軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

着地点の模索

一通り話が終わると、獣人王と亀人族の老人は寝所を出て行き、代わりに小間使いがやってきて掃除を始めた。特にベッドが乱れている——ヒカルがやってきた深夜3時頃には女を数人侍らせて眠っていたので、獣人王たちが こと(・・) に及んでいるところを見ずに済んだのは幸運だった。

カーテンの裏に隠れていたヒカルは窓から中庭へと場所を移しながら考える。獣人王ゲルハルトは眠っていても気配がわかる、みたいなことを言っていたが、実のところヒカルはさらに近づいて寝所の手前まで移動していた。だが、起きなかったのはヒカルの「隠密」はゲルハルトの想定以上だからだろう。

ただヒカルの「直感」がささやいた——どれくらいかはわからないが、できれば接近しないほうがいい、と。おそらくだが、ダガーを使って直接ゲルハルトに危害を加えるまで近づけば、彼は目を覚ますのだろう。確証はないが。

(……やっぱり便利だよな、「直感」。もっと振ろうかな……でもなにかあったときに「筋力量」とか「スタミナ」とか欲しくなるかもしれないんだよな……)

モンスターを倒してお金を稼ぐ、一般的な冒険者らしい「レベリング」が必要なのだがいかんせんここ最近は戦争に振り回されている。その戦争を止めなければ落ち着いてレベリングもできやしない。

ヒカルは直接的な「脅迫」でゲルハルトがどう出るかを確認したかった。圧倒的にヒカルのほうが優位に立っていると見せるために軍用品のダガーを盗んだりまでして、だ。

だが結果としては——当然、と言うべきか——ゲルハルトの態度を硬直化させただけだった。ここからわかったことは、

(ゲルハルトもまた自信家だということだ。あと、かなり強い信念でもってポーンソニア侵攻を決意している……ふぁぁ)

あくびをかみ殺した。とりあえず寝ようと決め、ヒカルは昨日とった宿へと向かった。

その日の夕方——日も暮れるというころに王宮へとヒカルは舞い戻った。開戦準備は着々と進んでいるようで、首都ホープシュタットを出て行く荷車の多いこと多いこと。国旗をはためかせた軍人が運搬するそれらは、戦争に使用する糧食なのだろう。

(糧食を焼いて戦争の発生を遅らせるという方法もあるんだけどなぁ……これやったら、食い止められなかった責任者の首が飛びそうなんだよな。物理的に)

日中、情報収集をしてくれたラヴィアとポーラからゲルハルトの人となりについて聞いていた。性格は苛烈にして温情深い。短絡的に見えて長い目で物事を考えており「賢王」と讃える者も多い。ゲルハルトの激情に触れて死罪となった者も多く、ゲルハルトには敵が多い。——しかしこの「敵」を利用しては、アインビストもまた内乱に突入してしまう。そういう面倒なこともヒカルとしては避けたい。

犠牲なく、戦争を止めるには——獣人王本人が「戦争を止める」と決意しなければならないのだ。その点、直接本人を「脅迫」するという方法はあながち間違っていない。

(確か、次の春に「選王武会」とかいう王座を決定する武術大会があるんだよな。つまりゲルハルトの任期はそこまで。任期中にポーンソニアを叩いておきたかった……ってこと。ポーンソニアはアインビストにとって長年の恨み辛みの対象だから)

ゲルハルト治世時に成長してきたアインビストは、国力も十分、ポーンソニアと戦えるところまできた。ポーンソニアは内乱で衰えている。これほどの好機はもうない、ということか。

(獣人を排除する人族至上主義のポーンソニアを嫌うアインビスト。でもなぁ——ふつうにこの国にも人族はいるし、彼らは差別を受けてるわけでもないんだよなぁ)

なんとなく、「国の建前」と「国民の本音」が食い違っている気がするヒカルである。国民だってもちろん、ポーンソニアが好きではないのだろう。ただ今日稼ぐ金以上の興味は、ないはずだ。隣の国の事情なんて。

(ともかく、材料探しだな)

ヒカルは再度王宮へと忍び込んだ。

「ふう——あと5日で年越しか」

と見回り中の獣人兵が言うと、

「だなあ。お前んとこはどうするんだ?」

タッグを組んで見回りをしているドワーフ兵が応える。

「嫁の実家がこの街にあるからな、そっちに行くことになるぞ」

「おお、そうかそうか。そういや、子どもが生まれたんだったな」

「まあな」

照れくさそうに頬をかきながら獣人兵は言い、腰に吊した鍵束から1つを取り出してカギ穴に差し込んだ。そうしてぶつぶつと小さくなにかを言うと、カギを回す。カギが青色の光を放つと、指先にカチャンという手応えが伝わってきた。カギが開いたのだ。

そこは巨大なコの字型をした、平屋の建物だ。王宮で働く者ならそこがなんなのかわかっている——「宝物殿」である。

獣人兵が先に入り、続いてドワーフ兵が入る。魔導ランプを掲げると、窓のない宝物殿が光にさらされる。赤の絨毯がコの字になって——つまりは建物の真ん中を通すように敷かれている。絨毯の左右には宝物が展示され、壁際には意匠の凝らされた太い石柱が並んでいた。

「おい、施錠はしたか? 見回り中も施錠しておく決まりだろう」

「面倒なんだよなぁ……いちいち解錠と施錠の文言言うの」

と言いながらも施錠のための文言を唱える。今度は扉全体が青色に光って施錠が行われた。

その間にもドワーフ兵が宝物殿全体の明かりを点けた。淡いオレンジ色の温かな光が建物内に満ちる。

ディスプレイされているのは、巨大な剣や槍、兜といった武具もあれば、古びた魔導書もあった。拳ほどの宝石を加工した宝飾品もある。ここに入れるのはごく少数と限られているが、ホコリひとつ落ちていないほどに毎日掃除がされている。

展示されている宝物は途中で途切れる。まだ、宝物殿の途中までしか来ていないのに、だ。しかも1箇所は台座だけあって空白の場所がある。

「……我らが獣人王は、なにを寄贈されるだろうか」

「そりゃあやっぱり剣だろう。ゲルハルト王と言ったら巨大な剣だ」

この宝物殿の特徴は、「選王武会」を優勝した新たなる王が、その任期の終わりに自らの選んだ宝物を寄贈するというものだった。つまりゲルハルトはそろそろ新たな宝物を寄贈しなければならないし、この宝物殿が途中までしか埋まっていないのも当然というわけだ。

各台座には寄贈した王の名前と、宝物の名前が刻まれている。

「剣か……」

「お、どうした?」

しょんぼりとしたドワーフ兵に、獣人兵がたずねる。

「12代前の竜人王が残したあの武器も剣だったろ? 盗まれた(・・・・) アレだよ。ゲルハルト王はそれを気にして剣にはしないんじゃないかなって気がしてな」

その「盗まれたアレ」こそ、空白になっている台座だった。

「これか——確か、ドワーフの技術を持ってしても解析不可能の武器だったんだよな」

獣人兵とドワーフ兵は、空白の台座にまでやってくる。こう、記されていた。

『第64代王 竜人氏族代表 ミヒャエル=ヴァテクス=オルガー』

『聖魔武具:断絶の刃』

ヒカルが、ビオス宗主国の聖都アギアポール——教皇の住まう「塔」の地下で見た、あの聖魔武具だった。