軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

センクン・ランクAとの模擬戦

冒険者ギルドの訓練場は、単に屋根があるだけの施設だった。ランクAの模擬戦ということで見学希望の冒険者が殺到したが、ヒカルの希望ですべてシャットアウトしてもらった。関係のない冒険者にまで手の内をさらすつもりはない、というのがヒカルの考えだったが、冒険者たちは逆にとらえた。「あのガキは無様な負けっぷりを見せたくないんだろう」、あるいは「なにか卑怯な手を使うところを見られたくないんだ」と。

そのため、訓練場にいるのはセンクンとヒカル、それにセンクンの仲間であるエルフのギリアムに、大男のナーゴ。ヒカルのパーティーメンバーであるラヴィアはパーティー申請の用紙記入のためにロビーに残ったが、ポーラにはついてきてもらった。万が一 やりすぎた(・・・・・) とき、ポーラの回復魔法が必要だと思ったからだ。

あとは5人、1人は立会人のジル——顔は真っ青——で、あとは東方四星の4人だ。

「ひ、ヒカルくん、ほら謝って!」

「それはもういいから……始める前に言いたいことがあるんだけど」

「謝罪ね!? 謝罪よね!? 誠心誠意謝るのよ! あたしも付き合ってあげるから!」

「だから違うって……」

げんなりしながらヒカルは、訓練場の隅を見る。壁際に並んでいるのが東方四星の4人だ。

「ランクAのお仲間が余計なことしないように、見ててくれ」

「……おい、お前。オイラがあいつらに加勢させるとかそんなくだらないこと考えてるのか!?」

「ま、可能性はつぶしておきたい。いきなり仕掛けてこられたら僕だって手加減できないし」

ヒカルは腰に差したリヴォルヴァーを確認する。なにかあってもこれをぶっ放せばどうとでもなるという武器である。アースドラゴン亜種よりもギリアムやナーゴの生命力が高ければどうにもならないが、さすがにそれはないだろう。

「ほ、ほぉ〜う……お前、マジでランクAがどういうもんかわかってねーみてぇだな?」

ブチ切れ過ぎてセンクンの頬が引きつっている。

「それはすぐにわかるんだろ? ——ジルさん、始めてくれ」

「ヒカルくん……」

ジルはもう泣きそうな顔だった。彼女の中ではまだまだヒカルは駈け出しの冒険者なのだ。「古代神民の地下街」を踏破したことすら「なんらかの間違い」と思っている。

誤解を解くのではなく、むしろ誤解するように積極的に仕向け、それを利用してきたヒカルも悪いのだが。

「すぐに、すぐにポーションを手配するから……ね……死なないでね……」

ジルは向き合うヒカルとセンクンから離れていく。そして泣き声で告げる、「始め」と。

「…………」

「…………」

だが両者動かない。

「……どうしたクソガキ。ランクAを前にビビッたか?」

センクンが煽ってくる——が、ヒカルには見えていた。

彼は先ほど、ヒカルより先に訓練場へ向かった。ヒカルが後から入っていく形になったが、それまでこの訓練場は無人だった。

その間、5分がいいところだろう。

その5分ですでに「仕上げ」が終わっていた。見事というほかない——ヒカルの「魔力探知」にはハッキリと見えているのだ、トラップが。

センクンの周囲5メートル範囲に点在する地雷型トラップ。中空には極細のワイヤーが張り巡らせてあり、それもまたトラップ発動のきっかけになるのだろう。

「ははぁ? お前、オイラたちがどんな力を持っているか知ってるんだな? ほら、かかってこい。ここに罠はないぞ」

模擬戦用の刃をつぶしてある剣を持って右に左にステップするセンクン。自分がどこに罠を仕掛けているのか100%理解しており、無造作に動いているように見えてどのトラップも踏まない、ワイヤーにも触れない動きだ。

「すごいな。ほんとうに罠がないように見える」

ヒカルは素直に感心した。

「……だからないって言ってるだろ」

「ここまでうまく隠蔽できたらほとんどの人間も、モンスターも、察知できないよな」

ヒカルは「魔力探知」は3だ。これを1段階落とすと、もうトラップは見えない。今まで「魔力探知」3の人間を見たことがないのでセンクンの罠はヒカルの知る範囲では誰も見破れないことになる。

「そうか——お前、罠を見破ることに自信があったんだな? だからオイラとの勝負を受けた——そういうわけか!」

「違う」

「じゃあなんなんだ」

「アンタに勝つ自信があった」

そしてヒカルが懐から取り出したのは革袋。

そこにはいくつもの石ころが詰まっていた。

センクンは、自分の戦い方が「特別」であり、誰にも真似できないことを知っていた。マンノームの里でも自分より強いヤツはいっぱいいたが、実際に戦って自分に勝てるヤツはいないと思っていた。

どの種族も、どのモンスターも、自分のトラップを見抜いたヤツはいなかったのだ。

ランクAというのは伊達ではない。数々の修羅場をくぐってきた。どんなピンチでも自分のトラップだけは裏切らず、あらゆる敵から自分を守ってくれた。

「な、なんで……」

センクンは今、目の前で起きていることが信じられない。

「5つ目」

黒髪の少年——威圧感も迫力もないヒカルという少年が、ぽいぽい石を投げると、センクンが張り巡らせたトラップの1つ1つに確実に命中し、トラップが発動していくのだ。

身動きを止めるもの、爆発を起こすもの、雷撃がほとばしるもの、精霊魔法を消去するもの——様々だ。そのどれも、高価な触媒と複雑な術式を施した魔術トラップである。

「ほい、ほい」

石を投げるヒカルは異常だった。トラップを見抜いただけならまだしも、投げる石という石のすべてが、トラップのど真ん中に命中するのだ。命中率がどうのという次元ではない。これにはセンクンだけでなく、見学している面々も驚愕している。

「あとはワイヤートラップだけか」

地面のトラップがすべて消えると、ヒカルは極細のワイヤーに向けて石を投げつける。まさかと思ったが、これもまた確実に命中させる。

最後の2本が残るとヒカルは舌打ちする。

「あーあ、あと1つしか石がないな……まあいいか」

ひょい、と無造作に投げると——1本目のワイヤーを切り、そのまま2本目のワイヤーを切った。バチバチッと麻痺のトラップが発動して、消えた。

「あとは……アンタだけだな」

黒髪の少年が一歩踏み出す。

「ひっ」

センクンは彼が悪魔なのだと考えた。邪神の手下である悪魔でなければ、このような真似はできない。

「く……お、オイラはランクA冒険者のセンクンだぞ!」

「知ってる」

足が萎えて、その場に座り込みたいと思ってしまう。

ヒカルはまったく臆するところなくこちらに歩いてくる。

「なら——最後の手段!」

センクンが模擬剣に手をかざす。手のひらに包み込まれていたのは魔術の仕込まれた霊石。その触媒を模擬剣になすりつけていくと、魔術的な光を発する。

「!」

ヒカルがそれに驚き、足を止める。先ほど言っていたとおりヒカルにはもう「石」がない。

センクンのやろうとしていることは、武器にトラップをほどこすこと。トラップを相手に叩きつけて発動させるつもりなのだ。投擲することに自信はない。

付与したトラップは「大爆発」。確実に相手にぶつければ、自分もろとも相手を爆破することができる。

「おい、それは——」

「うおおおおおお!」

相手を倒すために手段を選ばない——センクンの装備品は見た目こそ単なる冒険者のそれだが、裏地に魔術を付与してあることで防御力を高めている。大ケガはするだろうし一歩間違えれば死ぬ。だが、そこに迷いはない。

「はい、そこまで」

「それな」

「!?」

だがセンクンを止めた2人がいた。

ギリアムとナーゴだ。

「お——おい、なんだよお前ら!? 今はオイラの模擬戦中——」

「これのどこが模擬戦なのかっつーの」

「それな」

横やりを入れられたヒカルだったが、

「やっぱりそれ、相当ヤバイヤツなんだ?」

「そりゃーそーよ。センクンがマジセンクンたるゆえんっていうの? この魔術でブルーワイバーンを倒してるんだから。やー、あんときはマジ死ぬかと思った、センクンが」

「それな」

ギリアムが止めなければ大きな被害が出ていた、ということだろう。

「ま……いいや。妨害が入ったってことは僕の不戦勝だろ?」

「ふざけんなよ! このままナメられたまま終われねーから!」

センクンがわめくが、ギリアムは、

「落ち着けよセンクン。この黒髪、マジやべーんすけど? 腰に吊ってるあれ、激ヤバの魔力反応」

「それな」

「……なんだって?」

ヒカルが軽く顔をしかめ、腰のリヴォルヴァーをマントで隠す。図星である。

「クソ……トラップつぶすだけの能じゃねえってことかよ」

センクンはその場に座り込んだ。

「……負けだ。オイラの。ここまで清々しく負けたのなんて初めてだよ……」

本気で負けを認めた。

「アンタの本領はトラップだ。こんな急造のトラップじゃないのをいつもは使ってるんだろ?」

「そこまで見抜かれてんのかよ! あーあ、イヤになるぜ……ったく。お前、名前は」

「ヒカル」

「ランクは? B……ってことはねーよな。だったら知ってるし? Cか?」

「いや、Eだけど」

「…………もう一度聞く。ランクは?」

「ランクE」

センクンがじろりと冒険者ギルド受付嬢のジルをにらみつける。ぶるっと震えながらもジルはこくこくとうなずく。

「おかしいだろ! こんな化け物がランクEとか、ギルドはどうなってんだよ!」

「す、すすすみません!」

「ジルさんを責めるなよ。酒癖も悪いし人を見た目で判断しがちだし愚痴っぽいけどそこそこ真面目に仕事してるんだぞ」

「ヒカルくん、それなんのフォローにもなってないんだけど!?」

ジルが涙目で叫んだ。

「チッ、まあいい……そんじゃ1億ギランだったな。持ってけよ」

「案外素直に渡すんだな」

「男に二言はねえ。そのくらい払うのもわけはねーし。麗しの黒の君はお前に譲る」

「……いや、もともとアンタのものじゃ……まあいいか、セリカのことはどうでも」

「どうでもいい扱いにするとはいい度胸じゃない!」

壁際でセリカが言っているがヒカルは無視。

「——ところでアンタに聞きたいんだけど、マンノームか?」

「そうだが」

「ウンケンさんは知り合いか? 名前が似ているから」

「!」

ぴくりとセンクンが反応する。

「……里じゃあ有名な凄腕だったよ、あの人は。オイラは里がイヤでさっさと出てきた口だから、そんなに知らないけど。——とはいえ、あの人がこの国にいるって聞いたからこの国で冒険者をやろうって思ったんだけどな」

「そうか。それじゃあカグライは?」

「お前、仮にも一国の皇帝を呼び捨てにするなよ……。あの方はオイラの遠縁に当たる」

「! そうなのか?」

「ああ。今でもたまにお目に掛かるが——あの方のことをお前は知ってんのか?」

「……いや、知らないよ」

「だろうな」

当然知らないだろうとセンクンは思った。カグライはマンノームの中でも抜群に頭の回転が早く、神通力でも持っているのではないかというくらいの頭の良さだった。

マンノームでもクインブランドの中枢にいる一族にして、エリート中のエリートなのだ。

「じゃ、僕らは行くよ。——ポーラ」

「あっ、はい!」

去っていくヒカルの背中に、センクンは言う。

「オイラはまだまだ発展途上だからな! 次に会うときにはお前には見破られないトラップを作ってやる!」

ヒカルはそれには答えず、ひらひらとただ手を振っただけだった。

「……ねえ、サーラ」

ソリューズは横で同じように見学していた仲間にたずねる。

「あのトラップ、確認できたかい?」

「んにゃ〜見えなかったねえ。なにかあるな? っていう感じはしたんだけど……ヒカルくんほどハッキリは見えなかったなあ〜」

「そうだよね……。ヒカルくんのことだから、なにかアイディアで勝てると踏んで勝負したのかと思っていたのだけど……」

「まさか正面突破するとは思わなかったよねえ〜」

あはは、と笑いながらもサーラの目は真剣そのものだった。