軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

彼と彼女の警戒

ヨハン=コステンロス=イェガーはエルフにしてランクA冒険者だ。エルフは森に住んでいるというイメージがあるが、ポーンドの街にもレニウッドというイナセなエルフがいるとおり、人里で暮らしている者もいる。

ただ、そういったエルフは少数だ。

理由は単純で、エルフは他の種族と交わることで子どもをもうけることができるものの、そのすべてがエルフではなく相手種族なのである。エルフの子どもはエルフ同士からしか産まれない——ごく稀に先祖返りがあるようだが。

長命で、子をなしにくいエルフは、エルフという種族を存続させるためにもエルフだけの集落を作ることが多い。このため、人里にいるエルフは少ないし、いたとしても奇人変人の類である。

「君は冒険者か?」

ヨハンが話しかけた少年は面倒そうな顔をしながら、

「まあ、そうだよ」

と答える。

「俺は彼女——ソリューズと手合わせがしたかった。ああいう、美しい女性はすばらしい。ソウ、強ければなおさらさ」

「ああ、そう」

「だけれど敬愛する獣人王が彼女たちを帰そうとしている……ソウ、とても悲しい」

「そりゃ同情するよ。でもアンタら『極虎』は『東方四星』と戦う相手だろ?」

ヨハンは驚いた。この黒髪の少年はそんなことまで知っていたのかと——であれば自分がランクAであることも知っているだろうし、もうちょっと敬意を見せてもよさそうなものだが。

「戦う相手であることと美しさに関係はないのさ」

ヨハンが言うと、少年は肩をすくめるだけだった。長命のエルフらしくまったく短気ではないヨハンではあったが、さすがにイラついてきた。この少年はソリューズに相手をしてもらえなかった自分と比べて、彼女と親しげに話をしていた——それも影響している。

ちら、と見ると少年の横にはギルドでも騒がれていた回復魔法使いと、人形のように整った顔の少女がいる。少年の仲間だったのか、とヨハンは思い、

「ソウだ、なら君がソリューズの代わりに俺の相手をしてくれよ。俺が勝ったら、そこにいる彼女たちとのデート権利というのでどうだい?」

「イヤだよ。僕になんの得があるんだ」

「俺と戦って、1分以上もったら1万ギランやるよ」

すると少年はまたも肩をすくめた。イラッ、ときたヨハンが口を開く前に、少年が言う。

「ポーンソニアのランクAパーティー『愉快痛快』は知ってるだろ。あそこのリーダー、センクンは、他の冒険者と模擬戦をするときに1億ギランを賭けてるって話だよ」

「い、1億!?」

あり得ない、と思った。ヨハンが今回の従軍でもらえる金額は500万ギランである。実のところ「愉快痛快」は3人パーティーで戦争1回に対して2億ギランが支払われるが、これはポーンソニアが戦力不足なので報酬をはずんだという理由が大きい。

一方「極虎」はリーダーのゴットホルトが軍人であることも災いして、報酬が絞られて5,000万ギランである。さらにはパーティーメンバーが7人なので、必要経費などを引くとさらに1人あたりの取り分は減る。

それでもヨハンの蓄財があれば1億ギランくらい払えるが、それを稼ぐのにどれだけ死線をくぐらなければいけないのかと思うと、おいそれとは出せない——と思っていると、

「……ま、『愉快痛快』と比べるのはよくないことか……」

残念そうにヒカルはつぶやき、それがまたヨハンを苛立たせる。

「ソ、ソウか、それくらいたいしたことない! それなら1億ギラン——」

「なにをしている、ヨハン」

とそこへ声が掛かった——振り返らずともわかる。そこにいたのは「極虎」のリーダーであるゴットホルトだ。

『ヒカル! こっち来てたの!? ……って、なにがどうなってんのよ』

王宮側からもヨハンには聞き慣れない声が聞こえてきた——黒髪の魔法使い、セリカ=タノウエであることをヨハンは知っている。

ゴットホルトはセリカを見て眉をひそめ、セリカもまた警戒心もあらわに歩みを緩める。

それが、ふつうなのだ。戦場で会えば敵同士となる間柄。ギルドで模擬戦を申し込むようなのはふつうじゃないのである——。

「チッ」

ヒカルは舌打ちした。

『一体全体、なんだったのよ』

『大金を稼ぎ損ねただけだよ』

セリカに問われ、日本語で答える。ゴットホルトはセリカを警戒するとヨハンを力づくで引っ張っていったのだ。ということはつまり、1億ギランを再度稼ぐというヒカルの目的は達成できなかった。

「ヒカル……すごく悪い目をしてたわ……」

「そういうヒカル様も素敵ですっ」

ラヴィアが呆れ、ポーラも呆れられるようなことを言っていたが、それはともかく、

「悪かったな、セリカ。荷造りで忙しいだろうに」

「大丈夫よ! 旅なんて慣れたものなんだから! ——あら、ラヴィアは首にファーなんて巻いてるの!?」

「ん、いろいろあった」

ファーとはすなわち児白龍のコウのことなのだが、とりあえずそれは伏せておいて、往来であることもありヒカルは日本語を口にする。

『忙しいだろうし手短に済ませるよ。ちょっと聞きたいことがあるんだ。この魔法陣に見覚えはないか?』

差し出したのは、アギアポールの地下にある大空洞に浮かんでいた魔法陣の模写だ。セリカの反応はてきめんだった。

『……これ、どこで見つけたのよ。理論上はあり得ない魔法陣よ』

『あり得ない……ってどういうことだ? 実際に動いているのを見たぞ』

『どこで!?』

『それに答えるかどうかはそちらの情報次第だな』

『ふーむ……そうね』

セリカは魔法陣を指しながら話をする。ヒカルがのぞき込むと、ラヴィアとポーラも左右から身体を伸ばす。

『あー……説明めんどくさいから日本語でいい?』

『いいよ。日本語なら他の人に聞かれても理解できないだろうし』

『えーっとね、魔法の詠唱に必要な言葉が、魔法陣を省略したものだということはわかっている?』

いやまったく、とヒカルは首を横に振った。

『あの詠唱は精霊に働きかけてるわけだけど、それ以外に、音の響きによって精霊が力を発動しやすい魔法陣を中空に描くことができるのよ。言葉に魔力を乗せるでしょ?』

『僕は魔法が使えないからね』

『あららら、そうだったわねぇ……これは実際にこの魔法陣があるところに連れて行ってもらったほうがいいのではないかしらぁ?』

『そういうのはいいから。連れて行くと言いたいところだけど、そう簡単な場所じゃないという事情もあるんだ』

『ま、そんなところだろうとは思ってた。——で、魔法陣はいろいろな形があるのよ。六芒星であったり、正方形の組み合わせであったり。でも九芒星は「ない」と言われているの』

話の肝はそこだ。

『なぜ?』

『この世界で9というのは象徴的なものなの』

『——武神九道』

真っ先に思い出したのは、神の一柱である「武神」が選んだと言われる武具9種類のことだ。ヒカルの「武装習熟」項目も9種である。

『そうね。それに熟練九段』

『なんだそれ?』

『そんなことも知らないの? 武道場とかで教わる熟練段階よ。魔法にもあるんだけど、それはともかく、修練を積むとある段階で見える景色が変わることがある。その段階を言うの。素人である始級に始まり、巧級、妙級、師級……えーっと、玄級、覇級、超級、聖級、龍級ね。大昔の武道家がまとめたものらしいよ』

『…………』

初めて知ったその事実に、ヒカルは驚きを隠せない。

(まるでソウルボードのレベルと同じじゃないか!)

昔の人間はすでに、ソウルボードの存在を知らないながらも、「レベル」があることに気がついていたのだ。

しかしわからないこともある。始級が素人だとすると、ポイントゼロのはずだ。それを含めて9種類となると、0から8までということになる。

『ちなみにその上は?』

『上、ってなによ』

『龍より上だよ。それ以上に上達したら?』

『そりゃー決まってるでしょ』

にやり、とセリカは笑った。

『神の領域よ』