軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「なにをしたいのか」

「…………」

あの禍々しい扉についての話を振ると、ギルベルトは黙り込んだ。ややあって、

「……2度とあの扉には近づくな。けっしてあの扉は開けちゃならねえ」

固い口調で言った。

ヒカルはギルベルトのソウルボードを確認する。

【ソウルボード】ギルベルト=ガブラス

年齢37 位階55

1

【生命力】

【自然回復力】12

【スタミナ】8

【免疫】

【魔法耐性】3

【疾病免疫】1

【毒素免疫】1

【知覚鋭敏】

【視覚】2

【魔力】

【魔力量】4

【筋力】

【筋力量】9

【武装習熟】

【剣】6

【大剣】2

【盾】4

【鎧】4

【敏捷性】

【瞬発力】2

【バランス】1

【精神力】

【心の強さ】6

【信仰】

【聖】5

【回復魔法】2

【支援魔法】2

【邪】2

【呪魂魔法】1

【直感】

【直感】4

やはり「直感」持ちだったかとヒカルは思う。高いレベルの戦闘能力を持っている前衛タイプはほぼ確実に「直感」持ちだ。おそらく「直感」がないと死ぬような、死線をいくつもくぐり抜けてきたのだろう。

単純な物理攻撃だけならば若干劣る「剣聖ローレンス」という感じか。ただし回復魔法や支援魔法が使えること、それに、

(……呪魂魔法に1……?)

それが謎ではあった。

「あんな扉、開ける気なんてない。——ああ、そうか、教皇はあの扉を開けるために『断絶の刃』の研究をしているんだな?」

「……はぁ、ったく、お前はいったいどこまで知ってるんだよ?『断絶の刃』? なんだそりゃ」

呆れたようにギルベルトは言った。もうそこに殺気はなく、急に現れた得体の知れない少年がなにをどこまで知っているのか、単純に呆れたような声となっていた。

ヒカルとしてはギルベルトが「断絶の刃」について知らないということが意外ではあった。ギルベルト——「青の騎士」とはいえ、知らされていないことも多いのだろう。あるいは、単に教皇が彼を信用していないのか。

「ま、 おれ(・・) としてはアンタをどうこうしたいわけじゃない。だが聞いておきたい——アンタはどうしたいんだ?」

「出してくれ。やらなきゃならねえことがある」

「……その内容を聞いても?」

「聞いたってしようがねえぞ。聞かなきゃ良かったと思うんじゃねえか?」

「一応言ってみたらいい。おれが手伝ってやれるかもしれない」

「ハッ、言うじゃねえか。——簡単さ」

ギルベルトはかつて、「アギアポール最強」の名をほしいままにし、「光剣のギルベルト」、「剣閃瞬斬」などとも呼ばれていた男だ。

「一度この『塔』をぶっ壊す。膿を出し尽くさなけりゃならねえからな」

そんな男が「塔」に剣を向けたらどうなるか——何人の血が流れるのだろうか。

「アンタ、死ぬぞ。いくら強くったってたったひとりだ」

「なんだぁ? 手伝ってくれるんじゃねえのかよ」

「おれが加わったところでふたりだろう。それにおれにはこの『塔』への破壊欲求なんて微塵もない」

「……俺はもうこの国では生き延びられない。どのみちもはや役に立たない命だ」

ため息交じりにギルベルトは言う。知っているか、この「塔」は教皇の言うことを聞く 家畜(・・) だけが幅を利かせているのだ、と——。

「知っている」

「ハッ、そりゃ当然か、お前ほどの 物知り(・・・) ならな。——で? どう思う?」

「……気にくわないな。そうやっておれを焚きつけて、たったひとりの革命に付き合わせるつもりか」

「そういうことじゃねえよ。もう……どうかしちまったんだ、この『塔』は。聖人の教えに従うのなら、本来 聖都(ここ) にはごく少数の強者だけが残り、『封印』を見守らなければならない。だがこの聖都に『象徴』としての価値を見いだした教皇は、神にでもなったつもりか、人間の価値を勝手につけやがる——」

元はと言えばギルベルトは、地方の教会で旧来の教本をベースに教えを受けた孤児だった。

スラムにいるグレイヴィの言うことを理解できたのも、ギルベルトが信じる「教え」とグレイヴィのそれとが一致したからだろう。それに、ギルベルト自身が孤児だったこともあり、スラムを放っておけなかった。

「俺は手っ取り早く強くなることを目指した。強くなれば『青の騎士』になれる。そうしたら多くの人間を導いていけると思っていたんだ」

しかし「塔」に入ってみて気づいたのが、ここの腐敗だ。教皇派は金で地位を買っている。「紫の貴顕」こそ世襲であるが「赤の司祭」「灰の修道」の半分以上がなんらかの汚い金で売買された地位になっていたのだ。

だが過半数を握っている時点で彼らが主流なのも事実であり、教皇はそれを止めようともせず、むしろ彼らを利用して自らの理想——「美しい聖都」を実現するために孤児や浮浪者を排除した。

そんななか、ギルベルトにできることはスラムの援助くらいだった。

「……そろそろこれも限界だ。グレイヴィ様が生き延びてくれれば救われる命もあるだろうが、このまま行けばどんどんこの街はおかしくなる。だから」

「『塔』を破壊する——教皇を殺すのか?」

「どこまでやれるかはわからん。どうせ、このまま殺される身だ」

ギルベルトは冷静に自分自身の状況を把握している。スラム排除を止めたことは教皇の意見に逆らうこと。死罪になると踏んでいる。

あのとき逆らわずに捕縛されたのは、逆らって戦えば神殿騎士や兵士を何人も殺すことになっただろうからだ。殺された彼らにも家庭があり、みなアギアポールに住んでいる。もし殺したのがギルベルトだと知れ渡ったとしても、彼らは名の知れたギルベルトではなくスラムも憎んだ可能性が高い。スラムへの悪感情を育むわけにはいかなかったのだ。

「『塔』内部で大きな問題が起きれば、地方司祭が大挙してここにやってくる。その機会さえ与えてやれれば彼らは行動力を持っている。今まで教皇はボロを出さなかったんだ——病的なまでに秘密主義でな。大事なことはごく限られた人間にしか明かしていない」

「…… 機会(・・) ね」

ヒカルはつぶやいた。ギルベルトは自分が「塔」の内部で「死ぬ」ことに意味を見いだしている。

(惜しいな……)

ヒカルは正直に思った。この人物は自分の命を捨てることで改革をなそうとしている。そうすることで多くの人が救われると——少なくとも今の教皇を放置するよりもいいと思っているからだ。

理想のために死ねる人間なのだ。ヒカルはギルベルトの声に、死んだウンケンの姿を垣間見た気がした。

「その機会さえあれば、アンタはバカなことをしでかさずに済むってことだな」

「バカなこと、か。まあ、バカには違いない。だが俺にできることは剣を振ることだけだ。その剣でなんとかできるんなら——」

「大量殺戮もいとわないと? はぁ……予想以上だったよ、アンタは。肝が据わったサイコパスとでも言うべきかな」

「な、なんだと?」

「そういった態度こそ気にくわないな。汚していいのは自分の手だけだと、そう言いたいのか? バカバカしい——アンタには英雄願望でもあるんじゃないのか」

「言ってくれるじゃねえか。それならお前になにができる。こそこそ隠れて忍び込むことしかできないお前に」

「ようは機会があればいいんだろう。地方司祭が大挙して聖都を訪れる機会が」

「だからそれがないから——」

「見せてやるよ、『こそこそ隠れて忍び込むおれにしかできないこと』をな。だから、そこで頭冷やしていろ。時が来たら出してやる」

「なに?」

ふー、とヒカルは息を吐いた。

「……乗りかかった船にしては、だいぶ面倒ごとになっちゃったなあ」

すでに「隠密」を発動していたので、ヒカルの言葉は誰にも聞こえなかった。

なにをしたいのか。

そう聞かれたコニアは、こう答えた。

「助けたい」

と。

もう間違わない。助けなければいけない人たちを、全力で助けてあげたい、と。

(いいさ。存分に救ってもらおう。これからこの街は厄介ごとに巻き込まれるからな)

そうしてヒカルはコニアの牢屋へと再度向かった。