作品タイトル不明
ソリューズの模擬戦?
「東方四星」がやってきたのは夕方になってからだった。すっかりギルドになじんだポーラと、ポーラのみならずラヴィアという美少女を連れているヒカルに憎々しげな視線が寄せられていたが、ヒカルは涼しい顔でそれを無視していた。
ソリューズがまずやってくると、本日の勝利者らしい「極虎」のヨハンが——どう考えてもレザーエルカに滞在していなければいけないはずのランクAパーティーのメンバーだが——模擬戦を挑む。
ヨハンは、金色の長髪をなびかせた細身のエルフだった。この模擬戦が終わらねば収まらないだろうととりあえず模擬戦を観戦してから話しかけようかな、と考えていると、
「ヒカルじゃない。どうしたの、こんなところで」
他の誰が話しかけても黙殺していたソリューズが、わざわざギルドの隅にいたヒカルのところまでやってきたのだ。
「……おいおい」
さらに周囲の視線はどぎついものに変わった。が、それに気づいたソリューズは楽しそうに笑う——ああ、こいつは故意犯だなとヒカルは確信した。
「これから模擬戦なんだろ。行ってきたら?」
「私の代わりに君が戦うというのは?」
「冒険者ランクAやBの皆様がいるところに僕がお邪魔するわけにはいきませんよ」
と、わざとへりくだって言った言葉にソリューズは気づいたようだ。「ランクA」が今日の相手なのだと。
「ソウ、ソウ! 今日のお相手は俺って決まったんだからさぁ」
見た目は単なる優男——しかも長身イケメンと来てはヒカルも心に苛立ちを覚えるところではあるが、不思議に思えるのはこんな男がどうやって荒くれ者の集まる勝ち抜き戦で勝利したのかということだった。
そんなわけでソウルボードをチェックしておく。
【ソウルボード】ヨハン=コステンロス=イェガー
年齢392 位階68
29
【生命力】
【スタミナ】4
【免疫】
【魔法耐性】1
【毒素免疫】2
【知覚鋭敏】
【聴覚】2
【触覚】1
【魔力】
【魔力量】6
【精霊適性】
【風】4
【土】3
【魔力の理】1
【魔法創造】1
【筋力】
【筋力量】2
【武装習熟】
【弓】5
【投擲】2
【敏捷性】
【バランス】7
【隠密】
【生命遮断】1
【魔力遮断】1
【知覚遮断】1
【器用さ】
【器用さ】5
【道具習熟】
【薬器】3
【精神力】
【心の強さ】2
【信仰】
【邪】4
【呪魂魔法】2
【魅力】1
【直感】
【直感】3
ずるい、と正直に思った。エルフは長寿と言うがこの年齢である。計算してみるとソウルボードのポイントは実年齢に対しておよそ1/10で加算されているようだ。「魂の位階」に関しては人間と同じ入り方だとすると、年齢を重ねたほうがよりいっそうポイントを得やすいということになる。
とはいえ、中身も優れている。「弓」5に「精霊魔法」の「風」4と「土」3ならば陽動を掛けながら戦う遠距離タイプだろう。ソリューズにも「剣」5があるが、魔法を使えるぶんだけヨハンのほうが強そうだ。
「呪魂魔法」も気になるが、これが「邪」ではなく「聖」にポイントが振ってあったらどこまでもいけ好かなくなってしまうのでヒカルとしてはいいバランスだと思ってしまう。
ちなみに他の冒険者たちについても見てみたが、いちばん優れている冒険者でも「武装習熟」や「精霊魔法」で3がせいぜいだ。ここには掃いて捨てるほど冒険者はいるというのにそれでも3まであるソウルボードは4人ほどしかいなかった。代わりに、と言っていいのか、「筋力量」は他の街で見る冒険者よりいくぶん多いようだ。
(ん……?)
ヨハンのソウルボードを眺めていたヒカルだったが、妙な感覚があった。見慣れたソウルボードのはずなのだが、見え方が少し違う気がしたのだ——。
「ああ——君が今日の私の対戦相手なんだね。『極虎』のヨハン殿とお見受けするけれど?」
「ソウ! 俺のことを知っていてくれたなんてうれしいなぁ!」
「はは……私よりランクが上位の、格上じゃないか」
苦笑したソリューズだったが、
「実は、今日は模擬戦はできないんだ」
「……へ?」
「王宮の荷物をまとめているところでね、今日をもってこの国を出る」
「————」
ぽかーん、と口を開けているヨハン。途端に周囲がざわつく——残念がる者もいれば、ランクAに怖じ気づいたのかとがなり立てる者もいた。
「国王陛下は私たちに不満があったようで、お目に掛かった今日、出て行けとおっしゃった」
なんだって? とヒカルはその言葉に疑問を覚える。わざわざ呼び出しておいてなんなのか——もしや軍事行動を早めたいから、とか?
考えているとソリューズは一度ちらりとヒカルを見て、
「というわけで、ギルドには私たちの所在を伝えなければならないんだ。これから王宮に戻ってパーティーメンバーとともに行動する。……ヨハン殿、とても残念だけれど」
「ソウ、ソウ! 残念だよ……。ソウ、とても……でも、我らが敬愛する王が言われたのなら仕方ない……」
ほんとうに泣きそうな顔で、肩を落とした。「ではね」とギルドのカウンターに行き、ソリューズは出て行く旨を伝えると受付嬢はちょっとだけホッとした顔をしていた。「ようやくこれで皆さん依頼を受けてくださいます」とぼやき、ソリューズも「ごめんね」と謝っていた。どうやら「東方四星」騒ぎはギルドの運営にまで影響していたらしい。
ソリューズは名残を惜しむ声に手を振りながらギルドを出たところで、
「——というわけで、ヒカルくん。王宮までちょっと話をしようか?」
すでに外に出ていたヒカルたちに話しかけたのだった。
ソリューズが語ったところでは、こうだ。国王に呼び出されたと言っても着いたその日に会えるものではなく、各氏族の代表が招待するパーティーに顔を出していたらしい。特に敵意はなく、彼らは純粋に「東方四星」の武力がどれほどのものなのか興味があったようだ。
戦争中に相手の能力を聞くなどというのは常識ではあり得ないことだが、彼らにとっては「至極当然」らしい。この国では「強い者が偉大な者」という価値観があり、その次には「強さとは弱きを助ける者」というポリシーが来る。模擬戦を挑みまくった冒険者たちにもその考えは浸透している。
だがもちろんソリューズたちは警戒する。のらりくらりと話していたが、ついに今日、獣人王に呼び出しを受けた。
——おゥ、セリカとやら。おめェが「日輪の魔法使い」か?
いきなり、そう問うてきた。
——違うわ!
即答だ。
——おゥ、サーラとやら。おめェが「影の竜殺し」か?
次に視線が向かったのはサーラだ。
——違いますよぉ。竜なんて殺せませんて。
獣人王ゲルハルトは腕を組んで瞑目した。沈黙が1分ほど続いてから、会見はいきなり中断となり、悪魔系人種である諜報部のお偉いさんが国王とともに陰に引っ込んで怒鳴られていた。
それからゲルハルトは出てくると、
——「東方四星」よ、大儀であった。もうポーンソニアに帰っていい。
それで、面会は終わりとなったらしい。
ヒカルはため息をつきたいところだ。驚くなかれ、獣人王が探しているのは自分とラヴィアなのだ!
「……獣人王は『日輪の魔法使い』と『影の竜殺し』がセリカとサーラなんだと思っていたのか」
「そうなるわ、面白いことに」
セリカとサーラが気の毒ではあったが、ヒカルとしては自分たちまで探られていないとわかってホッとした。
「さて、と——あそこから先が王宮だから部外者は連れて行けないんだ」
ソリューズが立ち止まったのは、王宮の城門から真っ直ぐ伸びている通りの上だ。100メートルほど先に跳ね橋があり、その先に巨大な門がある。あれが王宮だろう。
「ソリューズ、すまないが、ちょっと頼まれてくれないか?」
「なに、珍しいこともあるものね。君から頼み事なんて」
「セリカに聞きたいことがある。呼んできて欲しい」
「ふうん——いいよ」
にこりとソリューズは笑った。
「その代わり、 彼のお相手(・・・・・) よろしくね?」
「そう来ると思ったよ……」
王宮へ向かうヒカルたちの後からついてきている人物——彼がいたのだ。
「ソウ、少々話があるのだけどね」
ランクA冒険者パーティーにしてエルフである、ヨハンがやってきた。