軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

獣人王への通知(隠密的発想)

ソウルボードのレベル9で「神」なら10ならどうなってしまうのか。ヒカルの「投擲」はすでに10なのだ。

と、そんなヒカルの動揺には気づかずにセリカは言う。

『時間ないから話進めるわよ』

『あ、うん、それで——九芒星はおかしいんだよな?』

『そう、特別な数字であることは間違いないの。だから、あり得ないとされていた。どう魔法を組み合わせても九芒星は生まれなくて……唯一上手くいきそうだった実験が高レベル「回復魔法」と高レベル「呪魂魔法」の組み合わせだったけれど、2人の術者の息をぴったりあわせることは不可能で、できなかったみたい』

ヒカルは考える。「回復魔法」と「呪魂魔法」、つまり「聖」と「邪」だ。あそこに封じ込まれているなにかはその両方の属性を封印に必要とするなにかなのだろうか。いずれにせよすべては憶測に過ぎない。アギアポールの教会図書館に入れればもうちょっと情報が得られそうではあるが。

『この魔法陣はなんらかの魔法を発動するものなのか?』

『わからないわ……そうかもしれないし、違うかもしれない。大体 あり得ない(・・・・・) って言ってるでしょ』

『それもそうか』

『じゃ、あたしこれで行くから! ——あ、これ 貸し(・・) 1つだからね!』

そう言うと、セリカは王宮内へと走って行った。

「…………」

せっかくアインビストの 首都(ホープシュタット) に来たというのに厄介ごとと謎が増えただけだった。獣人王はビオス宗主国の調停などガン無視でポーンソニアを攻めるのだろう。障害だった要塞都市レザーエルカにはすでに自国の軍が駐屯しているのだから。

しかもさっきの「極虎」メンバーであるヨハン、リーダーであるゴットホルト。ゴットホルトはヒカルから5メートルの距離をしっかり保ってそれ以上は近づいてこなかった。

(アレは間違いなく「直感」持ちだな……)

5メートルの射程に入った時点でそれ以上近づいてこなかった。ヒカルを警戒していたのだろう——その正体に確信がないのだとしても。

高位の冒険者は「直感」持ちが多くてイヤになるヒカルである。最初から「隠密」で近づく以外に対処しようがない。

「ヒカル、謎は解けた?」

「いや……深まったばかりだよ。とりあえず、宿を取ろうか」

ヒカルは獣人王に戦争を止めさせる方法を考えた。数日もしないうちに軍を動かしそうな勢いである。

獣人王がどんな男なのかもわからないではあまりにも難しい。

(まずは時間を稼ごう)

ヒカルはそう、心に決めた。

翌日の王宮——朝早く。「東方四星」はすでに昨日のうちにホープシュタットを出立しており、久々に来客のいない王宮となっていた。こういったときの王宮は、なにか大事の前触れであるのは王宮で働く人間すべてが知っていることだった——たとえば、王位が変わるときであるとか、戦争が起きるときであるとか。

だが、その日に起きたことは大事は大事でもまったく違う大事——危機、だった。

「ほほう、武人がそろいもそろって、朝から王の寝所に集まるとはどういうことか」

亀人族種族の代表である老人がのろのろとやってきた。老人の言うとおり、王の寝所——庭に面した広々とした部屋には完全武装した各氏族の武人が集まっていたのだ。

「チッ」

ベッドにどっかと腰を下ろしている、薄着の男は獣人王ゲルハルトその人である。

「伝令がありましてな、どうも王の身に大事があったと聞き及びましたが……いつも通り壮健でいらっしゃる」

「俺ァ無事だ。それよりそっちだ」

不機嫌そうに獅子のたてがみたる頭髪をがりがりかきながらゲルハルトが見やったのは、寝所に置かれている文机だった。

「ほう。ほほう」

感心したように老人は言って、そちらへ向かう。文机にはダガーが突き刺さっていた——1枚の紙をピン留めするように。

紙にはこう書かれてあった。

——今スグ軍ヲ動カスヲ止メヨ。

拙い文字だが、しっかり読めた。羽根ペンはこの文机に置かれていたものを使ったらしい——おそらく利き手と逆で書いたのだろうと老人は踏んだ。

「これが、王が目覚めたらあった、とそういうことですかな?」

「そうだ。ここにいる脳みそまで筋肉の野郎どもには触らせてねェ」

「何者かが忍び込んだということでしょうなあ」

「ンなこたァわかってんだよ! 問題はそのダガーだろうが!」

黒っぽい刀身のダガーは軍用品だ。通し番号で09と振られている。

「昨晩、詰め所でダガーが盗まれたんだとよ! その数は9本だッ!」

「ほう、ほう。忍び込んだ御仁は——」

「御仁だなんて呼んでンじゃねェぞクソジジイ!」

「——不届き者は、あと8回、忍び込んでやると言っているのでしょうな」

「失態も失態、大失態だ! 今すぐ監視態勢を見直せ! 全員で見直せ!」

ゲルハルトが吠えると「ハッ!」と武人たちは最敬礼して部屋を飛び出していった。

「……して、陛下。なぜこの老体をお呼びになりましたか?」

爬虫類顔である亀人族の老人は、表情が読みづらい。その読みづらさがゲルハルトからするとまた腹立たしい。ゲルハルトが体よく「武人たちを追い出した」ことにも気づいているのだ。

「……わかってンだろ。今いたヤツらの中の、誰かが犯人だ」

「ほう。その心は」

「軍用品を盗むなんて無茶をして、しかも俺の寝所に忍び込む……そこまで腕の立つヤツァ他にいねェ。アイツらはバカだが腕は立つ」

「陛下がご執心だった『東方四星』でしたか。彼女たちかもしれませんぞ? ポーンソニアに攻めて欲しくないようですし」

「バァカ。あんなお子ちゃまどもにできるワケねェだろ。ありゃぁ処女だな。俺ァもっと熟した女がいい」

「生娘かどうかは関係ありませんな」

「……たかだか冒険者がやるにはリスクが高すぎるだろォが。それに手が込みすぎているし、自分たちが疑われるのもわかっているはずだ。アイツらは停戦のためにがんばろうという意識すら見せていなかった。ま、それだけ自分に自信があるんだろうな」

獣人王も、人をよく見ている——老人は感心した。

「では王よ、申し上げましょう。……敵は身内ではありませぬ」

「なにッ」

「このタイミングで王の命を狙う——いや、残り8本ものダガーを残すことで『いつでも殺せる』とうそぶいているあたり、やはり異国人でしょう。ポーンソニアの人間であるという可能性も高いと思いますな」

「……なるほど? 酔っ払った俺でも、枕元に立たれたら気がつくからな」

実のところ、この文机くらいまでの距離が、ゲルハルトが襲撃に気がつく距離だった。犯人はほんとうにギリギリの距離に立っていたということになる。

ゲルハルトと老人は、「犯人は幸運にもあと1メートル獣人王に近づかなかったために、逃げおおせた」と踏んだ。

単なるラッキーをそれとわからずに、「あと8回は忍び込んでやる」と言っているのならば、これは身内が犯人ではない。王の寝所に侵入できるほど内部に精通している身内の者は、王がどれだけ熟睡していても気配に敏感であることを皆知っているのだ。

「……こいつは、また来るか?」

「来るでしょう。せいぜい、盛大に軍備を進めましょう」

「クッ、ククク……ワハハハハハ! いいな、戦争の前哨戦だ! せいぜいネズミには派手に踊ってもらおうとしよう!」

不機嫌から一転して、獣人王は高らかに笑った。

そのふたりの会話すら——忍び込んだ少年に聞かれているとは、気づきもせずに。