グレイヴィ神父の行動は「教皇が頼りにならないから隣国を頼った」としか見えない。

だが理性では理解している。冒険者ギルドが「聞かれれば答える」とおり、地方司祭たちは教皇の罷免——退位を求めている。立場上、「教皇」の上には「神」しかいないために、教皇が自主的に辞めるしかない。

神父や修道士の上役である地方司祭たちは、「教皇批判」をドストレートに展開している。

「……もしも、グレイヴィ様が正しいのなら、グレイヴィ様こそ『今生の聖人』ということになりますね」

ポーラの言葉に、神父と修道士はハッとする。

「た、確かに」

「グレイヴィ神父には是非ともフォレスティアにまで足を運んでいただかなくては……!」

神父も修道士も人の子だ。教会自体が揺らいでいるとはいえ、新たな希望の誕生に胸を躍らせた。

彼らは「今後もしっかり情報交換しましょう」と約束し、この会合は終了となった。

「——思っていた以上に時間がかかっちゃった」

教会から出ると、お昼をずいぶん回っていた。食事を取っていなかったのでお腹が空いている。どこか屋台で軽く食べようかと思いつつ街を歩いて行くポーラ。

(ヒカル様は、グレイヴィ様の続報を聞いたら喜ぶかな?)

冒険者ギルドも把握していなかった情報を、教会ネットワークが拾っていた。少しはヒカルの力になれるかもしれない、と思うと気持ちが浮き立つ。

——ああ、ポーラ。君はなんて役に立つんだ。

——私はヒカル様のために行動をしているだけです。

——ありがとうポーラ。ほんとうは、君が僕のそばにいてくれるだけでも僕はうれしいんだ……。

——ヒカル様……。

「ぐふふふ」

乙女的に結構ヤバイ顔で歩いていたポーラを、男たちがぎょっとした顔で通り過ぎる。まずいまずいとポーラは顔を元に戻した——ときふと、宝飾品店が目に留まった。大きな窓ガラスから中が見える。

「!」

中にいたのはヒカルとラヴィアだ。

ふたりは腕にそろいのシルバーバングルをつけて笑顔をかわしていた——。

「あ……」

不意に、頭が冷静になる。

当然だ。ラヴィアに、先ほど自分は「ふたりでデートしてきて」なんて言ったのだ。ふたりが仲睦まじくしていることは至極当たり前のことで、むしろポーラとしては歓迎すべきことだ。ふたりだけのバングルをつけるなんて恋人らしくていい——。

わかっていたこと。

それなのになぜか——。

「冷えてきた、な……」

薄い雲が太陽にかかっていたが、さらに濃い雲が太陽を覆ってしまう。冷たい風が吹き抜けてポーラの体温を一気に奪っていく。

ぶるりと震えたポーラはマフラーに顔を埋める。

「お昼、なに食べようかな。そうだ……宿も取らなきゃ」

やらなければいけないことを思い出し、足早に宝飾店を離れていった。

「?」

ふとヒカルはなにかを感じて店内を見回した。

誰かが見ていたのだろうか?「魔力探知」を拡張すると店から離れていく、見慣れた、一般人の数倍大きい魔力の塊——ポーラがいた。

(ああ、ポーラが通りがかったのか。通りがかっただけで「直感」が働くとは……すごいな。やっぱり2にしてよかったのかもしれない)

と考えていると、

「どうしたの、ヒカル」

「んー、いや、なんでもない」

ヒカルは会計を済ませた。