軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇夜に光る星

ヒカルがポーラとともにギルドのロビーに戻ると、冒険者たちから一斉に視線を浴びた。ヒカルが無傷で戻ってきたから驚いている者、「なんだ、もう降参したのか」と勘違いしている者など様々だが、ヒカルが模擬戦に「勝った」と思っている者は誰もいないようだ。

「ヒカル、これ」

ラヴィアがパーティー申請用紙を書き終えていた。冒険者たちの視線は無視してそれを受け取ると、

「ヒカル様、パーティーの申請ですよね? こちらで承ります」

話を聞きたくてしょうがなさそうなグロリアがそこにはいた。彼女は訓練場からのけ者にされていたのだ。

「あー……朝の忙しい時間帯なのに、ブースで? カウンターはいいのか?」

「どうせジルちゃんも戻ってくるでしょうし、サブマスターも来ますから。ほら」

奥からサブマスターが出てきてカウンターの冒険者に対応することになった。「どうして私がこんなことを……でもランクAが来ていると言うし……」とかブツブツ言っているあたり、グロリアに無理矢理引っ張られたのだろう。

ブースに落ち着くと、ヒカルはまずパーティー申請用紙を確認した。名前と年齢、登録したギルド名と、パーティー名だけの簡単なものだ。

「……ラヴィア、このパーティー名『ヒカル』っていうのは?」

「ヒカルのパーティーだから『ヒカル』」

「おかしいだろそれ」

「すばらしいと思います!」

「ポーラは黙ってて」

確かに、パーティー名については特に相談していなかったが、「ヒカル」はひどい。

「パーティーリーダーの名前をそのままパーティー名にするケースは……まあ、なくはないですね」

と、グロリア。やっぱりレアらしい。

「その場合リーダーが自己中心的な方が多いですが」

ぷぷ、と笑っている。漏れてるぞ。黒さが。

「では、どうするの?」

「んー……そうだな」

ヒカルは首をひねる。暗躍するときに名乗っているのは「 白銀の貌(シルバーフェイス) 」だから、それとは違うもののほうがいい。

ただヒカルたちの行動パターンとして、陰からこっそり、というのは変わらないだろう。だとしたら、

「『新月』」

「……新月、ってあの新月?」

「そう。月明かりのない夜」

「それなら——『新月明星』にしない?」

「僕は構わないが、一応理由を聞いても?」

「暗いだけでは希望がないわ。明星ならば光を放っているでしょう——わたしにとってのあなたのように」

ラヴィアはこうして、人前でも恥ずかしいことを平気で言ってくることがある。

「すばらしいです……!」

なんにでも賛成しかしないポーラがやっぱり賛成した。恥ずかしさはあったがラヴィアがどうしてもと言うのでパーティー名は「新月明星」になった。

(僕はラヴィアに甘すぎるかもしれない)

と思うのだが、悪い気はしなかった。

「ではパーティー名はこちらで登録しておきます」

「ああ、よろしく。それじゃ」

「——それじゃ、ではないでしょう?」

立ち上がろうとしたヒカルの腕をグロリアがつかむ。にっこりとしつつも有無を言わせぬ迫力である。

「あー……ラヴィアとポーラは、受けるクエストを見繕ってきてくれないか? どうやらグロリアさんは僕に話があるらしい」

「わかったわ」

「はい」

ヒカルを信頼しているのだろう、ラヴィアとポーラはグロリアの相手をヒカルに任せて依頼掲示板のほうへと行く。

「それで——ヒカルさん、『愉快痛快』の皆様となにをしたんですか」

「あとでジルさんに聞いたらいい。二度手間だろ?」

「む……。ではラヴィアさんですが——彼女は」

「うん。モルグスタット伯爵令嬢だよ」

ヒカルがあっさり認めるとは思わなかったのか、グロリアは薄い目を見開く。

「もう、誰も気にしていないだろうけどね」

「彼女が……その、伯爵を殺めたのではないのですか?」

声を極限まで潜めて聞いてくる。

「違う」

「ほんとうですか?」

「絶対に違う」

「確証があると?」

「あるよ。真犯人をラヴィアは目撃しているし」

「なるほど……ヒカル様はラヴィア嬢の言葉を信じると。ちなみにどうやって彼女は消えるように護送中、いなくなったのでしょうか?」

「そういう魔法で召喚されたと言っていたかな。詳しくは僕も知らないよ。街を出ているときに彼女に出会っただけだから」

「ヒカル様が東の湖で出会ったという狩人たちと関係が?」

ああ、そう言えばそんな「設定」をしていたっけ、とヒカルは思い出す。急速に冒険者ランクを上げるのに、「自分で倒した」と言うより「別の人間から買った」と言って依頼達成素材を納品するほうが楽だったのだ。

「彼らについては口止めされているから言えないな。ギルドだって探したんだろ?」

「ええ……見つかりませんでしたが」

それはそうだろう。いるはずもないんだから。

「それで、グロリアさんが知っているラヴィアについての続報というのは?」

「……先ほどヒカル様のおっしゃったとおり、ラヴィア嬢を気にしている貴族はほぼいないですね。モルグスタット伯爵の血縁者が探していましたが、それは犯人を挙げることで伯爵の遺産をより多く受け継ごうという魂胆だったようです。あの後、伯爵の派閥は侍従長に多くが吸収されたと聞いています」

「なるほど」

すばらしく役に立つというわけではないが、知っておいて損はない情報だった。

「それで——ヒカル様が『古代神民の地下街』を踏破したというのはほんとうですか?」

「たまたまダンジョンにいたガフラスティ=ヌィ=バルブスと知り合って、彼が探しているものを見つけたから渡しただけさ。その後、ダンジョンは崩落した。バルブス子爵は目的の品が見つかって満足したので、僕にダンジョン踏破の称号をくれたというわけ」

「…………」

グロリアが目をさらに細める。どうとでもとれるウソだが、記録は残っているのだ——ダンジョンを踏破したのを認めたのがガフラスティだと。

「バルブス子爵に確認してもらっても構わないよ」

「できないことがわかってて言ってますよね? 内乱のど真ん中ですよ?」

「質問は以上かな?」

「あとひとつだけ——今回のクジャストリア王女とオーストリン王子の争いの陰には、バルブス子爵がいると言われています。ヒカル様のしたこととなにか関係が?」

「教えられることはあるけど、知ったことでグロリアさんの身が危険になるかもしれない」

するとグロリアはにこりと——満面の笑顔を浮かべた。

「ギルドの受付嬢ですよ? 世界の真相を知らずに長生きするくらいならば、知って死ぬ道を選びます」

それはヒカルとて一瞬見とれるような、それほどに美しい笑顔だった。

「——わかったよ」

そんな顔をされたら話さないわけにはいかない。グロリアは、ジルにラヴィアのことを黙っててくれた借りがある。

この人は情報中毒なのかもしれない、とヒカルは考えた。めっちゃキラキラした目でヒカルを見ている。

「話すけど——代わりにひとつお願いがある」

「他言無用ですね。わかっています。ジルちゃんにも知られないようにします」

「話が早いことで……。じゃあ、話すけど、『古代神民の地下街』は——」

ヒカルは順を追って説明した。

あのダンジョンはポエルンシニア王朝の王都であったこと。ガフラスティは王朝の末裔であり、本来ポーンソニアの王族となるべきであること。ヒカルが発見したのは王朝の「系譜」で、王族が持つことで反応するもの——つまり正統な王族を判別できる代物だった。そしてクジャストリアはバルブスの遠縁に当たるために、ガフラスティが担ぎ上げたこと——。

グロリアは疑問を挟まずに最後まで聞いていたが、話が終わると、

「ちょ、ちょっと、情報を消化する時間が必要なようです」

立ち上がり、奥へと去って行った。鼻を押さえていたがちらりと血が見えた。

「興奮しすぎだろ……」

ヒカルはさすがに呆れた。

「あの受付嬢は信用できるの?」

街の外で、冬にしか咲かない希少な花を探しながらラヴィアがヒカルにたずねた。ラヴィアとポーラのランクを上げるためのクエストである。

ちなみにヒカルのランクアップについてはグロリアがいなくなってしまったものの、クエスト受諾のタイミングでサブマスターが気づいてくれた。ヒカルはランクDに上がった。

ランクGのラヴィアとポーラについてはさっさとEまで上げたかった。ランクEからできるようになることが多いのだ。ダンジョンに入ることもそうだし、国境を越えるのも手続きが簡単になる。

「グロリアさんは、信用はできないけど、打算がある限りは味方になってくれると思う。まあ、知られてまずいことは話してないし、なにかあれば僕のために情報を集めてくれるだろう」

ラヴィアについての続報もそうだ。貴族の動向いちいちをヒカルは捕捉できない。その点、冒険者ギルドの受付嬢のほうが情報は入ってくるだろう。

「ヒカル様、あそこに花が咲いています」

「お、ほんとうだ。ポーラはよく見つけるなあ」

先ほどからポーラだけがクエストの花を見つけていた。

「えへへ……田舎で育ちましたからね。山の中で食べ物を見つけるのは得意なんです。それに、こんなふうにモンスターを気にせず動けるなんて——」

言いかけて、ハッと口を閉ざした。

「あ、その、いいえ、なんでもないですっ!」

「——ま、確かに不思議だよな。僕と手をつないでいればモンスターに気づかれないなんて」

それは「集団遮断」の効果だった。グリーンウルフなど気配察知に敏感なモンスターがいるので、先ほどからずっとヒカルは右手をラヴィア、左手をポーラとつないでいる。

ラヴィアにも「隠密」系のスキルはあるが、ヒカルが【上級天ノ遣神:グレーターエンジェル】を使って「隠密神」を入れた「集団遮断」のほうが効果が高いのだ。

ちなみに【上級天ノ遣神:グレーターエンジェル】になったことで 5つ(・・) の「職業」を重複して使用できるようになっていた。「隠密」「投擲」「広域探知」のローグ3点セットに、【森林散歩神:フォレストウォーカー】と【広域市民町民村民救済神:シビリアン】を追加した。【暗殺神:ナイトストーカー】と【天道探求神:罪深き者】は物騒だし、【凡混沌神:台風の目】には懲りているし、【迷宮探査神:ダンジョンウォーカー】は意味がなさそうだし、【凡市街地夜盗神:タウンシーフ】は気分がよくないので消去法だ。

ポーラは、ヒカルの能力の秘密がトップシークレットだと考えていたし、実際そうだ。だからそれを探るような真似を慎んでいるということだろう。

(にしても……そこまで警戒しなくても、いいと思うんだけど)

そんなことを思いながら、素材を集めた。

休まずコツコツと続けた甲斐もあって、4日後にはランクFの一歩手前まで来ることができた。ランクFの昇格には「2つ以上の冒険者ギルドをつなぐ依頼を受けること」という条件があるので、明日は王都への「配達」依頼を受諾する予定だ。

センクンから1億ギランの入金もちゃんと行われていた。

残:1,402,889ギラン(+111,550,000ギラン)